安藤隆人
県立高校発、目指すは世界最高峰SBカイル・ウォーカー(江頭瀬南/佐賀東高校・3年)|春風が運ぶ新世代
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校サッカーでは毎年2月、3月に全国各地で新人戦や複数のチームによるフェスティバルが開催され、4月から始まる高円宮杯プレミアリーグやプリンスリーグ、各都道府県リーグに向けた強化と育成に励んでいる。今回は春のフェスティバルにスポットを当て、そこで目に留まった選手やチームをピックアップ。全10回に渡って選手の特徴や背景、強豪校の立ち位置や展望、取り組みを掘り下げていく。第9回は江頭瀬南(佐賀東高校・3年)を紹介する。
(第9回/全10回)
佐賀東の先輩を追う“ネクスト”平河悠
2023年度の第102回全国高校サッカー選手権大会で初のベスト8進出を果たした佐賀東。最終ラインからボールをていねいにつなぎ、両サイドに強烈なアタッカーをそろえた高速サイドアタックで観衆を何度も沸かせた。
このサイドアタックの肝となったのが、左サイドバックの江頭瀬南だった。爆発的な縦への突破に加えて、トップスピードに乗ったまま左足で矢のように鋭く正確なクロスを送り込む。そんな江頭の最大の魅力は、スピードを止められても他の選択肢を複数用意できる高いサッカーIQにある。ボランチの脇のスペースやボランチがサイドに流れて生まれたスペースにスッと入り込み、前と後ろを中継するパスを出したり、チャンスを演出するスルーパスを出したりして攻撃にリズムを加えられる。
突破型サイドバックであり、クロスの名手であり、「偽SB」のプレーができる組み立て型のサイドバックでもあり、そしてレフティでもある。これだけ魅力的な要素をもつ江頭は、『第2の平河悠』となる可能性を十分に秘めている。
佐賀東の偉大な先輩であり、2・3月のJ1月間MVP選手であり、U-23日本代表でもある平河と言えば、サイドを何度でも上下動できる無尽蔵なスタミナ、相手選手をぶっちぎれるスピード、切れ味抜群のドリブルを武器に山梨学院大3年時に町田ゼルビアへの入団を勝ち取ると、2023年のJ1昇格に大きく貢献。J1でも変わらぬ突破力とハードワークを見せつけ、U-23日本代表の主軸を担っている。平河は右利きだが、佐賀東時代から左サイドでその才を発揮していた。左サイドハーフの位置からの仕掛けとポゼッションへの関わりの質は当時から高かった。
江頭はSBではあるが、SHとしても十分にプレー可能だ。
「ありがたいことに1年生の時からずっと試合に出させてもらって、いろいろな経験を積んだことでプレーの幅は広がったと思います。特に相手が僕たちのサイドアタックを警戒してサイドでハメに来た時に、機を見て中央に入ってボールを受けることで、プレス回避できるようになった。それが選手権でのベスト8という結果につながったと思います。守備では絶対に負けない。奪ったら攻撃に関与して、フィニッシュまで絡む。より高いレベルを目指していきたい」
攻撃面で際立つ武器をもつ江頭だが、1対1の守備対応を含め、守備面での質も高いため、“ネクスト平河悠”かあるいはそれ以上の選手となる期待は高い。
応援されている自覚と感謝の気持ちを胸に
偉大な先輩の背中を追いながら成長を続ける江頭には、感謝の気持ちが大きなモチベーションとなっている。
「環境は自分の捉え方次第で良くも悪くもなると思っています」
実は江頭が入学した当時の佐賀東のグラウンドは土だった。はっきり言って良質な土ではなく、コートの中には小石が転がり、水捌けも悪い。練習や試合前に石を拾ったり、入念にグラウンド整備をしたり、雨が降った日には昼休みにサッカー部員がグラウンドに出て、スポンジやリヤカーを使って大きな水たまりの水をコートの外に出し、放課後の練習をスムーズに取り組めるように準備していた。
イレギュラーにバウンドするボールを正確にトラップする技術や、パスが乱れてもリカバーできる能力を磨けるという側面ではメリットもあり、これまで中野嘉大(湘南ベルマーレ)や平河、吉田陣平(アルビレックス新潟からカマタマーレ讃岐に期限付き移籍中)など技術に優れたプロ選手を輩出してきた一因には、この環境があるはずだ。
県立高校ゆえに他の強豪私立のようにグラウンドを人工芝にはできなかったが、ついに2023年4月、メイングラウンドの脇で長年使われずに雑草が生い茂っていたサブグラウンドにハーフコートサイズの人工芝グラウンドが完成した。しかも、ただ作ってもらった人工芝ではない。佐賀県の支援を受けながら業者の指導のもとにグラウンド整備から人工芝を敷く作業を現役選手とOBたちで行った「手作りの人工芝グラウンド」だった。
「手作りだからこそ、感謝の気持ちをもって大切に使わないといけない気持ちも強まりますし、やっぱり土のグラウンドとはボールコントロールやキックのしやすさが全然違います。より実践に近い感覚でプレーできるので、チーム力のアップにつながっていると思います」
もちろん土で練習することもあり、人工芝だけでは培えないスキルを身につけられる。環境に感謝し、両グラウンドのポジティブな部分をチームと個々の成長につなげている。江頭も、その1人だ。
「地域に応援されている自覚と感謝の気持ちは絶対に忘れてはいけない。だからこそ、もっと成長して、将来はプロになって恩返しをしたいです。そのためにも、サイドからでも中央からでも崩しのバリエーションをもって、それを実行できるSBになっていきたい」
サガン鳥栖U-15時代にはサイドアタッカーとして日本クラブユース選手権(U-15)大会準優勝、全日本U-15選手権大会優勝を経験。佐賀東では1年時から出番をつかみ、着実に成長を遂げてきた。そんな江頭のお手本は、マンチェスター・シティの右SBカイル・ウォーカーだ。
「守備面では(相手に)自由にやらせないし、攻撃でもサイドやボランチの位置から(ペナルティーエリア内のニアにあたるゾーンである)ポケットに入って、そのままゴールまで行く。そういう選手になりたい」
理想は高いが、同時に彼への期待値も高い。これからもハイスペックな左SBの変幻自在なプレーに注目していきたい。