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サブ担当歴11年。ゴール裏から声を届け続けた三村ロンドが、メインMCの座を掴むまで|湘南スタジアムナビゲーター・三村ロンドの軌跡
Writer / 青木ひかる
Interviewer / 福田悠
「湘南ベルマーレを愛するみんな、熱いレスポンスをよろしく!」
試合前、レモンガススタジアム平塚に“煽り”が響く。声の主は、スタジアムナビゲーター・三村ロンド。選手とファン・サポーターの士気を高め、一体感を生み出すために欠かせない存在だ。
今でこそ、湘南の“名物スタジアムMC”として地位を確立しているが、決して簡単な道のりではなかった。
自らを「諦めの悪い男」だと話す三村が、ナビゲーター就任初年度からの20年を振り返る。
(第1回/全3回)
“いじられ役”からのスタート
三村ロンドが湘南ベルマーレと出会ったのは、俳優、ラジオDJを経てナレーターに転身し、4年目の2003年。当時所属していた事務所の先輩・田子千尋さんが湘南のスタジアムナビゲーターに就任し、そのアシスタント役に抜擢されたことだった。
「どこかのチームを応援しているとかはなかったんですけど、よくJリーグを見に行っていたんです。だから、『知識の穴埋めと勉強を兼ねて、お前も行ってこい!』と。もともと新しいことや挑戦することが好きでしたし、現場を見て学べる絶好の機会だと思って喜んで引き受けました」
明るく陽気なキャラクターを生かし、場を和ませる“いじられ役”として先輩をサポートしつつ、スタジアム外のイベントステージのMCを担当。3年目にスタッフから渡された湘南の公式マスコット・キングベルI世とおそろいの冠が、三村のトレードマークになった。
当初は「自分の歩む方向性はこれでいいのか」という不安が拭えなかったというが、湘南での役割が見つかった瞬間だった。
ゴール裏はアイデアの宝庫
サブの役回りではありながらも、三村は“湘南の第2のマスコット”として徐々に頭角を現していく。
「ホームだけでなく、アウェイ情報も集めたい」
持ち前の好奇心がうずき、アウェイゲームまで足を運び始めたことが、一つの転機となる。
「試合はもちろん、他のクラブはどんなMCや演出をしているのか知りたくて、最初は一人で記者席で観戦していたんです。でも、ある年のアウェイ鳥栖戦でゴール裏デビューをしたら、楽しくなっちゃって。それからは可能な限り参戦するようになりました」
アウェイゲームではゴール裏が定位置となった三村は、時に喜び、時に涙しながら、“湘南愛”を深めていった。
「そのうちサポーターから『こういう盛り上げ方ができないか』という相談が集まってくるようになって、それを活かす企画を考えるようになりました。だいたい『お金がないから無理!』って言われるんだけど、僕、諦めが悪いから(笑)。お金を使わずにできる方法を考えて、もう一度提案して……。オリジナルのアイデアを形にするのも、すごく面白かったですね」
試合前に選手バスを迎え入れる「勝利への花道」も、三村が立案した企画の一つ。
こうしてサブナビゲーターの枠を飛び越え、“ベルマーレファミリー”の一員として、クラブやファン・サポーターの信頼を積み上げた。
11年越しの“脇役”を全うする
目に見える形でクラブへの愛と影響力を発揮していた。しかし、メインの座にはなかなか手が届かない。ジレンマに陥った三村は、2011年に一度だけサブナビゲーターの退任を申し出ている。
「湘南に愛着もあったけど、GKと同じで席は一つしかない。自分はもっと声を使って仕事をしたいし、もう辞めようかなと。でも、クラブからは『この先ロンドがいなくなるのは考えられない』とかなり強く引き止められ、続けることを決めました」
そして、2014シーズン。その努力が花開き、三村は11年越しにメインナビゲーターに就任した。
「感慨深さもありましたけど、自分はあくまで脇役の一人として、選手、スタッフ、サポーターと一緒に空気を作れたらなと。その脇役を全うするために、150、160%を出す。その気持ちは、今も変わりません」
時には商売道具の喉が潰れかけることもある。それでも、全力でピッチに声を届けることは、ゴール裏で得た学びの一つでもある。
「気持ちを抑え込んでセーブするようなら、サッカーのスタジアムMCはやらない方がいい。だって、スタジアムにいるみんなが人生を懸けて1試合に向かっているのに、自分だけ中途半端なことはできないでしょ」
ホームでもアウェイでも、ゴール裏でも放送ブースでも。
目の前の勝利に向かって、力の限り、三村ロンドは叫び続ける。