安藤隆人
「右足を磨きなさい」。父・藤本淳吾の薫陶を受け、長所を特出した武器に(藤本歩優/日大藤沢・2年)|「2世選手のリアル
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
近年、日本代表やJリーグで活躍したレジェンドプレーヤーを父に持つ、“2世選手”が育成年代の強豪チームでプレーするようになっている。特別なバックグラウンドのある彼ら独自の思いや考えに迫り、サッカー界で上を目指す選手たちの等身大の姿を伝える企画「2世選手のリアル」。第3回は日大藤沢高校の2年生、藤本歩優(あるま)に焦点を当てる。両足を遜色なく扱う選手が増加する中、利き足を徹底的に磨き上げていく。それが己の確固たる武器になり、かけがえのない財産になる。父・淳吾のようなキックで魅了する選手を目指し、日々鍛錬を積む。
臨機応変な右足のボールタッチ
2024年8月10日、MCCスポーツ和倉ユースサッカー大会の決勝戦。日大藤沢高校(以下、日大藤沢)と桐蔭学園の“神奈川ダービー”となった一戦は、日大藤沢が3‐0と快勝を収め、トロフィーを手にした。
この試合、左サイドハーフの位置から正確な右足のキックと仕掛けで存在感を示したのが、2年生のMF藤本歩優(あるま)だ。右足の使い方が秀逸で、インフロントとアウトサイドを状況に応じて巧みに使い分ける。縦突破と見せかけて右足アウトサイドで素早くボールタッチしてカットインで切れ込んだり、アウトサイドでボールを晒してからインフロントでボールを引っ掛けて相手を剥がしたりと、臨機応変な右足のボールタッチで相手を翻弄する。
決勝戦で左サイドのリズムメーカーとなっていたが、実はまだレギュラーを勝ち取っているわけではない。
日大藤沢は和倉ユースにAチームとBチームの2チームで参加しており、歩優はずっとBチームでプレーしていた。しかし、Aチームが決勝に進出し、同校は両チーム通じて午後はこの1試合のみになった。と同時に、相手が選手権予選のベスト16で対戦する桐蔭学園になり、手の内を隠す意味もありA・B混合チームで臨むことになり、Bチームの選手にチャンスが巡ってきた。
「こういうチャンスはなかなかないし、僕にとってとてつもなく重要な一戦だったからこそ、スタメンを言われた時はもうドキドキで、試合前は緊張していました。でも、試合が始まったら驚くほどリラックスできていて、自分のプレーに集中できました」
ゴールという結果は残せなかったが、試合後の表情は爪痕を残すことができた手応えを感じているようだった。言葉通り次につながる重要な一戦にできたのだろう。
父・淳吾のようにキックを磨き続ける
「佐藤輝勝監督が掲げるチームコンセプトである前線からのプレス、連動性を常に意識しながら、持ち味の右足を生かしたプレーをする。これからもこれを大事にして、選手権のメンバーに食い込めるようにしたいです」
野望に燃える歩優の心には、尊敬する父からの重要な教えがあった。
「お父さんはいつも『持っている武器は右足のキックなんだから、まずは右足をしっかりと磨きなさい。すべててはそこからだよ』と言ってくれるので、それをしっかりと心に刻みながら練習しています」
父はかつて清水エスパルス、名古屋グランパス、横浜F・マリノス、ガンバ大阪などでプレーした元日本代表の藤本淳吾氏。精度の高い左足を武器に長いプロキャリアを築き上げた偉大な名プレーヤーからの言葉は、心に大きく響いた。
「お父さんも逆足の右足も練習をしていたのですが、それ以上に武器の左足を磨きに磨いたからこそ、あれだけ上のカテゴリーでプレーできて、代表まで登り詰めたと思うし、本当にすごい。だからこそ、僕も右足を徹底的に磨いて、お父さんのようになりたいです」
苦手な部分ときちんと向き合いながらも、最も大事なことは自分の長所を妥協せずにひたすら磨いていく信念。確固たる武器を持ち、それを特出したものにしていかないと、この先の世界では生き残れない。そう父は教えてくれた。
「僕が見るお父さんの左足キックの魅力とすごさは、ループのパスだったり、ゴロで回転をかけて足元にピタリと届くパスだったり正確さ。『ここにこう蹴ったらこうなるんだな』と具体的なシーンをたくさん見て学んで、僕はそれを右足でしっかりとできるようにイメージしながら練習しています。もちろん左足を使うことも大事なので、右足でパスを出しながら、『ここは左足でこういうボールを蹴ったらいい展開になる』など、『ここは左足を使うべき』というシーンでは、持ち替えずに左足できちんと出せるようにイメージして練習や試合でトライしています」
この言葉を聞いただけでも、歩優がいかに真摯にサッカーに向き合っているかが分かる。
「日々の練習は絶対に裏切らない」と父に教えてもらったからこそ、その言葉を信じて、歩優は自分なりの理想像を抱きながら努力を重ねている。
「ミスをすることは本当に重要なんです。仮にミスをしても、『あ、これじゃダメなんだ』とか『まだこれができる技術が足りないんだ』と思えることがプラスで、今後の練習でそれを反映させて再びトライしたり、別のアプローチをやったりする循環を生み出す。この循環は大事にしています」
最後に余談だが、実は桐光学園時代の父を取材したことがある。その時に「右足は使わないの?」と聞くと、「練習はしていますけど、なにより僕の武器は左足なので磨いています」と口にしていた記憶がある。
あれから23年の歳月を経て、息子がハキハキとした言葉でしっかりと教えを口にする姿を目の当たりにし、勝手に感慨深くなった。
まだ歩優の立場はBチームであることに変わりはない。だが、この思考力と信念がある限り、計り知れないポテンシャルは研ぎ澄まされるだろう。研磨し続ける右足がいつか見る者を魅了してやまないものになるように。藤本歩優は指標をしっかりと持って歩き続ける。