安藤隆人
圧倒的アタッカーに不可欠な“No.2”レフティ(南創太/日章学園高校・3年)|春風が運ぶ新世代
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校サッカーでは毎年2月、3月に全国各地で新人戦や複数のチームによるフェスティバルが開催され、4月から始まる高円宮杯プレミアリーグやプリンスリーグ、各都道府県リーグに向けた強化と育成に励んでいる。今回は春のフェスティバルにスポットを当て、そこで目に留まった選手やチームをピックアップ。全10回に渡って選手の特徴や背景、強豪校の立ち位置や展望、取り組みを掘り下げていく。第2回は南創太(日章学園高校・3年)を紹介する。
(第2回/全10回)
日章学園のナンバー2
強烈な個がいる代は、その周りにも必ずタレントがいる。
長年、筆者が育成年代を見て感じることだ。高校年代は特出したタレントばかりに注目が集まるが、集合写真を見返していて、「この選手も、この選手もプロに入って活躍している」ということが頻繁にある。
例えば、2014年の前橋育英高校だ。当時は鈴木徳真(ガンバ大阪)と渡邊凌磨(浦和レッズ)のU-17日本代表コンビが看板だったが、大学を経由してプロになった坂元達裕(コベントリー)、小泉佳穂、吉田舜(共に浦和)、岡村大八(北海道コンサドーレ札幌)がいた。2015年の東福岡は当時2年生だった藤川虎太朗(ジュビロ磐田)が注目の的だったが、小田逸稀、佐藤凌我(共にアビスパ福岡)、高江麗央(モンテディオ山形)ら同級生が成長。さらに当時3年生だった毎熊晟矢(セレッソ大阪)もFWとしてレギュラーではなかったが、後輩たちに刺激を受けるように飛躍し、今やこの世代の出世頭となっている。
思い起こせば、他にも当てはまる世代がいくつもある。これらの世代に共通するのは、その時のトップランナーに刺激を受けて、引き上げられるように周りが成長し、その中から新たなタレントが台頭してくるということだ。
今年の日章学園はまさにこの例に当てはまるチームだろう。日章学園には第1回で紹介した「高校No.1スピードアタッカー」の高岡伶颯がいる。プロのスカウトの熱視線の中心にいる高岡が躍動するなか、必ず目がいく選手がいる。それが南創太だ。
高岡が矢のような飛び出しを見せた時、すぐ近くには必ず南がいる。高岡にマークが集中した時には、いつもフリーでボールを受けてビッグチャンスをつくる南がいる。
左利きで独特のボールの持ち方をする南は、右サイドハーフとして常に前線のスペースを狙い、得意のドリブルとフリーランニングで一気にラインブレイクしていく。特にサイド突破からのクロス精度、カットインからのシュート精度は抜群だ。
その上で南は、常に高岡を視野に入れながらプレーしている。つまり相手が高岡に複数マークを付けた瞬間に広がるスペースも、かなり高い感度で察知している。だからこそ、南がフリーになったり、絶好のスペースでボールを受けたりと、チャンスに直結するプレーを生み出せるのだ。
圧倒的個性・高岡伶颯に食らいついて
J-VILLAGE CUP U-18でも、久しぶりにチームに合流した高岡と、まるでセッションを楽しむかのように大きく躍動した。
「スピードはもともと、普通よりあるほうだったと思うのですが、以前よりも格段に速くなっていると思います」
まだあどけない表情を残す南は、今の自分についてこう言及した。なぜスピードが増したのかと問いかけると、彼はこう続けた。
「それは(高岡)伶颯を孤立させないように必死で食らいついた結果だと思います。伶颯は本当になにからなにまでやってくれるので、正直、僕も頼っている部分がありました。でも、それでは彼は孤立してしまう。僕が常に伶颯の動きを見ながら、かつ僕自身も攻撃力が発揮できるようにスプリントしていくうちに、1試合を通してのスプリント回数が格段に増えたし、持続できるスピードも増したと思います」
ただ食らいつくだけではない。高岡がなにを考えているのか、前線からのプレスの道筋の予測から、高岡にボールが入った時のサポート、追い越しからのチャンスメイクまで、常に目まぐるしく変わる状況を察知しながらスプリントしなければいけない。
高岡がU-17W杯やプロの練習参加、日本高校選抜などを経て成長すればするほど、そのタスクはより難易度を増す。裏を返せば、常に自己満足することができない高い基準を持った状態で日常を過ごすことができているということ。
「伶颯は不在の時が多いし、戻ってくる度にプレーの質や周りに対する要求も格段に上がってくる。だからこそ、僕は伶颯が経験したものを言葉やプレーで教えてもらって、時には戦術ボードを使って話したり、伶颯の持っているプレーイメージを聞いたりして学ばせてもらっています。同い年ですが、伶颯の言葉は本当に頭の中に入ってくるし、成長のヒントがたくさんあるんです」
南がスポンジのような吸収力でレベルアップできているのは、圧倒的な個性をもつ高岡がいることと、なによりその学ぶ姿勢によるものだろう。
2人そろってプロで活躍する未来
南の成長は、そのまま高岡にも大きなプラスになっている。
「創太が良くなることでチームも良くなるし、僕も刺激を受けて良くなる。『もしかすると南に抜かされるかもしれない』という気持ちが、僕をより奮起させてくれる。もちろん僕自身もまだまだなので、しっかりと高い意識を持ちたいと思っています」
高岡はそう、南への思いを口にしたが、この関係性が重要なのだろう。
南にとって高岡は最高のお手本であり、最高のライバル。南は高校ラストイヤーに向けて決意をこう口にした。
「僕は『伶颯のおこぼれをもらっているし、常に狙っているよ』と直接言っていますし、感謝の気持ちは常に持っていますが、ライバルなので負けたくないです。今年は伶颯より目立つことを意識していますし、伶颯に頼らなくても勝たせられる選手になりたいです」
いつしかこの代の日章学園の集合写真を見て、「あの選手も、この選手もプロになっている」と感じるかもしれない。その中心にいるのは高岡であり、南がその流れを加速させる存在であることに期待を寄せて、2人の1年間の成長を見つめていきたい。