スカウトを驚愕させた対人能力!川崎F加入内定、超高校級の右SB(野田裕人/静岡学園・3年)|安藤隆人の直送便(高校編)

安藤隆人

高校サッカー

2024.12.28

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スカウトを驚愕させた対人能力!川崎F加入内定、超高校級の右SB(野田裕人/静岡学園・3年)|安藤隆人の直送便(高校編)

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Writer / 安藤隆人

Editor / 難波拓未

高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。高校編の今回は、2025シーズンから川崎フロンターレに加入内定した静岡学園の野田裕人に焦点を当てる。2024シーズンは怪我のためほとんどの試合に出場することができなかったものの、川崎の向島健スカウトは熱視線を注ぎ続けた。近年、日本代表選手を次々と輩出しているクラブが見出した才能の正体に迫る。

怪我が続くも慌てないメンタル

怪我に苦しんだ1年だったが、それでもあふれる才能を川崎フロンターレは見逃さなかった。

2024年12月5日、川崎は1人の高校生選手の、来季からの加入内定を発表した。静岡学園の右サイドバック(以下、右SB)を務める野田裕人は、2024シーズンほとんどの試合に出場していない。プレミアリーグWESTで出場したのは22試合中5試合であり、プレー時間は260分。インターハイも2試合の140分間しかプレーしていない。

だが、それでも川崎は野田を評価し続けた。練習参加の機会こそなかったが、クラブハウス見学や等々力競技場のゲームに招くなど熱心に声をかけ続けた。

なぜ、そこまでして獲得したかったのか。野田のプレーを見れば、十分にわかる。172cmと大柄ではないが、1対1の能力が非常に高い。スピード、身体のバランス、読みの三拍子がそろっていて、シンプルにボールを奪う力だけではなく、スピードタイプ、テクニックタイプ、縦突破タイプからカットインタイプまで、相手の特徴に合わせて身体の向きやステップを変化させ、相手とボールの間に身体をねじ込んで突破を封じる。そのプレーはまさに一級品だ。

静岡学園で2023年からレギュラーをつかみ、2年生ながら足元の技術はもちろんのこと、1人だけ守備の強度と技術がずば抜けていただけに、筆者は「この選手はいずれプロになる」とは思っていた。

だが、前述した通り、春にグロインペイン症候群を発症して5カ月間の離脱。8月の奈良のフェスティバルでは左足第5中足骨骨折が発覚して、そこから4カ月間の離脱となり、この1年をほぼ怪我人として過ごした。

「俺って本当にプロになれるんだろうか?」「ちゃんとサッカーができるようになるのか?」とネガティブな気持ちにならなかったのだろうか。

野田にそれを問うと、はっきりとこう口にした。

「そうはならなかったですね。正直に言うと、あまりそこにベクトルを向けていませんでした。結果は何をしても変わらないので、変えられないことに慌てても仕方がないと割り切れました。そういうタイプかもしれません。あまりスカウトの目や進路なども気にしていませんでした」

野田にとって一番の驚きだったのが、その状態でも常に気にかけてくれたスカウトの存在だった。

「正直、正式オファーが来るとは思いもしませんでした。2023年のプレーを見てくれていたのもありますが、それ以上に向島さんは2024年の僕のピッチ外での立ち振る舞いを見てくれていたんです。そこが驚きでもあり、うれしかったです」

野田は2024年のチームのキャプテンに就任。試合に出られなくても、練習前、試合前の準備や片付け、チームを鼓舞する声かけなど、真摯な姿勢で仲間たちの先頭に立ち続けた。

フィジカルの強化に取り組み、「復帰した時に身体のバランスが崩れないことを第一に考えた」と口にしたように、ただ筋トレをするのではなく、トレーナーとしっかりとコミュニケーションを取りながら、必要な部位や体幹の強化、可動域の部分などを意識的に鍛えた。さらにアスリートの本をたくさん読んだ。中でもネイマールやメッシの本は没頭して読むなど、書籍から自分がやるべきことを学んだ。

スカウトが驚愕した、名和田我空との1対1

こうした自己研鑽の成果は短いプレー時間でもしっかりと発揮されていた。

2024シーズン、筆者は幸いにも2試合、野田がプレーする試合を見ることができた。インターハイ3回戦の日章学園戦と、プレミアWEST最終戦の神村学園戦だった。

1つ目の日章学園戦はその前の1回戦の興國戦で復帰して初先発を果たすも、20分に失点に絡んでしまった。チームは後半に逆転して2回戦に進出するも、ほろ苦い復帰戦だった。2回戦の東山戦は大事を取って出場せず。3回戦で再び先発した試合だった。

相手のエースである高岡伶颯(サウサンプトン内定)は怪我で不在だったが、ベガルタ仙台内定の南創太ら攻撃陣にタレントがいるなかで、野田は抜群の存在感を見せた。相手の左サイドの仕掛けに対して、スクリーンのうまさと球際の強さを存分に発揮。さらに、得意のオーバーラップとビルドアップも披露し、中から、外からと正確な判断とボールタッチを駆使して攻撃の機転を作り出し、チームの勝利に貢献した。続く準々決勝の神村学園戦は再び大事を取ってベンチスタートし、ピッチに立つことなく敗戦を見届けた。

その後に行われた奈良のフェスティバル(ECLOGA 2024 IN ナラディーア)で、野田は圧巻のプレーを何度も見せ、向島スカウトをはじめ、他の関係者の度肝を抜いたという。しかし、その大会中に骨折が発覚。野田はまたしても離脱を強いられ、復帰戦が前述したプレミアWEST最終戦となったのだ。

迎えた神村学園戦、野田はベンチスタートだった。1-2で迎えた71分にピッチに投入されると、いきなり高校ナンバーワンMFとして呼び声の高い神村学園の名和田我空とのバチバチしたマッチアップで会場を沸かせた。

後半アディショナルタイムには、名和田が野田の背後のスペースにスピードに乗って飛び出すと、野田も一気に加速。背後から来たパスと名和田の位置を確認してから、名和田とボールの間に身体を入れ、そのままボールを絡め取るように右サイドをドリブルで駆け上がってカウンターを発動するなど、能力を余すことなく発揮した。

「久しぶりだったのと、相手が攻撃力のある神村学園とあって、ゲームスピードについていけないところがありました。でも、名和田選手とバチバチにやれたし、何より相手のサッカーもエンタメ性がすごくて、やっていてめちゃくちゃ楽しかった」

等々力でプロへの覚悟が固まる

試合後に話を聞くと、こう満面の笑顔を見せた。続けてプロ入りの経緯を聞くと、川崎から正式オファーが届いたのは、離脱中の秋のことだったという。選手権予選前に吉報をもらうが、その時、野田は加入の決断をするかしないか迷っていた。

「正直、自信がなかったんです。怪我で全くプレーできない状態だったこともありましたが、『自分がフロンターレでプレーするなんて到底ないだろう』と思っていた時のオファーだったので余計に……」

だが、未回答の状態で練習見学と施設見学、実際にホームスタジアムでのJ1リーグを観戦したことで、一気に覚悟が固まった。

「等々力の雰囲気が想像以上にすさまじくて。試合を見ながら、『やっぱり僕はここを目指してサッカーをやってきたんだな』と思ったんです。プロになるために静岡学園に入学したし、あの時に強烈に抱いていた夢や気持ちを再確認できたんです」

野田は決断し、復帰直後に加入内定が発表された。

「プロ内定が決まったことよりも、まずは選手権で日本一になるためにチームとしても、個人としても万全の準備をしていきたいです」

神村学園戦でパフォーマンスが上がってきていることは実証できた。まずは高校最後の選手権に向けてコンディションを上げていくことと、キャプテンとしてチームをけん引することに集中している。川崎に見出されたタレントのその先の物語は、選手権を戦い切ってから、しっかりと紡いでいく。

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