安藤隆人
絶対に見てほしい「どう猛×知性=史上最強プレス」(流通経済大柏高校)|安藤隆人の直送便(高校編)
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。高校編の今回は毎年プロサッカー選手を多数輩出する流通経済大柏高校に焦点を当てる。高校屈指の名門校の根幹は、前線からのハイプレスだ。本田裕一郎前監督時代から脈々と受け継がれ、現チームのハイプレスはかつてないほど洗練されている。野性味と賢さを兼ね備え、相手から自由を奪うチーム戦術の肝とは──。
歴代最高クラスのプレスのクオリティ
千葉県・流通経済大柏高校が得意とする前線からのハイプレスは、勢い、強度に加え、コースの切り方からその後ろのスペースの埋め方に至るまでハイクオリティだ。ユース年代最高峰の高円宮杯プレミアリーグEASTでも激しいプレスが機能し、7月23日の第11節終了時点で6勝3分2敗の3位につけている。
そもそも前線からのハイプレスは流通経済大柏の伝統であり、前任の本田裕一郎監督から現在の榎本雅大監督までチームのコンセプトとして引き継がれてきたものだ。前線からまるでどう猛なサメのように襲いかかるプレスに多くのチームが苦しんできた。彼らが築き上げたハイプレスの歴史において、現在のチームのそれは近年ないほどの質の高さを誇っている。
まず2024年、現在のチームのハイプレスがどのように行われているかを記したい。ハイプレスのスイッチを入れるのは最前線のFW粕谷悠だ。フィジカルとスプリント力に優れる粕谷がファーストディフェンダーとして相手ディフェンスラインにプレッシャーを掛け、その合図と共にトップ下の昇純希、左の亀田歩夢、右の和田哲平が鋭い出足で追随する。このスピードと強度は驚異的で、ポジションにこだわらずにパスコースを切ったり、2列目の選手が粕谷と入れ替わってDFラインに喰らいついていったりと、相手の状況を見極めながら湧き上がってくる。
ポイントは「相手の状況を見極めながら」という点だ。むやみやたらに前へプレスに行っているのではない。粕谷と亀田が「後ろの声を耳に入れながらプレーしているし、サポートをしてくれるから思い切って行ける」と異口同音に述べたように、ボランチの柚木創とCB奈須琉世が中心となって、後ろから状況と全体のバランスを見ながら、プレスを掛けるタイミングやその後の動きなどを含めて、前線の4枚を巧みにコントロールして質の高さを担保している。
さらに柚木とダブルボランチを組む稲田斗毅もポイントだ。驚異的な運動量とボール回収能力を駆使して、前線からのプレスによって生まれた後方のスペースを埋めたり、セカンドボールを回収したりするなど、一度前に向けたベクトルを折らせないように身体を張る。
前線の4枚もこうした後方からの援護射撃に甘えているわけではない。「まずは相手に蹴らせないようにプレスを掛けることを意識しています。でも、全部が全部追うわけではなくて、プレスのスイッチを入れようとする時に、後ろの状況も考えます。ついてこられなさそうだったり、きつそうだったら少しリトリートしたり、後ろの負担を減らすことと、そのままボールを奪ってゴールに直結するプレーとの両方を意識しています」とFW粕谷が言うように、後ろの陣形やプレスポイントにも気を配っているからこそ、チームとしてプレスを軸にした共通認識をもてている。
即時奪回とプレスの融合
取材に行ったプレミアEAST第5節のFC東京U-18戦は、まさにその軸を強烈に感じた。
2-2で迎えた42分、相手のDFラインのパス回しに対して連続プレスすると、GKにバックパスをした瞬間、最前線まで追いかけた亀田がそのままギアを上げて猛然と距離を詰めたのだ。
「GKにボールが出た時、後ろの選手に『行け』と言われたし、僕も言われる前から動いていた。相手のGKが右利きだったので、(ボールを)左足にもたせるために右を切りながらプレスを掛けた」
この狙い通り、相手GKの左足トラップが大きくなった瞬間を見逃さずに身体を入れてボールを奪い取ると、そのまま無人のゴールに蹴り込んだ。さらに55分には右サイドで粕谷が激しいプレスからボールを奪い取ると、そのままカットインして右足一閃。強烈なミドルを突き刺し、4-3で勝利を手にした。
「今日は相手のSBの選手が高い位置で可変する形だったので、そこをケアしつつ、途中から僕が前に出て、CBまでSHが寄せに行くようにしてFWが1枚降りてバランスを取る形にしました」(亀田)と、彼らはどう猛かつ冷静だった。
プレミアで猛威を奮う前線からのプレス。榎本監督はこう言及する。
「前線からのプレスというよりも『ボールを奪い返すスピード』にこだわった結果だと思います。ただ追い回すのではなく、ボールを意図的に奪うことが重要で、味方や相手との距離感、寄せる角度、スピードの強弱も考える知的さを兼ね備えていないといけません。2024年は特に映像を用いたミーティングをたくさんやっていて、ピッチ上で起こりうる現象を選手たちに細かく伝えています。練習でも、スライドを入れてからのプレスのハメ方などを徹底している。全体で予測をしながら動きつつ、常に本気でボールを奪いに行くメンタリティがベースとなった『ボールの奪い返し』が前線からのプレスにリンクしていると思います」
賢さを備えながら、野生的に前に激しく行く。一方が欠けていても、今の流通経済大柏のハイプレスは完成しない。
「相手が嫌気をさしてくることを意識している」(榎本監督)
とことん相手を苦しめ、自分たちが躍動する即時奪回を軸にした前線からのハイプレス。彼らがピッチ上で見せるどう猛さとインテリジェンスを組み合わせた極上のショーを、ぜひ一度、試合会場で見てもらいたい。
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