安藤隆人
公立中学上がりの全国注目ツインターゲット(太田修次郎&香西健心/岡山学芸館高校・3年)|春風が運ぶ新世代
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校サッカーでは毎年2月、3月に全国各地で新人戦や複数のチームによるフェスティバルが開催され、4月から始まる高円宮杯プレミアリーグやプリンスリーグ、各都道府県リーグに向けた強化と育成に励んでいる。今回は春のフェスティバルにスポットを当て、そこで目に留まった選手やチームをピックアップ。全10回に渡って選手の特徴や背景、強豪校の立ち位置や展望、取り組みを掘り下げていく。第7回は太田修次郎と香西健心(岡山学芸館高校・3年)の2トップを紹介する。
(第7回/全10回)
公立中学から全国優勝校へ
中国地方のサッカーシーンをけん引するチームの一つ、岡山学芸館高校。2022年度の選手権優勝でその名を一気に全国に轟かせたチームにおいて、2024年の看板は最前線にある。
太田修次郎と香西健心の3年生2トップだ。共に180cmオーバーで、太田は多彩なボールの受け方と前へ抜け出す力強さ、シュートの技術をもつ。香西は相手を引きずってでも突破していくパワフルなプレーが魅力。さらに2人ともポストプレーの質が高く、「強烈ツインターゲット」が生み出す前への圧力はすさまじいものがある。
2人の共通点は、中体連出身であることだ。太田は徳島県の鳴門市第一中学校、香西は岡山県の岡山市立操山中学校から岡山学芸館に飛び込んだ。近年、中学年代で優れた才能をもつ選手の多くは、Jクラブのユースや街クラブと言われる地域のクラブチームに進み、中体連であれば青森山田や静岡学園、神村学園などの強豪高校の附属中学校から内部進学する傾向が強い。
公立中学校から強豪高校に進むケースは少なく、強豪高校でレギュラークラスの選手に絞ると、その数はさらに減る。だからこそ、中体連からのチャレンジは想像以上の覚悟と決意が必要になるのだ。
「もちろんチャレンジでしたが、どうせやるなら高いレベルでやりたいと思って覚悟を決めて入学した」(香西)
太田と香西はJクラブのジュニアユースや強豪街クラブやからやって来た選手たちに埋もれることなく、持ち前のフィジカルとハードワークを武器に徐々に頭角を表していった。
ゴリゴリ2トップの解散と切磋琢磨
2022年度の選手権はスタンドから大躍進を見つめていたが、2023年はそろってトップチームに昇格、期待の「ゴリゴリ2年生2トップ」として北海道で開催されたインターハイでベールを脱いだ。
常に「狙っている」姿勢が伝わる太田と、遠くから見ても屈強な香西。初めて見た時の衝撃は忘れられない。どちらもポストプレーができるため、前線でボールを受けられる場所を狙いながらも、どちらかがそのポジションに入ると、スッと裏のスペースを狙ったりセカンドを拾う準備に入ったりする。、ポストプレーとセカンド対応の役割を巧みに入れ替えながら前線で起点を作り出すコンビネーションは圧巻だ。荒削りな部分はあったものの「これはすごいコンビになる」という大きな期待感を抱かせた2人だった。
「2人とも前への圧力があるのでかなりおもしろい」と、高原良明監督も大きな期待を寄せる2トップだが、インターハイ後は基本布陣が[3-1-4-2]から[4-2-3-1]に変わったため、太田が1トップで先発し、香西は後半途中に太田との交代で1トップに入る形が増えた。
「インターハイで得た自信を、その後につなげることができませんでした。スーパーサブ的な役割になってしまったのですが、太田からレギュラーを奪いたい気持ちと、また一緒に2トップを組みたい気持ちの両方がありました」(香西)
FW香西健心(3年)
太田がチームのエースストライカーとして成長する姿に刺激を受けながら、香西はフィジカル強化に励んだ。与えられた出場時間でチームに貢献することを常に頭におき、日々の努力を惜しまなかった。
一方で、太田にとっても香西の存在は大きな刺激になった。レギュラーから落とされても腐ることなく、より貪欲にプレーする香西を見て、常に気を引き締めながらさらなる成長を目指した。
同時にピッチに立つ機会は減った。しかし、切磋琢磨を続ける両者の関係は変わらない。出場すれば前線で身体を張ってチームの攻撃をけん引してくれる2人の存在は、チームにとっても貴重かつ重要なものとなっていった。
ツインターゲットの再結成
そして迎えた2023年12月のプレミアリーグ参入決定戦。初戦で帝京長岡に敗れて昇格は逃してしまうも、この試合で香西がゴールという結果を残したことで、その後の選手権ではインターハイ以来となる2年生ツートップを再結成することができた。
初戦は優勝候補の尚志が相手だったが、「尚志と決まった時点から戦い方を考えていた。前線はボールが収まって馬力があるあの2人を起用した」と高原監督が語ったようにインターハイで機能した[3-1-4-2]を採用し、ツインターゲットが作り出す起点から相手の守備網の破壊を狙った。
これが見事にハマる。太田と香西は息の合ったコンビネーションでチャンスを多くつくり出し、2-1の勝利に貢献。3回戦では名古屋に1-1からのPK戦で敗れて連覇はならなかったが、この試合でもこの2トップは相手に脅威をあたえ続け、太田は同点弾を決めた。
「共に泥臭いプレーができるし、きちんと試合の流れを理解して適したプレーをできる。楽しみですよ、このコンビは」と高原監督が話したように、今年は最高学年となった彼らが最前線でチームをさらに力強くけん引している。
パワーアップした姿を中国新人大会で見せつけた。ツインターゲットは初戦から前線で起点をつくり、相手のディフェンスラインを押し下げると、注目の右サイドアタッカー・万代大和ら2列目の選手の躍動を引き出し、2‐0で勝利。高川学園との準々決勝では太田がハットトリックの活躍を見せ、準決勝では同じ岡山県のライバルである玉野光南を相手に前への圧力を掛け続け、初戦同様に前線の選手が躍動して2-1の勝利。決勝進出を果たした。
決勝では香西が累積警告で出場停止となったが、太田が奮起して決勝弾をマーク。6大会ぶりの優勝に導いた。
「1トップの時は僕が裏に抜け出すよりも、一度ボールを収めて時間をつくり、トップ下の選手や両サイドアタッカーが湧き出てきやすいようにプレーすることを意識していました。でも、香西が入ることでダブルターゲットになるので、自分が背後に抜けたり、3人目の動きで関わることができる。より自分がゴール前の仕事もしやすくなった。2人でシンプルにサイドに展開すれば、中央で僕ら2人がフィニッシュワークにも専念できる。2人でクロスに飛び込むことができれば、相手にとって脅威だと思うし、それができていると思います。今年は2人でゴールを量産していきたい」(太田)
FW太田修次郎(3年)
「ずっと高原監督からは『前線で収めるだけではダメ。自分で裏を狙える選手にならないといけないし、3人目の動きでゴール前に入っていける選手にならないといけない』と言われています。太田のおかげでそのプレーを磨くことができているので、本当に感謝しています。お互いの動きを見てプレーできているので、コンビネーションはより上がっている」(香西)
全国注目のダブルターゲット。今年はピッチ上でスタートから切磋琢磨を続けており、その破壊力はこれからさらに増していくだろう。それだけではない。中体連からはい上がり、全国トップクラスになっていく。太田と香西のストーリーは、多くのサッカー少年に夢を与えてくれるはずだ。
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