安藤隆人
公立高校初、U-18年代完全制覇の2年生CB!“名門”かつ“史上最強”で際立つ秀才(村上慶/大津・2年)|安藤隆人の直送便(高校編)
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。高校編の今回は、熊本県・大津高校に焦点を当てる。公立高校で初めてプレミアリーグWESTとプレミアリーグファイナルを制し、日本一の称号を手にした同校には、攻守にハイスペックなプレーでチームを陰から支えた2年生CBがいた。その名は、村上慶。「ずっとアビスパにいたので、高校は違う環境でやりたい」。そう覚悟を決めて入学した熊本県の名門校で着実に成長してきた姿を、選手権の全国の舞台でも示す。
福岡のアカデミーで培ったスペックの高さ
熊本県立大津高校は、プレミアリーグWESTを18勝1分3敗の勝点55で制覇。2位のヴィッセル神戸U-18との勝点差は「7」で、リーグ最多の66得点とリーグ最少タイの21失点を記録して圧倒的な力を見せつけた。そして、EAST王者の横浜FCユースと対戦したプレミアリーグファイナルでも3-0と完勝を収め、公立高校初のプレミアリーグ完全制覇を成し遂げた。
かつてから『公立校の雄』と呼ばれ、インターハイ準優勝1回、選手権準優勝1回を記録し、土肥洋一(横浜FCトップチームGKコーチ)、谷口彰悟(シントトロイデン)、植田直通(鹿島アントラーズ)という3人のW杯選手を筆頭に、多くのJリーガーを輩出している。
「名門」という形容詞が似合う同校の歴史を振り返っても史上最強との呼び声が高い2024年のチームで取り上げたいのは、次世代を担う2年生センターバック(以下、CB)の村上慶だ。
プレミアリーグWESTで20ゴールを叩き出して得点王に輝き、決勝でも2ゴールを決めたFW山下景司、清水エスパルス入りが内定しているMF嶋本悠大、190cmの大型CB五嶋夏生の3年生に注目が集まっていたが、その陰で村上の存在感は攻守において際立っていた。
村上の特徴は181cmのサイズがありながら、抜群のアジリティと反応の早さを持ち、背後を取られそうになっても鋭いターンと身のこなしで相手とボールの間に身体を入れたり、長い足でボールを絡め取ったりすることができる高いボール奪取力だ。
CBとして必要な感度の高い危機察知能力を有しながらも、攻撃に転じた際は左右両足から繰り出す正確な長短のパスで起点を作り、チャンスとあれば一気に前線に駆け上がっていく。攻守においてできることが多く、スペックの高さを感じさせる。
「大津では多くの経験を積ませてもらっているし、試合ごとに成長させてもらっています。もっと高いレベルに行くためには意識のところ、食生活、体づくり、足元、すべてにおいて成長しないといけないと思っています」
謙虚に話す村上は福岡県出身。小学生の頃からアビスパ福岡のアカデミーで育った。村上のスペックの高さが実現したベースは小学生時代にある。福岡U-12でキック力測定をした際、左足のキックの数値が他の選手より圧倒的に低かったことにショックを覚えた。
「右利きで右足ばかり使っていたので、いざ左足で蹴ってみたら、他の選手より全然ボールが飛ばなかったんです。正直、めちゃくちゃ悔しかったので、そこからひたすら左足で蹴り続けました」
根っからの負けず嫌いが功を奏し、小学6年生になると両足ほぼ遜色なく蹴られるようになった。福岡U-15では右サイドバックとしてプレー。左足から逆サイド、中央へのパスやフィードが武器になった。
碇明日麻&五嶋夏至から受けた刺激
順調に成長を遂げた村上には、福岡U-18への昇格の打診が来た。しかし、「ずっとアビスパにいたので、高校は違う環境でやりたいと思っていた」と高体連に進む意思を固め、秋には大津高への入学を決めた。
「アビスパというクラブへの愛情は今も強いですが、当時はアビスパ福岡U-15の左サイドにいた年代別日本代表の小浦拓実選手(福岡U-18)が注目の的になっていて、僕は常に彼の影に隠れていた。それも悔しくて、ならばと思い切って環境を変え、高校でサッカーだけではなく人間性も鍛えようと、大津に決めました」
決心して飛び込んだ『公立の雄』には多くの刺激があった。サッカーセンスの高さを買われ、CBとして1年時からプレミアリーグWESTで出番を手にすると、インターハイでは3バックを経験。横には五嶋、前にはGK以外ならどこでもできる2023年度のプレミアリーグWEST得点王のFW碇明日麻(水戸ホーリーホック)がいた。
「僕もボランチ、SB、CBに加え、攻撃的なポジションもこなせるので、明日麻さんのようにポジションにこだわることなく、どこでもハイレベルにできる選手になりたい。夏生さんのように対人に強く、出足の鋭いDFにもなりたい。なにより2人ともキャプテンとしての人間性や、サッカーに向き合う姿勢が素晴らしく、食事や練習前の準備など本当に学ぶべきところが多い。僕もあの2人のように頑張りたい」
最高のお手本がそばにいる状態で1年間を過ごした。2024年もCBと左SBをこなし、五嶋や嶋本、山下ら3年生の姿を手本にしながら成長してきた。プレミアリーグWESTでは前述したリーグ最小タイの21失点に貢献し、プレミアリーグファイナルでもスタートはCB、終盤には左SBでプレーして、無失点に大きく貢献した。
日本一のCBコンビの称号を手にした村上は高校選手権に向けて、最高学年になる2025年に向けて、なにを考えているのか。話を聞くと、決意に満ちた表情でこう口にした。
「ファイナルに勝ったことで自信が生まれたし、選手権では一つひとつ“らしい戦い方”をしていきたいです。もう一度頂点に立ち、もう一つの金メダルを持って大津に帰りたいです。個人的には、お世話になった3年生と一緒に戦える最後の大会なので、悔いのないようにチームのためにプレーしたい。特に夏生さんからはたくさんの学びを得たので、選手権でも吸収できるものは最後まで吸収して、2025年は僕がプレー面だけではなく、夏生さんのリーダーシップやチームをまとめる力を発揮できるようにしたいです。さらに2025年はアビスパU-18がプレミアリーグWESTに昇格してくるので、成長した姿をリーグ戦での直接対決で示すことができたらいいなと思っています。最終学年でアビスパと、かつての仲間たちとバチバチに真っ向勝負したいです」
持ち前の負けず嫌いが村上のモチベーションであり、原動力である。強烈な負けん気の中に謙虚さと貪欲に学ぶ姿勢がある限り、これからもどんどん大きくなっていくだろう。2024シーズンの水戸でボランチ、SB、サイドハーフをこなした碇明日麻のようなユーティリティプレーヤーを目指して、村上慶は自分の名を知らしめすべく選手権の大舞台に挑む。
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