“半端ない”大迫勇也を探究し尽くす2年生エース。背番号9、憧れを超え、伝説の再来へ(大石脩斗/鹿児島城西・2年)|安藤隆人の直送便(高校編)

安藤隆人

高校サッカー

2024.12.28

  • X
  • Facebook
  • LINE

“半端ない”大迫勇也を探究し尽くす2年生エース。背番号9、憧れを超え、伝説の再来へ(大石脩斗/鹿児島城西・2年)|安藤隆人の直送便(高校編)

安藤隆人

Writer / 安藤隆人

Editor / 難波拓未

高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。高校編の今回は、鹿児島・鹿児島城西高校に焦点を当てる。8年ぶりに選手権に出場する同校の2年生ストライカー・大石脩斗は、偉大な先輩に憧れながら研鑽を積む。理想像は、選手権の歴代最多得点記録保持者、大迫勇也だ。そのプレーを研究し続ける大石は、周囲から「大迫2世」と言われても、ブレることなく選手権で己を示す。

“大迫2世”として脚光を浴びる

185cmの長身ストライカー・大石脩斗は、2年生ながら多くのJクラブのスカウト陣が注目する存在だ。

サイズの大きさを生かした空中戦の強さやポストプレーはもちろん、スピードと足元の技術にも長け、バリエーション豊富なターンはこの世代では群を抜いている。

Jクラブのスカウトがスケールの大きさやポテンシャルに注目する一方で、多くの高校サッカーファンやメディアは、そのバックボーンに関心を寄せている。

鹿児島城西高校の9番で、長身ストライカー。そう聞いて真っ先に思い浮かぶのが、日本を代表するストライカー、大迫勇也(ヴィッセル神戸)だ。大迫もまた、高校2年生の時から複数のJクラブに目をつけられていた。3年生になると争奪戦は激化し、最終的には鹿島アントラーズに加入した。

当初は、世間が圧倒的に注目する存在ではなかった。しかし、大迫にとって高校最後の選手権で、今もなお語り継がれる数々の伝説を生み出した。1大会最多得点記録となる10ゴールを叩き出し、準優勝に終わったが、準々決勝の滝川第二高校戦で相手のキャプテンが吐露した「大迫半端ないって」は、歴史に残るフレーズになった。

大石は、そんな大迫と面影が重なる。選手権予選の決勝でインターハイ準優勝の神村学園を破る値千金の決勝ゴールを決めたことも相まって、『大迫2世』として一気に脚光を浴びるようになった。

「毎日取材を受けるというか、グラウンドにも取材の人たちが来るので話す機会は増えました。選手権出場が決まって、今まで神村学園に向いていた目が一気にこっちに来た印象です。変わりすぎて、びっくりしています」

大会前にインタビューをすると、高校生らしい素直な感想が返ってきた。続けて、必ず「大迫勇也」というフレーズがついて回る現状への素直な思いを聞くと、笑顔を見せながら口にした。

「嫌なんてことは全くないです。大迫選手の高校時代のプレーが自分の憧れというか、『自分がこうならないといけない』と思い描いている理想の頂点にいる存在ですから。逆に光栄です」

鹿児島県で生まれ育った大石にとって大迫のことは、父からずっと聞いていた。物心ついた時にサッカーを始めてから、鹿児島を代表する選手としていつも名前が出てきた。そして、中学生の時に当時の選手権の動画を見て、身体が震えるほどの衝撃が走り、すぐに自分の明確な理想像になった。

「何回見てもすごいし、今でも何回も見ています。最初は『すごいゴールを決めるな』とか、『左足で決めることができて、すごいな』とか、どちらかというとファン心理で、中身がどうこうではなく、自分の中のモチベーション動画でした」

ただ、ここからが大石の能力と言うべきか、今の成長の土台となっている『好奇心』が急激に育まれていった。いつまで経っても理想像に変わりないものの、大迫のプレーを見れば見るほど、強烈な「どうしてこんなプレーをするの?」という疑問と好奇心が生まれていく。「なぜ?」の理由を究明しようとすればするほど、大石のフットボーラーとしての幅が広がり、インテリジェンスが磨かれていくという相乗効果が生まれていったのだ。

大迫最大の武器「ターン」の探究

鹿児島太陽FC U-15で全日本クラブユース選手権(U-15)に出場するなど、九州内では名の知れたFWだった大石は、九州の強豪校からの誘いが多くある中で鹿児島城西を選んだ。大迫が高校生の時に汗を流した同じグラウンドで、大石は大迫のプレーをイメージしながら、自分なりにプレーを真似たり、自分なりにアレンジしたりして練習に打ち込んだ。

そして、高校2年生に上がる春に、大迫の同級生で選手権準優勝GKだった神園優コーチが就任。大石は真っ先に「大迫選手は何が一番すごかったんですか?」と聞きに行くと、「一番はターンだね」と予想外の答えが返ってきたという。

「今までシュートがうまいとか、ポストプレーがうまいとか、そういう感じかなと思っていたのですが、そうじゃなくてターンと聞いて衝撃が走ったんです。その話から『俺もターンだ!』と思って、ターンをひたすらやるようになりました。動画もターンにしか目が行かなくなってしまいました(笑)」

まさに目から鱗だった。着眼点が大きく変化し、よりフォーカスが明確に当たったことで、大石の好奇心と向上心にさらに火が灯った。

「ターン」と言っても、ボールを受ける前の立ち位置と角度、どこにターンするかを見る目、パスの受け方とファーストタッチ、ステップワーク、重心移動、ターンした後のプレーと非常に幅広い。その“幅”こそ、大石がやればやるほどその探究心をくすぐられるという好循環を生み出していった。

まずは基本となる『止めて、出して、蹴る』を、普段のパスコントロールやシュート練習の中でも取り入れながらプレーしたり、自主練でコーンを使ったり、基礎を磨いていった。そして、実戦の中でどの角度で受けて、どの角度に持ち出すかなど、細かいスキルを研ぎ澄ませた。

大石がターンに着眼したタイミングも良かった。2024年、チームは高円宮杯プレミアリーグWESTに初昇格。この1年間はプレミアでプレーすることができた。結果は大半の試合に出場しながらも、わずか1ゴールに終わり、チームも1年でプリンスリーグ九州に降格となってしまった。だが、思うようにパスが来ず、トップ下やボランチの位置までボールを受けに下がったり、複数マークの中でプレーしたりする機会が増えたことで、ターンの質は一気に向上した。

「プレミアはどのCBも大きくて人に強いし、技術もある。どうやって足元で戦っていけるか、チームとしても守備に回ってしまう時間が長く、自分がどうやって前に行けるかを試合中ずっと考えていた1年でした。中盤や最終ラインの選手がボールを持ったら常に背後のスペースを見てから構えるなり、落ちるなり、ボールを引き出してからターンして、その見ていたスペースに持って行ったり、時間を作ったりするプレーが徐々にできるようになった。前期はシュートがゼロの試合もありました。後期は1点しか取れなかったものの、1試合で複数本のシュートを打てるようになりました」

確かな手応えがあった。実際に夏にプレーを見た時、あまりにも美しすぎるターンを目の当たりにして「ストライカーだけじゃなく、攻撃的なポジションならどこでもできる」と感じたほどだった。ディフェンスラインやボランチからのボールに対し、相手と駆け引きしてタイミングをずらしてから受けに行き、足元に早いパスが来ても、ワンタッチで前を向いてかわした相手をロックし、前に出ていく。ドリブルだけでなく、アウトサイドも使ってロングスルーパスも出せる。ゴールという結果が出せていなくても非常に魅力的に感じた。

環境に左右されない軸の強さ

夏の終わり頃、鹿児島城西のグラウンドに大迫が練習参加に来たことがあった。千載一遇のチャンスだ。大迫のプレーや言葉を漏らすことなく目と耳を傾けた。

「新田祐輔監督がみんなの前で『FWはどういうプレーをすればいいのか?』と聞いてくれて、『相手に対して後ろを向くプレーは自分じゃなくてもできる選手はたくさんいる。前を向くから自分が生きるんだ』とおっしゃっていたんです。それを聞いた瞬間に『やっぱりターンなんだ!』と身体が震えるほど心に刺さりました」

確信を得たことで、さらにターンを磨いた。上半身の使い方、左足の使い方、どんどんターン技術を“深化”させていった。

選手権鹿児島県予選ではようやくゴールで勝利に貢献できた。準決勝の鹿児島高校戦、決勝の神村学園戦で2試合連続の決勝点。8年ぶりとなる選手権出場を手にした。

すでにJ1、J2の3クラブの練習に参加し、高い評価を得ている。選手権後もJ1クラブの練習に参加する予定だ。一気に周りの環境が変わったが、強烈な憧れ、理想像が彼の中で刻み込まれている限り、周りの喧騒に左右されず、探究心と好奇心を持って前に進み続けるだろう。

「新田監督も『変わるのは周り。自分たちまで変わってはいけない』と言ってくださっているので、今まで通りの練習で、学校の掃除とかも一切手を抜かずにきちんとやっています。これからも自分たちの熱量は変わっていかないけど、周りが変わるからこそ、軸を変えない強さが必要だと思います」

大石に「選手権で何点取りますか?」なんて質問はしない。この言葉を聞いただけで十分だ。

SHARE

  • X
  • Facebook
  • LINE