安藤隆人
利き足もスタイルも父とは違う。加地亮のDNAを昇華する理想のSBへ(加地莉比斗/G大阪ユース・3年)|2世選手のリアル
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
近年、日本代表やJリーグで活躍したレジェンドプレーヤーを父に持つ、“2世選手”が育成年代の強豪チームでプレーするようになっている。特別なバックグラウンドのある彼ら独自の思いや考えに迫り、サッカー界で上を目指す選手たちの等身大の姿を伝える企画「2世選手のリアル」。第3回はガンバ大阪ユースの3年生、加地莉比斗(りひと)に焦点を当てる。いつしか父・亮と同じサイドバックで、高みを目指すようになっていた。しかし、父が歩んだ道をなぞっていくわけではない。自分ならでは持ち味を見出し、研ぎ澄ませ、独自の理想像を目指す。時に、父のプレーから学びながら──。
父・亮とは異なるSB
加地莉比斗(右)
サイドバックになることは運命だったのか。ガンバ大阪ユース3年生の左サイドバック(SB)加地莉比斗が、このポジションに居場所を見出したのは小学校の高学年の時だった。
「最初は真ん中のポジションをやっていて、SBになったのは本当にたまたまというか。『サイドでやってみて』と言われてやってみたら、真ん中よりもサイドのほうが楽しいと感じたんです」
父親は日本を代表するSBとしてその名を轟かせた加地亮氏。兵庫の名門・滝川第二高校からセレッソ大阪に加入し、大分トリニータ、FC東京を経て2006年にガンバ大阪に移籍すると、実に8年半プレーしてクラブレジェンドの1人となった。1999年のナイジェリアで開催されたFIFAワールドユース(現・U-20ワールドカップ)で日本最高の準優勝に貢献し、A代表としても2006年FIFAワールドカップドイツ大会のメンバーとして2試合にフル出場を果たしたキャリアを持つ。
精度の高い右足と抜群のスプリント力を武器に、タッチライン沿いを主戦場にサイドを活性化する名SBだった父親に対して、息子の莉比斗はタイプが少し違う。
まず利き足が父と逆の左足で、本職は右ではなく左SB。攻撃力を持っている面では共通しているが、莉比斗は足元の技術やポジショニングに長けている。ビルドアップに積極的に参加し、ポゼッションの間に内側からスルスルと前線まで駆け上がって、ワイドではなくハーフスペースでパスを受けてスルーパスを出し、フィニッシュワークにも関わるなど、賢いプレーが光る頭脳派SBだ。
「ワンタッチ、ツータッチでシンプルに周りや前にパスを出すプレーが得意なので、それをいかに効果的な形で発揮できるかを考えています。例えば、味方のサイドハーフが相手のセンターバックまでプレスをかけにいくことがあるので、それに連動して相手SBの位置までスライドしながら前に出て、高い位置でボールを受けてよりゴールにつながるようなプレーをすること。1対1のシーンで僕が突破するよりも、周囲と連係して突破していく形をどんどん出していくことなどを意識しています」
実際に莉比斗のプレーを見ていると、常に顔を上げてピッチの状況を見渡しながら、ボールが動いている間にチームとしてビルドアップや組み立ての落ち着きどころになる位置にポジションをとっている。だからこそ、ボールが来た時は相手のプレスをかいくぐれるし、プレッシャーを受けてもシンプルにはたいてもう一列前のスペースに顔を出せる。相手からすると、非常にプレスをかけづらいプレーだ。
26年の歳月を経て重なる姿
「守備で大事にしているポイントはライン設定です。前からしっかりとプレスにいくことはチームとしての約束事なのですが、裏の対応はまだ課題で弱い部分だと理解しているので、そこの対応は意識しています。僕はスピードやサイズなどが足りないので、ポジショニングを微調整しながら、守備に切り替わった瞬間に相手よりも早く戻ることを意識しています」
攻守において常に頭をフル回転させる莉比斗は、もちろん父のプレーを参考にしている。
「小さい頃はそこまで意識していなかったのですが、たまたま同じポジションになったことで少し意識するようになりました。参考にしたのは守備ですね。お父さんの上下動や1対1の対応は本当にすごいと思っています。自分から話を聞くことはないですし、(父の方から)なにか言ってくることもないのですが、プレーを見て学んでいます」
こう語る莉比斗のプレーを実際にピッチ上で見ると、プレースタイルこそ違えど、やはり父親の姿と重なってしまう。
これは余談だが、筆者は滝川第二高校時代の父親のプレーを何度か見たことがある。物静かな印象を受けるが、いざボールを持ったら迷うことなく縦に仕掛けていくプレーは迫力満点だった。特に印象的だったのが、当時の滝川第二高校は[4-4-2]が主流だった高校サッカー界において、[3-3-2-2]という特殊なシステムを採用しており、亮氏が右ウイングバックの役割をこなしていたこと。中央に人数が多いなか、手薄なサイドを豊富な運動量とボールを奪われない技術を駆使して1人で活性化させている姿は、底の知れぬポテンシャルを感じるには十分だった。
「走ってチャンスに絡むだけではなく、もっと考えて中央の選手を生かせる選手にならないといけないと思います」
こう語っていた父を取材してから、26年の歳月を経て、あの時と同じ高校3年生の息子を取材して感じたこと。それはプレースタイルこそ違えど、やはり似ている。表情、佇まい、そしてサッカーへの向き合い方が──。
「理想のSB像はトレント・アレクサンダー=アーノルド(リヴァプール)選手です。アーノルド選手はパス1本で決定的な仕事ができるSBですし、ポケット(ペナルティーエリア内の左右のスペース)をどんどん取りにいくので、そこを身につけたいと思って参考にしています。将来的には世界で活躍できるような選手になりたいです」
SBとして日本代表に選出され、W杯出場まで登り詰めた父を心から尊敬している。ただ、『自分は自分』。その気持ちを持ちながら、莉比斗は今日もサイドを起点にサッカーを楽しんでいる。