岐阜で得点量産→高校最後の選手権へ。最強のホットラインが見せるラストセッション(加藤隆成&明石望来/帝京大可児・3年)|安藤隆人の直送便(高校編)

安藤隆人

高校サッカー

2024.12.21

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岐阜で得点量産→高校最後の選手権へ。最強のホットラインが見せるラストセッション(加藤隆成&明石望来/帝京大可児・3年)|安藤隆人の直送便(高校編)

安藤隆人

Writer / 安藤隆人

Editor / 難波拓未

高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。高校編の今回は、岐阜県の名門・帝京大可児高校に焦点を当てる。選手権に出場する2024年のチームの看板は、前線の加藤隆成と明石望来。息の合ったコンビネーションで、数多くのゴールを生み出してきた。全国屈指の攻撃力を誇る“ホットライン”は、選手権後に解散する。コンビでのラストセッションに、気合十分だ。

俊敏性×判断力=阿吽の呼吸

加藤隆成(3年)

いつの時代にも、どのチームにも、絶対的エースの隣には「ホットライン」を組む名脇役が必ずいる。桐光学園時代の小川航基(NECナイメヘン/オランダ)にはサイドを切り裂くイサカ・ゼイン(モンテディオ山形)が、青森山田時代の松木玖生(ギョズテペ/トルコ)には安定感抜群の宇野禅斗(清水エスパルス)がいた。

6年連続11回目の選手権出場をつかんだ帝京大可児にも、そのホットラインが存在する。同校の絶対的エースのFW加藤隆成は、岐阜県リーグでは2年間で70ゴールという前人未到の記録を樹立した。全国の舞台でも2年生の時から結果を残している。2023年のインターハイでは3試合(ベスト16)で3ゴール、選手権では2ゴールを記録。最高学年となった2024年も実力を余すことなく発揮しており、先のインターハイでは4ゴールを決めた。3年間の全国大会の成績は合計9ゴールを叩き出し、出場した全9試合のうち6試合でネットを揺らしてきた。

「流れのなかでゴールを決めることが得意。周りにうまい選手がいてくれるおかげで、自分の武器になっています」

そう語るように、全国トップレベルのストライカーの周りには技巧派の選手がそろう。そのなかでもチャンスシーンの多くに絡んでいるのが背番号9のアタッカー・明石望来だ。この明石から加藤のホットラインこそ、2024年の帝京大可児の看板である。まずは2人それぞれの特徴について触れたい。

加藤は175cmと上背こそないが、クイックネスやスプリント力に優れており、駆け引きのバリエーションが豊富で、その中からのプレー選択の質とスピードがずば抜けている。ディフェンスラインに息を潜めながら瞬間的に背後を突いたり、1.5列目の位置に下がって浮いたポジションを取りながら相手の目線が切れた瞬間にラインブレイクを仕掛けたりする駆け引きがうまい。クサビのパスを少ないタッチで落として次のスペースへ動き出すプレーもスムースであり、シンプルにクロスに飛び込むタイミングは的確で、シュートの質も高い。多彩なゴールアプローチとシュートセンスを併せ持つからこそ、ゴールを量産することができる。

明石は164cmと、加藤よりも小さい。だが、すさまじいアジリティをベースに、瞬間的な重心移動を繰り返し、相手のリズムを破壊していくドリブルが武器だ。全身を弾ませるようにして行う細かいボールタッチで相手を惑わせてから交わしたり、“ゼロ”の状態から一気に加速してぶち抜いたりと、絶妙な緩急をつけて仕掛けていく。さらにパスセンスも兼ね備えており、アタッキングエリアではドリブルとパスを変幻自在に使い分けてボックス内に侵入する。

個性的な2人は、リズムが非常にマッチしている。技術はもちろん、共に直前まで相手や周囲の状況を見ながら判断できる。だからこそ、お互いの動きを把握してイメージを共有した上で、コンビネーションを繰り出すことができる。相手にとって捕まえづらく、実に脅威的なコンビだ。

ライバルから相棒へ

明石望来(3年)

2人は1年生の時から出番をつかんだが、最初から“コンビ”だったわけではない。加藤は帝京大可児中学出身で、中学3年生の時にすでにトップチームのプリンスリーグ東海に出場するなど、チームのサッカーを熟知する存在だった。一方の明石は愛知の強豪クラブ、フェルボール愛知からやってきた。そうした背景もあり、当初は噛み合わない部分が多かった。

「入学したばかりの時は望来がどんなプレーをする選手なのか、どんな性格なのかわからなかったので、パスやタイミングも合わなくて苦戦する部分もありました」(加藤)

「隆成とは交代で代わることが多かったので、どちらかと言うとライバルでした」(明石)

ホットラインを形成するようになったのは、1年生の後半になってから。加藤がFW、明石がトップ下やサイドで起用されるようになり、一緒にピッチに立つ機会が増えていった。

「隆成のゴールを決めきる力のすごさを理解すればするほど、その能力をフルに生かすために、距離感を意識するようになりました」と明石が語るように、加藤にマークが集まれば、自分がフリーになることができ、得意のドリブルやスルーパスを出すチャンスが広がる。逆に自分のところにマークが集まった瞬間に、加藤は点が取れるスペースに動き出すため、明石は得意のテクニックで相手を剥がしてパスを出したり、ダイレクトでパスを出したりすることでゴールが生まれる。

さらに2人のラインがつながることで周りがよりフリーになったり、ベクトルを前に向けられたりするようになった。加藤と明石のコンビネーションの質が向上すればするほど、チームの攻撃力そのものが向上していく手応えがあった。ダブルボランチを組む松井空音(3年)と伊藤彰一(2年)が前線の2人を追い越してゴールに迫ったり、パスワークに絡んでラストパスを出したりと、チームとしてのゴールアプローチも多彩になった。

「隆成はシュートもいけるし、運んで剥がすスピードとテクニックも持っていて、アシストもできる。だからこそ、隆成の位置を意識して、自分はどの位置にいるべきか、どこに仕掛けるべきかを考えています。2人の関係性で崩すだけでなく、僕らが内側で起点を作ることで、空音やサイドの選手が飛び込んでいけることも考えるようになりましたし、どんどんアイデアを引き出すことができる存在です」(明石)

「コミュニケーションを重ねていくうちに、望来のドリブルという特徴を生かすこともできるようになりました。自分がいかにサポートできるかもそうだし、彼が相手を交わすことで自分がフリーになることもあるので、そこでボールを受けに行くなどフィーリングが合ってきた。(明石が)トップ下の時は常に距離が近いので連係しやすいですし、左サイドのポジションからでもパスを出すタイミングや内側に入ってくるタイミングがわかるので、すごくやりやすい。自分を生かしてもらえる存在です」(加藤)

2023年度の選手権では1回戦の柳ヶ浦戦、0-1で迎えた54分にホットラインが炸裂した。相手ディフェンスラインの前で加藤と明石が近い距離で細かく動き直すことでわずかなスペースを作り出すと、明石に縦パスが打ち込まれた瞬間に加藤がクロスオーバーの動きを見せる。そして、明石がダイレクトで落としたパスを加藤が受け、そのままディフェンスラインを突破してシュートを流し込んだ。2人の能力の高さが示された、抜群の連係プレーだった。

選手権で有終の美を飾る

2024年のインターハイでも加藤と明石のコンビは猛威を振るった。初戦の立正大淞南戦では1分に決まった先制点の起点を2人で作り出すと、そこから加藤がハットトリックを達成する。明石も1ゴールを挙げ、終わってみれば6-1の圧勝劇を演じてみせた。2回戦の桐光学園戦はPK戦の末に敗れたが、帝京大可児の攻撃力の高さを全国で示すことはできた。

そして、6連覇を懸けて臨んだ第103回全国高校サッカー選手権大会・岐阜県予選決勝の中京戦でも、9分に加藤のクロスから明石がヘディングシュートを決め、2点目は明石のパスからMF青木嘉宏(2年)を経由して加藤がネットを揺らした(試合は4-2で勝利)。

卒業後は2人とも戦いの舞台を関東大学リーグに移すが、進学先は一緒ではない。コンビを組むのは、高校で一区切り。それぞれ高いレベルでサッカーを続け、4年後にプロサッカー選手になることを目指す。離れ離れになれど、これからも互いを刺激し合う関係性は続いていく。だからこそ、その前に高校最後の選手権でこのホットラインの破壊力を見せつけようと意気は高い。

「全国では僕が剥がしてパスを出して隆成に決めてもらいたいし、逆に彼のクロスやラストパスからゴールを決めたい。縦関係だろうが、横関係だろうが、お互いが判断を引き出し合いながら、いい距離、いい立ち位置で共鳴し合えるようにしたいと思います」(明石)

有終の美を飾って、次なるステージへ。帝京大可児が誇るホットラインから目が離せない。

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