J1練習参加、U-17代表10番、プロ内定、FW転向、集大成で初の全国へ(松本果成/流経大柏・3年)|安藤隆人の直送便(高校編)

安藤隆人

高校サッカー

2024.12.30

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J1練習参加、U-17代表10番、プロ内定、FW転向、集大成で初の全国へ(松本果成/流経大柏・3年)|安藤隆人の直送便(高校編)

安藤隆人

Writer / 安藤隆人

Editor / 難波拓未

高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。高校編の今回は、2025シーズンから湘南ベルマーレに加入内定した流経大柏高校の松本果成に焦点を当てる。高卒でプロになることを考えていなかったが、その才能が一気に花開いた。湘南への練習参加というチャンスをつかむと、U-17日本代表では10番を付けて外国選手とマッチアップし、FWへのコンバートも経験。次々と階段を駆け上がっていった。しかし、良いことばかりではなく、戸惑いもあったという。そんなジェットコースターのような激動の1年を経て、初めての全国大会である選手権、そしてプロの舞台に挑んでいく。

転機は湘南ベルマーレへの練習参加

「高卒プロは正直、考えていませんでした」

これは周りも思っていたはずだ。2025シーズンから湘南ベルマーレに加入が内定している流通経済大柏高校のDF松本果成は、2023年までは無名の存在だったと言っていい。

182cmのサイズとスピード、高い身体能力が武器だが、2年生までは全国トップレベルの流経大柏の激しいポジション争いを勝ち切ることができなかった。それでも、セカンドチームとしてプリンスリーグ関東1部では右サイドバック(以下、右SB)、右サイドハーフ(以下、右SH)でプレーし、右サイドからスピードに乗ったドリブルやクロスなどでチャンスを演出。ブレイクの時を虎視耽々と待ち続けた。

「入学当初は高卒プロを目標にしていたのですが、1、2年生で現実を突きつけられて、大学経由でプロになろうと思っていました。だからこそ、3年生ではまずレギュラーをつかむことを目標にしていました」

春先から調子が良かった。高校に入ってきて磨き続けてきた1対1での勝負やフィジカル強度、そして連続したプレスからボールを奪い取って仕掛けていく切り替えにも自信がついてきた。

右SBとして高円宮杯プレミアリーグEASTで開幕レギュラーの座を射止めると、開幕から7戦無敗(5勝2分)で首位を独走するチームとともに上昇気流に乗っていった。

すると、インターハイ予選によるリーグ中断期間に思わぬニュースが飛び込んでくる。湘南からの練習参加のオファーだった。

「最初は『なんで俺が?』と驚きしかありませんでした」

戸惑った。しかし、榎本雅大監督からは「こういうチャンスはなかなかないぞ」と言われ、チャレンジすることを決めた。練習参加は1週間。ここで合否が決まるかもしれないが、松本にとっては突然やってきたチャンスだっただけに、失うものはなにもなかった。

「スカウトの方や周りのスタッフのみなさんからも『とりあえず自分を出せ』と言われたので、その気持ちで臨みました」

初対面の選手たちばかりで緊張したが、徐々に吹っ切れるかのように自分の持ち味である前への推進力を発揮した。特に右ウイングバック(以下、右WB)のポジションではチームで鍛えた守備とスプリントがより効果的に発揮され、自然と身体が動いていく感覚だった。最終日は流通経済大とのトレーニングマッチに出場。そこでもドリブル突破や裏への抜け出しを披露し、堂々たるプレーを見せた。

ピッチ外でも大きな学びがあった。年齢の近い鈴木淳之介や石井久継が親身になって接してくれ、練習前にストレッチをしたり、ご飯に連れて行ってくれたりと面倒を見てくれた。

「淳之介さんも久継さんもまだ若いのに堂々とプレーしているし、練習前の準備、練習に取り組む姿勢、身体のアフターケアなど、すべてがプロフェッショナルで凄まじい刺激を受けました」

濃密な1週間を過ごしてチームに戻ると、湘南から正式なオファーが届いた。

「もう頭の中が真っ白になって、鳥肌が立つような感覚でした。いつ転がってくるかわからないチャンスなので、飛び込みたいという思いで決めました」

内定発表は9月になったが、つい数週間前までは大学進学を考えていたのに、いきなりJ1内定選手になった。その事実に、「劇的に環境が変わりすぎて正直、僕自身がその流れについていけていない印象です」。この戸惑いが松本を苦しめることになる。

劇的な環境変化に潜む影

インターハイ県予選では決勝で市立船橋に1-2で敗れて、全国行きを逃した。プレミアEASTでも再開初戦の第9節の市立船橋戦は先発から外れ、71分に途中出場。右SHに入ってプレーするもボールロストが多く、精彩を欠いたまま終わった。

この試合の取材に行っていたが、当時はまだ内定していることを知らなかったため、松本の表情の硬さを見て、「調子が悪いのだろうか」と感じていたが、そこには少なからず重圧があったのだろう。

「これが今の僕の実力です。悔しいですが、もう受け入れてやるしかないと思っています」

試合後は口数が少なかった。実はこの時期、榎本監督とよく1対1で話をしたという。監督からかけられた言葉は、プロになるための心構えと考え方という将来に向けて必要なものだった。

「プロの世界ではずっと試合に出続けられる選手はほんの一握り。チャンスがあふれて来ても、それが自分ができるポジション、プレーかどうかはわからない。でも、その時に順応できるようにならないといけない」

右SH、右SB、湘南では右WBと複数のポジションをこなしていたこともあり、少しだけプレーに混乱することがあった。榎本監督の意図が読めない時もあった。だが、ここで感情に任せて行動することは、将来の自分にとって大きなマイナスになることに気づいた。

「自分ができないことを『できない』と言って放棄するのではなく、前向きに捉えて与えられたポジションやプレーを一生懸命やって自分のものにしてしまえば、自分に大きなメリットになる。ベルマーレでもそういうことは必ずあると思うので、しっかりと考えてプレーすることを意識するようになりました」

榎本監督はプロ入りが発表された時、J1内定選手としての看板で苦しまないように、覚悟を固めるサポートをしてくれていた。先発から外れたことも、浮き足立っていた松本へのメッセージであった。それが証拠に、第11節の横浜FCユース戦で先発復帰をさせ、右SHとSBの両方の経験を積ませた。

そして、9月に内定が発表され、すぐにU-17日本代表に選出。新潟国際ユースサッカーでは10番を付けてプレーした。

「正直、行く前は不安と緊張があって、『本当に自分が代表でいいのか。J内定だから選ばれただけなんじゃないか』と思っていたのですが、初日の練習で『意外とやれるぞ』と手応えをつかんで、ペルー、アメリカを相手に自分のプレーを出せて、2アシストをマークできたことが大きな自信になりました」

この大会でも松本は右SBと右SHの両方で質の高いプレーを見せた。さらに選手権予選直前のプレミアEAST第19節、横浜FCユース戦でベンチスタートだった松本は、後半途中に右SHとして投入されると、鮮やかな決勝ゴールを突き刺した。これがリーグ戦の初ゴールだった。

「驚いた」FW転向

すると、選手権予選からいきなりFWにコンバート。「驚きましたし、自分には合っていないと思っていた」が、「それでも一生懸命やることに意味がある」と、割り切れたことで、さらにプレーの幅が広がった。

「ポストプレーとか、相手CBと駆け引きしての裏抜けとか、あまりやったことがなかったので、見様見真似でやっていたのですが、だんだん楽しさというか、『自分でもやれることがあるんじゃないか』と思うようになったんです」

3年ぶり8度目の出場をかけた日体大柏との決勝戦で、松本は「エースストライカーなのか?」と思うほどの活躍を見せた。

ロングボールを完全に収めて、前線で起点を作ると、スルーパスやミドルパスに抜け出してゴールに迫るシーンを何度も演出。後半に見せた1本のロングボールから加速して抜け出し、鮮やかなファーストタッチから放ったシュートがポストに直撃したシーンは、まさにストライカーの動きだった。

「決勝は完全に『ゾーン』に入っていました。周りがはっきりと見えて、裏抜けとかもタイミングが合うし、息切れもしないし、いくらでも走れちゃう状態でした」

松本の存在感もあってチームは4-1で勝利し、選手権の出場権を手にした。その後、右SHと右SBに加え、状況によってはFW起用されるという3つのポジションを併用する形となったが、松本は「どこでもできます」と自信の表情をのぞかせた。

「決勝がめちゃくちゃ自信になりました。ゾーンに入る感覚がわかったし、サイドにポジションを移しても、FWに動いてほしい場所を要求できるようになったし、僕とタイプが似ているFWなら『ここに動くはず』と予測ができるようになって、サイドでのプレーの引き出しが増えました。僕はちょっとだけFWが合っているんじゃないかとすら思っています(笑)」

11月にはU-17日本代表としてクロアチア遠征に参加し、そこでもサイドのスペシャリストとして能力を発揮した。そして、プレミアEASTでも第21節の大宮アルディージャU18戦で今季2ゴール目をマーク。チームも4位でフィニッシュをした。

残すのは選手権のみだ。全国の舞台ではどのポジションで出るのかは本人もわからない。だが、ジェットコースターのような激動の1年を、しっかりと“自分”をもって過ごした松本なら、J1内定選手の看板にふさわしいプレーを見せてくれるだろう。

「強い流経柏を全国では見せたいし、僕ら3年生にとっては(夏冬通じて)初の全国大会なので、しっかりと楽しみたいと思います」

いざ、冬の大舞台へ。松本果成は与えられたポジションでしっかりと咲き誇る。

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