中西哲生の「グループ戦術」という新境地|N14中西メソッド×堀越高校の化学反応

本田好伸

高校サッカー

2024.05.14

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中西哲生の「グループ戦術」という新境地|N14中西メソッド×堀越高校の化学反応

本田好伸

Writer / 本田好伸

2023年1月、堀越高校は全国高校サッカー選手権大会ベスト4の成績を収めた。夏のインハイは東京都予選ベスト16のチームが、わずか5カ月で飛躍を遂げたのだ。原動力となったのが、中西哲生の存在。数少ないセッションながらも、N14中西メソッドを愚直に実行した選手はレベルアップし、チームも進化した。中西が堀越高校にもち込んだものとは。そして、真髄とはなにか。
(第1回/全4回)

中西哲生が全体練習に加わった意味

中西哲生が「グループ戦術指導」という新境地を開拓した。

“新境地”という言葉は語弊があるかもしれないので言い換えると「N14中西メソッドが、個人だけでなくグループの技術にも大きな効果を発揮すると証明された」ということだ。

中西はこれまで、長友佑都や永里優季、久保建英をはじめ、公には出ていない選手を含め数多くの一流選手のパーソナルコーチとして活動してきた。中西が体系化したN14中西メソッドの価値の高さは、学びを得てトップの舞台で活躍する選手のプレーを見れば一目瞭然であり、例えば久保の所作にはその一つひとつにメソッドが詰まっている。

右サイドからカットインして繰り出される左足インカーブシュートのフォーム「軸足抜き、蹴り足着地」はその代名詞として有名だが、彼のニュートラルな立ち姿に始まり、フリーランニングの姿勢、相手と対峙する際の体の向きや動かし方、トラップの技術、守備時の足の出し方など、あらゆる動きの細部まですべて言語化されたものである。

サッカーの技術を言語化し、選手のポテンシャルを最大化する理論はこれまで、「個人」に特化するとされてきた。いわゆるパーソナルトレーニングとは技術を習得する個人練習であり、基本的にチーム単位で行うものではない。

なぜなら、選手一人ひとりに課題があり、その時々で取り組むべき内容が異なるため、一律にはできないからだ。中西を招き、全国高校サッカー選手権大会でベスト4の成績を収めた堀越高校・佐藤実監督がこんな表現をしていた。

「全体練習は、オーケストラで言えばセッションの時間。バイオリンやチェロなど、それぞれが練習してきて、最後に全員で合わせる。でも、全体で音を合わせている時にバイオリンの音だけにフォーカスして練習はしないですよね。それは個人で管理すること。本来、団体スポーツとはそういうもので、高いレベルの個人が結集したものがいいチームと言われる集団だと思います」

この考え方があるからこそ、佐藤監督は中西に声をかけて「個人」のレベルアップを狙った。ただし、N14中西メソッド×堀越高校の取り組みは、“オーケストラのセッション”の枠を飛び越える化学反応を示した。

2024年2月、中西が通算5回目の練習に顔を出したその日、意外な光景を目撃した。中西が練習中のピッチに入って、選手に声をかけていたのだ。監督でもコーチでもない中西がそこまで入り込んで指導をする姿を、これまで見たことがなかった。

パーソナルコーチが全体練習に加わって指示を出す意味を考えた。

その声に耳を傾けると、守備ラインに対して「下がるな!」と伝えて、一緒に上下動している。その挙動を見て感じた。「ああ、これはセッションだ。でも少し違う。全体を見ながら、同時に個人の“技術”にもアプローチしているのだ」と。

中西哲生×堀越高校が起こした化学反応

守備における「下がるな!」には様々な意味がある。

守備が下がればライン全体が押し込まれ、相手にゴールから近い位置でのプレーを許してしまう。背後のスペースを消せるかもしれないが、対応は後手のリアクションになる。さらには、奪った後にゴールまでの距離が生まれ、攻撃するための時間と手数が増えてしまう。加えて、メンタル的な意味も含めて「下がるな」は使われている。

当然、そうしたニュアンスも含まれているだろう。ただし、中西の意図は「技術の最大化」にあると感じた。

その日、行われた一連の練習を見ると、止める・蹴るといった技術、体の使い方や足の出し方など、堀越高校にとってもはや“定番”となったN14中西メソッドのメニューが組まれ、最後にゲーム形式という流れだった。そのため、選手たちが中西に「下がるな」と言われればそれは「前を向いてボールを奪いにいく」ということであり、その際のステップワークを含めた挙動までイメージできる。個人技術の延長が、全体の「戦術」につながる感覚だ。

一つの単語を伝えると、選手全員が共通理解を得て動きを変え、イメージを共有できる。これまで、久保などの個人を教えてきた中西のトレーニングで感じることのなかった側面だ。さらには、2023年からテクニカルアドバイザーを務める筑波大でも、複数人を集めた“ポジション別セッション”はあるものの、チーム全体を動かすことはなく、あくまで個人+数名にアプローチする内容。中西は、堀越高校で初めてグループセッションを行った。

このトレーニングが成り立つ背景には、堀越高校のスタイルも関係してくる。

以降の記事で本質を明らかにしていくが、彼らは選手が練習メニューから試合のメンバー選考まで、すべて自分たちで決定する「ボトムアップ方式」を採用し、躍進を遂げている。

中西の言葉を引用するなら、選手たちは日頃から「コップが上を向いている」状態であり、学びへの意欲と、自身の成長に対して貪欲である。そのため、みんなでやろうと決めたことを愚直に続けられるのだ。

実際、2023年7月に初めて練習に行き、次の練習は12月、その次は1月1日と3日の合計4回だけ。それでもN14中西メソッドの効果を感じられたのは、堀越高校のボトムアップの姿勢があったからに他ならない。

加えて、そのスタイルを導入した佐藤実監督の存在だ。

「監督の落とし込みのうまさですね。自分のトレーニングをすべて撮影し、編集した映像を選手がいつでも見られるようにしたり、筑波大のゴールシーンなども編集して共有したりしていたようです。一番すごいと感じたのは、僕の話した言葉をすべて文字化したところ。口頭での言語化よりも、今の子どもたちは文字化したほうが頭に残りやすい。昔とは違ってLINEなどでやりとりできますから、そのコミュニケーションが秀逸だと感じます」

中西がそう評したように、チームの歯車が回り、結果につながっていった。

堀越高校は2024年1月、全国高校サッカー選手権でベスト4の成績を収めた。インターハイ東京都予選をベスト16で終えたチームはそのわずか5カ月後、見違えるようなチームとなった。全国に“堀越旋風”を巻き起こしたきっかけに中西の存在があったことは間違いない。ただし、それだけではなかった。

N14中西メソッドと、それを受け取る選手たち、見守る監督。この関係性において、チームは最大化の道を進んだ。以降の記事で触れていくが、選手たちの個々の技術は、紛れもなくメソッドを享受して進化した。と同時に、チーム全体の技術(=グループ戦術)もレベルアップした。そしてもう一つ、精神的にも飛躍を遂げた。

N14中西メソッドは、グループの技術にも大きな効果を発揮する──。

中西に薫陶を受けた堀越高校の選手たちがピッチで示した姿は、この理論が新境地にたどり着いたことを証明していた。

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