本田好伸
全国ベスト4へ導いた人間力(元主将・中村健太)|N14中西メソッド×堀越高校の化学反応
Writer / 本田好伸
堀越高校の元キャプテン・中村健太は2023年1月、全国高校サッカー選手権大会準々決勝でセンセーショナルなゴールを決めてみせた。大会史に刻まれる圧巻のゴールは、決して偶然生まれたものではない。あのゴールはいかにして生まれ、なぜ堀越は全国ベスト4へ到達できたのか。そこには、中西哲生との出会いによってもたらされた再現可能な技術と、堀越高校だから構築できたチームスタイルがあった。
(第2回/全4回)
どうせやるなら「中西パスコン」で確実に
美しいカットインシュートだった。
ボックス手前、やや右寄りの位置からゴール左隅に決まったシュートは、まるで日本代表・久保建英のフィニッシュと重なる。
2024年1月4日、全国高校サッカー選手権大会準々決勝、堀越高校のキャプテン・中村健太は、佐賀東を相手にとんでもない先制点を決めて主役となった。
「あのカットインシュートは高校に入ってからずっと練習してきた形でした。ただ、当初はなんとなく感覚を覚えておこうくらいにしか練習していなかった。それが中西哲生さんと出会って『軸足を抜いて、キーパーを見ないで感覚で狙ったコースへ打って、最後に体を開く』と、プレーを言語化して教えてもらったんです。本当にそのままの形でした」
技術を整理して言語化することで、練習でも試合でも、同じプレーを再現できる。これこそが中西が伝える理論「N14中西メソッド」の真骨頂だ。
堀越高校は、中西との出会いによって確実にレベルアップした。中西が最初に練習に顔を出したのは2023年7月。選手権の躍進から5カ月前のことだった。
「最初は止める・蹴るを重点的に指導してもらいました。4人組で行うスクエアパスやロングボールの練習で意識する点を教わり、言われたことをその通りにやったら本当に止める・蹴るがうまくなったんです。『こんなにサッカーって楽しいんだ』と思いました」
その少し前、堀越高校はインターハイ東京都大会をベスト16で終え、全国への切符をつかめなかった。チームは伸び悩み、個々のレベルアップと選手層の底上げが課題。中西がまさに救世主となり、中村自身「これはもっと落とし込んだほうがいい」と痛感した。
「パス&コントロール(以下、パスコン)はもともとやっていましたが、どうせやるなら中西さんに教わった『中西パスコン』で確実にやったほうがいいと、チーム全体で毎日取り組みました。次に中西さんに来てもらったのは12月でしたが、試合中のターンやパスで少しずつ身になっていると実感できたことで、かなり自信につながりました」
堀越高校は準決勝で涙をのむことになったが、中西とのセッションは12月に1回、大会期間中の1月にも2回の合計4回で、彼らは大躍進と言っていい成果を挙げたのだ。
佐藤監督だからできた堀越流ボトムアップ
堀越高校躍進の過程で話題となったのが「ボトムアップ」という言葉だ。彼らは練習メニューだけではなく、試合のメンバー選考や選手交代にいたるまで、すべてを選手が決定するという。「堀越流ボトムアップ」の真髄は後述するが、この「選手が意思決定する」という点において、N14中西メソッドとの相性は最高だった。
「キャプテンの自分と、各学年のリーダー2人、GKリーダー1人の8人でミーティングをしてあらゆることを決めます。1、2年生の意見も重要で、学年による発言権の差はありません。自分のポジションを決める時は他の選手の意見を聞き入れ、その結果、自分が出られなくても納得します。もちろん試合には出たいですし、出られなければ悔しい気持ちはあります。ただ、それが堀越高校ですし、チームが勝つことを重視してきました」
選手が話し合いによって決定するからこそ、彼ら自身の“肌感覚”が重要である。つまり、「中西さんのメソッドがヤバい」と感じた彼らは、自分たちで中西の教えを愚直に実行することを選び、それを何カ月も毎日、取り組むことに前向きだったのだ。
もう一つ、堀越高校が飛躍を遂げた理由がある。それが「ボトムアップ」の本質だ。
ボトムアップの対義語として考えられるのは「トップダウン」であり、監督の決定が重視され、選手は指揮官の「こうしよう」という指示に従って行動するものだ。
基本的に「選手の自主性を重んじる」「選手の意見を採り入れる」と掲げているチームであっても、物事の決定権は監督にあるチームが通常だろう。ただし堀越高校の「決定権」は選手にある。では、監督はそこに関わっていないかというと、そうではない。
「ボトムアップという言葉は、実はチーム内でほとんど使いません。自分たちが主体性をもって取り組んでいますが、やはり最後は監督の意見がものすごく重要。どうすべきか悩んだ時には『こうしたらいいんじゃない?』と佐藤監督がすぐに導いてくれます」
堀越高校において、佐藤実監督とは、言わば灯台のような存在なのだ。中村は、自身がリーダーグループの長であるキャプテンに就任して、そのことを痛感したと言う。
「監督は本当にいつもサッカーの映像ばかり見ています。戦術面で佐藤監督より優れている人はいないと感じますし、佐藤監督じゃなかったら、堀越のこのやり方はできていないと、キャプテンになってから実感しています。監督がいてこそのボトムアップです」
選手たちは、試合に向けて何度も議論を重ねる。メンバーだけでなく、起こり得る様々な状況を徹底的に想定し、その時々でどのプランを実行するか。勝っている時、負けている時、ハーフタイムや後半に誰を交代するか。試合中ではなく、試合前からすでに判断材料を用意しているため、あとは実戦の舞台で選び取るような作業をしているのだ。
その過程で、佐藤監督が道標となる。
方向性を見失っていたら監督が声をかけることもあれば、選手たちが迷った際にはあらゆる事柄を相談する。監督はそこで“即座に”的確なアドバイスを伝える。選手が自信をもって決断できるのは日頃の準備の賜物であり、自分たちを見守ってくれる監督がいる安心感がなにより大きい。これこそが、「堀越流ボトムアップ」の重要な構造である。
N14中西メソッド×堀越流ボトムアップの化学反応が起きたのは、両者を引き合わせた佐藤監督の存在が第一にあり、実行する堀越高校の選手たちの姿勢あってのものだ。
そして、中村キャプテンの存在。
ここですべてを載せることはできないが、数々の言動には驚嘆させられた。現在、大学でサッカーを続ける中村という選手は、世代で傑出していると痛感する。人間力が高すぎるのだ。あらゆる受け答えも、立ち居振る舞いも、そしてなにより「言語化」も。
「小さい頃からプロを目指して高卒でプロが目標でしたが、高校に入ってからこのままでは無理だと実感した。大学を経験してプロに行きたいなと思うようになりました」
卒業を控えたある日、取材の受け答えを聞くたびに、彼への期待ばかりが募っていく。そして「こういう選手こそ、上の舞台で評価されてほしい」と願うのであった。
堀越高校は今、高校年代で注目を集めるチームの一つだ。
N14中西メソッドと堀越流ボトムアップ。言葉ばかりが先行してしまうが、中西哲生も、佐藤実監督も、そして中村健太も。なにより大事なのは、「人」だということだろう。
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