安藤隆人
「似ているだけで終わらせない」。憧れで理想の父・中村憲剛のその先へ(中村龍剛/日大藤沢・1年)|2世選手のリアル
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
近年、日本代表やJリーグで活躍したレジェンドプレーヤーを父に持つ、“2世選手”が育成年代の強豪チームでプレーするようになっている。特別なバックグラウンドのある彼ら独自の思いや考えに迫り、サッカー界で上を目指す選手たちの等身大の姿を伝える企画「2世選手のリアル」。第1回は日大藤沢高校の1年生、中村龍剛(りゅうご)に焦点を当てる。“猫背”で全体を見回し、守備網を切り裂くスルーパスを出す。その背中には父・憲剛と同じ14番が──。お手本であり、理想でもある川崎のバンディエラとうり二つの青年は「名選手の息子」という宿命を受け入れながらも、熱い野心を抱いている。
父・憲剛との上質な対話
一言で言うと、非常に似ている──。
中村憲剛という今も愛されてやまない偉大なフットボーラーを父に持つ中村龍剛のプレーを見れば見るほど、そう思う。
現在、日本大学藤沢高校(以下、日大藤沢)の1年生である龍剛のポジションはボランチ。神奈川県リーグ2部・第10節の日大藤沢Bと三浦学苑との一戦に、龍剛は日大藤沢Bの14番を背負って先発出場。GKからのビルドアップの際にボールを積極的に受けては横パス、縦パスを駆使してチームのベクトルを前に向けていた。前半には糸を引くようなスルーパスを通して決定機を2度演出。後半アディショナルタイムには自陣からサイドチェンジを出すと、そのままゴール前までスプリントし、右サイドからの折り返しをスライディングでゴールに押し込む。リーグ戦の初ゴールを決めて、4-0の勝利に大きく貢献した。
「ゴールは常に狙っていましたし、守備でもゼロで抑えることを意識していました」
龍剛は試合を振り返り、笑顔を見せた。足元を支えるMIZUNOのモレリアのスパイク、少し猫背気味の立ち姿、常に首を振って全体を見渡す素振り、ボールをピタッと止めてからパスを通すフォームは、父とうり二つ。その感想を伝えると、龍剛は素直な思いを口にした。
「お父さんに似ている自覚はあります。実際に『似ているね』とよく言われますし、それは僕にとってポジティブな評価だと受け止めています。自分で言うのもなんですが、お父さんはかなりすごい人で、ずっと僕の憧れ。そう言われるのは、かなりうれしいです」
小さい頃から父のプレーを誰よりも間近で見続け、小学校高学年から「一番やりやすいと思ったポジションだった」と、父と同じボランチに楽しさとやりがいを見出したことで、自然と目線は父の動きを追うようになった。
「どこにパスを出すのか、どこを見ているのか、から始まって、『この蹴り方だったらこういう回転で、ここに飛ぶな』とより考えながら見るようになっていました」
龍剛にとって父は最高のお手本で、理想の選手だった。血のつながりに加え、父の頭の中をも覗こうとするようになったことで増えたのは、父との会話だった。
「よく2人で映像を見ながら意見交換をするんです。『ここはここだったよね』とか、『立ち位置をこうすれば良いんじゃないかな』などよく話しています」
子どもに対して熱心なのは、親であれば当然のこと。ましてや自分と同じサッカーをやっているとなると、その熱量はかなりのものになる。しかし、それが時として親が子どもを縛りつけてしまう『過剰教育』になったり、親の意向を反映させようとする思いが強くなり過ぎた結果、子どもの自我を奪ってしまったりすることは社会問題としても存在する。
だが、まさに“諸刃の剣”であるこの熱量の見せ方が絶妙で、かつ自分をリスペクトしてくれていると龍剛は口にした。
「よく田中碧さんや三笘薫さんがフロンターレにいた時に『憲剛さんがアドバイスをくれるタイミングが絶妙』と言っているのを見たり聞いたりしていたのですが、まさにその通りなんです。『何か悩んでいないか?』と聞くわけでもなく、自分の中でうまくいかず、もがきながら打開策を考えている時に、何気なく『こうした方がいいんじゃないか』と言ってくる。たぶん自分で考えさせたうえでアドバイスをくれるので、僕もスッと受け入れられるんです」
似ているだけで終わらせない
もちろん、いいことばかりではなかった。中村憲剛の息子であるがゆえに、試合会場や試合中、学校の中でも変に興味を持たれてしまう存在だった。
「これは今でもなんですが、アップの前やアップ中に『あ、あれ中村憲剛の息子だぞ』と言われたり、試合後に『中村憲剛の息子、大したことないな』と言われたりします。他にも『親のお金でサッカーしてんじゃねぇ』とか、『恵まれていていいな』とか辛辣なことも言われたりします。学校でもあまり仲良くない人や知らない人にも『息子なんだよね』といきなり言われたり、『息子だから〜(ネガティブな言葉)だよね』と言われることもあります。ずっと続いているので、もう慣れたというか、いつか見返してやると思っていますし、『自分は自分』と考えています」
名選手の息子である宿命は受け入れながらも、それはあくまで外部の声として受け止め、尊敬する父の姿を真っ直ぐに見つめて言葉に素直に耳を傾ける。そのうえで成立した会話が長年積み重ねられてきたからこそ、プレーや思考が似てくるのは、ある意味で必然だった。
「似せたというより『似ちゃった』のではないかなと」
穏やかな笑顔でこう口にする龍剛だったが、この後に続けた言葉が本心を示すものだった。
「でも、似ているだけで終わらせたくないんです」
正確なトラップとパス、全体を俯瞰で見る力を持つ龍剛は一体なにで違いを生み出そうとしているのか。
「これから先、お父さんができなかったことを自分ができるようになりたいんです。お父さんは攻撃で違いを生み出せる選手だったので、僕はそこを参考にしつつ、守備もできるようになりたい。シンプルな球際の強さもそうですし、シュートブロックもそうですし、チームがうまくいっていない時に守備でもチームを引っ張れるなど、攻守において存在感を見せることが高校3年間の目標です」
父と似ていることを嫌がるのではなく、誇りとして受け止める。むしろ似たうえで、そのさらに上を行く。深く結びついた親子の絆と、フットボーラー同士としてのリスペクト、そして父を超える野心を胸に刻んで──。中村龍剛は自分の信じる道を突き進む。