“ぶっちぎる力”が武器の高校No.1アタッカー(高岡伶颯/日章学園高校・3年)|春風が運ぶ新世代

安藤隆人

高校サッカー

2024.04.17

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“ぶっちぎる力”が武器の高校No.1アタッカー(高岡伶颯/日章学園高校・3年)|春風が運ぶ新世代

安藤隆人

Writer / 安藤隆人

Editor / 難波拓未

高校サッカーでは毎年2月、3月に全国各地で新人戦や複数のチームによるフェスティバルが開催され、4月から始まる高円宮杯プレミアリーグやプリンスリーグ、各都道府県リーグに向けた強化と育成に励んでいる。今回は春のフェスティバルにスポットを当て、そこで目に留まった選手やチームをピックアップ。全10回に渡って選手の特徴や背景、強豪校の立ち位置や展望、取り組みを掘り下げていく。第1回は高岡伶颯(日章学園高校・3年)を紹介する。
(第1回/全10回)

高校サッカー界の2枚看板の1人

今、日本の高校サッカー界で「2枚看板」と呼ばれるほど、Jリーグクラブが激しい争奪戦を繰り広げている2人のタレントがいる。

日章学園のFW高岡伶颯と神村学園のMF名和田我空だ。2人はすでに複数のJクラブの練習に参加するなど動向が注目されるなか、今回は高岡について紹介する。

高岡の特徴はスピードだ。ただ足が速いのではない。抜群の身体操作とフットボールインテリジェンスをもち、スピードの強弱、相手と味方の動きを把握した上で加速するタイミングを図り、ショートスプリントとロングスプリントを巧みに使い分ける。ドリブル突破や裏への抜け出しでゴールを決める能力はもちろんのこと、相手のビルドアップの狙いを読み取った上で繰り出す前線からのハイプレスはまさに脅威だ。

2023年は名和田と共にU-17日本代表の主軸としてアジア、世界で躍動した。そのなかでもインドネシアで行われた6月のU-17W杯では、グループリーグで3試合連続ゴールをたたき出し、決勝トーナメント進出に大きく貢献。強烈なインパクトを残し、一気にその名は知れ渡った。

先の高校サッカー選手権でも宮崎県代表として出場。チームは大躍進を見せた名古屋高校の前に初戦で敗れたが、高岡は選手権後に鹿島アントラーズ、浦和レッズの練習に参加するなど、前述したとおり注目の的だ。

「スピード」に甘えない動きの変化

高岡とコミュニケーションを取ると、人見知りを一切しない堂々とした性格と、自分の成長に対してどこまでも貪欲な姿勢が垣間見られる。

「ランニングだけ、スプリントだけにならないように、うまく一連の流れで切り替えることを意識しています。自分の試合や海外などの試合映像を見ていくなかで、スプリントだけでは相手が目の前に来た時に止められたり、長い距離を走り続けることで疲労が溜まったりする。どこかで強度を落とすことや、一度落としてからまた上げるなど、プレーに緩急をつけることで相手もやりにくいと思うようになりました」

U-17W杯前に話を聞いた時、高岡は自分の武器に対してこう口にしていた。スピードを武器にする選手は、時としてそのスピードに甘え、細かい判断の質や90分間のプレーコントロールを疎かにしがちだ。だが、高岡は冷静に「自分のスピードをどう生かすか」「試合を通してどう持続させるか」を考えているからこそ、見る度に進化を感じ取れる。

Jヴィレッジで行われたデンソーカップチャレンジサッカー福島大会(以下、デンチャレ)では日本高校選抜の一員として出場し、大学生を相手に奮闘した。そのなかでも関東選抜Aとの一戦では、57分に投入されると、大学屈指のCBである根本健太(流通経済大)と濃厚な駆け引きを見せた。試合はロングボールが多くなり大味な展開になっていたなかでも、高岡は常に根本ともう一人のCBの動きを見ながら、距離を近づけたり遠ざけたりと変化を付けた駆け引きを仕掛けた。

「相手から一回離れて、寄って来なかったらそのままボールを受け、寄って来たらその背後を狙う。ドリブルで入っていくイメージもある。大学トップの選手はその駆け引きに引っかからないところがあり、もっと工夫が必要だと感じた」

根本も惑わされることなく高岡のスピードを警戒して対処していたことで、この高校生vs大学生の頭脳的なマッチアップは、見ていて爽快なほどハイレベルだった。

目指すは大黒将志の体の使い方

デンチャレから2週間後、彼は再びJヴィレッジにいた。全国の強豪校や強豪Jユースが集結するJ-VILLAGE CUP U-18に、日章学園のキャプテンとして出場。多くのJクラブのスカウトが目を光らせるなか、圧巻のプレーを見せた。

恐ろしいまでのスピードで前線からプレスを掛ける。一度剥がされても、2度追い、3度追いは当たり前。しかも剥がされる瞬間に判断を変え、次のプレス対象に向かう。判断のスピードもずば抜けており、相手DFにとっては脅威以外の何物でもなかった。

さらに抜群の予測とスピード、正確なファーストタッチでDFラインからのロングボールを受けると、ギュンと音が聞こえるほどのターンで一気に相手を剥がしていく。守備時はDFラインとGKに対して、攻撃時はゴールに対して矢のように向かっていくプレーはまさに別格だった。

圧巻だったのは、2日目の京都橘高校との一戦だ。3-0とリードして迎えた後半開始直後、相手がバックパスをすると高岡は猛然とダッシュ。その迫力に相手はGKまでボールを下げるも、さらに加速した高岡はGKがワントラップした瞬間に足を出し、ボールに触れる。そのボールがそのままゴールに転がり、開始数10秒でゴールを生み出した。

「最近は体の反転や、ボランチがボールを持った瞬間にいかに前がかりではない状態でプレスに行けるかを考えています。体勢が前掛かりになるとスムーズに足を運べなくて、初速が出なかったり、相手との接触でバランスを崩したりして奪いきれなくなる。大黒将志さんのように体の入れ替わりや体の軸を生かしながら前に出ることを意識しています」

そう話したように、日章学園に指導に来てくれたというガンバ大阪アカデミーストライカーコーチの元日本代表FWのような体の使い方で、高岡はゴールを脅かしている。

ぶっちぎる力

2023年からの大きな進化は、ハイプレスの質だ。前線からただプレスに行くだけなく、そこで奪い切る力を磨き上げていた。いよいよ高校ラストイヤーのシーズンが始まる。高岡は今、なにを考えているのか。

「2023年はマンマークされたり複数で囲まれたり、なにもできない時があったので、今年の目標は『ぶっちぎる力』を養うことにあります」

決意あふれる表情でこう口にした高岡に「なにでぶっちぎる?」と問い返すと、こう答えが返ってきた。

「スピード、泥臭さ、フィニッシュの精度でぶっちぎる。言い方を変えれば『抜群の選手』になりたいんです。高体連ではそれができていたとしても、プロになったら当然そうはいかなくなると思うので、まずはこの年代で抜群にならないとその先はない。そうなるためには日々の生活はもちろんですが、練習をしっかりとこなして、自分が苦手なことというか、中盤ではたいたり味方に預けたりとシンプルにやるところはシンプルにやる。個の力だけではなく、もう1枚のFWとの関係性や相手CBとの駆け引きなど、FWとしてチームを攻守両面で助けられる走りをしたいと思っています」

スピードを中心に派生していく細かい技術にも目を向け、新しい課題にも試行錯誤しながら取り組んでいく。”抜群の選手”になるために、高岡は向上心や成長速度でも他の選手たちをぶっちぎっていく。精悍な顔つきは、その意志の表れだ。

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