会いに来てくれる等身大のヒーロー|“コイカジ”がつなげるフットボールの輪

F-connect

Jリーグ

2024.05.28

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会いに来てくれる等身大のヒーロー|“コイカジ”がつなげるフットボールの輪

北健一郎

Writer / 北健一郎

Interviewer / 北健一郎

Editor / 難波拓未

小池純輝と梶川諒太。東京ヴェルディでファン・サポーターに愛された“コイカジ”は、どのようにして誕生したのか。そして、共同で立ち上げた一般社団法人F-connectとは。第3回ではF-connectの活動とその思い、現在実施中の児童養護施設の支援につながるクラウドファンディングについて語ってもらった。
(第3回/全3回)

アスリートの価値とはなにか

──梶川選手はピッチ外の活動に時間を費やすことで、ピッチ内での結果を出すことが難しくなるかもしれないという不安はなかったんですか?

梶川 サッカーを最優先にする生活をしていたので、なにも感じていなかったと言うとウソになります。でも、純輝くんといろんなことを話したり一緒に過ごしたりするなかで、「本当にサッカーのためだけに時間を使っていてもいいのか」という思いもありました。

小池 そうだったんだ。

梶川 大卒で一般企業に就職した友達とごはんを食べに行くと、社会のなかで働いて、いろんなことに揉まれながらやっているんだなと思うことが多かった。自分はこのままサッカーだけやっていて大丈夫なのか、と。なにか踏み出すことも必要だと思っていたなかでの『F-connect』でした。だから、ネガティブな感情はほとんどありませんでした。

──2人は一般社団法人F-connectを立ち上げて積極的に社会貢献活動をしていますけど、2014年の時点ではそういう活動を主体的に始める選手自体が珍しかったですよね。

小池 そうですね、僕が知る限りはいなかったですね。

──スポンサーの力を借りて始めるものとも違い、自分たちだけで始める形なので、大変なことや手探りなことも多かったのではないですか?

小池 今も手探りなんですけどね(笑)。活動を始めたものの、自分たちになにができるのかも分かっていなくて。「なにかしたい」という気持ちが先行してしまっていました。

梶川 うんうん。

小池 神奈川のとある施設に行ってサッカーをした時、 最初はサッカーが好きで積極的な子の2、3人が一緒にボールを蹴ってくれて、ほとんどの子たちは周りで見ている感じでした。でも、時間が経つごとに1人、2人と一緒にボールを蹴る子が増えていって、帰る頃にはボールが1個しかないのにみんなで追いかけるような状況になったんです。それもうれしかったんですけど、帰り際、職員の方に「普段だったら絶対に輪に入らない子が必死になってボールを追いかけていて驚きました」と言ってもらいました。

明確な理由は分からないけど、そういう瞬間にその子が行動を変えたわけじゃないですか。そこにアスリートとしての価値、スポーツの価値を感じました。その辺りから「自分たちでも子どもたちに対してなにか影響を与えられるんじゃないか。役に立てるんじゃないか」ということに気付かされていった感覚でした。

梶川 施設には18歳までしかいられないこともそうだし、最初は全然知らなかった。そういう社会課題があることを活動と共に知っていきましたね。

──小池選手と梶川選手は小さい頃からサッカー選手になるという夢を追いかけてきたと思います。でも、児童養護施設では夢があっても夢を追いかけることが難しい場合もある。

梶川 僕は当たり前のようにサッカーボールを追いかけて、当たり前のようにプロになりたいと思って生きてきました。でも、施設は金銭面や環境面など、いろんな理由が絡み合って、夢を追いかけにくい状況になっていると思います。だったら、「プロスポーツ選手の僕たちと触れ合うことで、少しでもなにかを感じてもらえるんじゃないか」と思ったんです。伝え方は難しいですけど、やっぱりそういうきっかけをつくることで、子どもたちが大きな目標をもてるようになるんじゃないかなと感じました。

子どもにいじられる関係性をつくる

──小池選手と梶川選手が取り組んでいる活動は、プレーするカテゴリーや代表歴の有無は関係なく、サッカー選手が第一歩を生み出したことにすごく価値があると感じました。

小池 そうですね。これはカジともよく話すんですけど、サッカー界をピラミッドに置き換えると、僕らはトップ・オブ・トップではなく、おそらく第2、第3層ぐらい。海外でプレーしているような代表選手、J1で実績のある選手ではないけど、J2で長くプレーできて、30代後半になっても続けられている。そういう意味では、ベンチマークしやすいと思うんです。なので、次のキャリアでも輝く姿を見せられたら、一緒にやっていた現役の後輩が「そう言えば、コイカジは現役時代に児童養護施設に行ってたな。俺もなにか行動してみようかな」と思えるかもしれない。究極ですけど、日本サッカー界に影響を与えられるんじゃないかという思いもあります。

──確実に影響を与えていると思います。

小池 僕は愛媛で2年プレーしていた時期があったので、その2年間は神奈川の施設に行けませんでした。3年ぶりくらいに施設に行った時、子どもに知っているサッカー選手をなにげなく聞いたんですよ。本田圭佑選手や香川真司選手の名前が最初に出てくると思ったら、最初にノム(野村直輝/大分トリニータ)と言ったんです。これってすごいことだなと。「まず、俺だろ!」と思ったんですが(笑)。

梶川 コイカジじゃないんかい(笑)。

小池 施設の子どもたちにとってはノムがサッカー選手の象徴であり、ヒーローということ。そういう存在になれていると感じられたのもすごくうれしかったし、やっている価値を感じました。

梶川 身近なお兄ちゃん的存在ですよね。

梶川 施設の子は最初は人見知りというか、少し構える子もいるんですけど、会う回数を重ねることで距離感が近くなっていく。もう普通に「気持ち悪い!」といじってくるようになりました(笑)。

小池 めっちゃいじられてるよね(笑)。

梶川 でも、これって本当に数を重ねていかないとならない関係性だなと。単発でサッカー教室をやっただけだと、本当に近い距離で仲良くなれないと思う。友達みたいな関係になれることが僕たちの活動の良さなんです。

一緒にふざけながらサッカーをやっているお兄ちゃんが、選手としてピッチでプレーしていることを特別に感じてくれているのかどうかは分からないけど、そういうものを感じてもらえていたらいいな、と。なので、より近い距離で触れ合うことができたらいいなと思っています。

小池 F-connectの活動が、子どもたちにどれだけ影響を与えられているかわかりませんが、少しでも力になれていたら嬉しいです。

選手、サポーター、子どもをつなぐリュック

──今回、F-connectの新たな取り組みとしてクラウドファンディングに挑戦するということで、その背景や商品について教えていただけますか?

小池 F-connectの活動に共感していただいた株式会社BATONさんを約2年前に紹介していただき、サポーターの試合観戦に特化したリュックを製作することになりました。実際にいつも試合を観に行っているファン・サポーターの方にヒアリングして、普段のカバンの使い方をお聞きしました。

児童養護施設の職員の方にも、子どもたちがどういうふうにリュックを使っているのかを伺いました。ヒアリングと試作を重ね、いろんな機能を付けてリリースできました。 本当に長い時間を費やしていろんな人の声を拾えましたし、一つの商品が作られていく過程を学ぶこともできました。

──梶川選手も積極的に参加されたんですよね?

梶川 僕も遠征ではリュックを使っています。移動の際に新幹線や飛行機の床に置くんですけど、汚いかなと、下に置くことには抵抗感がありました。なので、リュックの底は汚れにくい素材にしたいという意見を出しました。それが機能として反映されて出来上がった時の感動は大きかったですね。

──売り上げに応じて、リュックを児童養護施設にプレゼントするんですよね?

小池 BATONさんにご協力いただいて、目標を達成していくごとに提供していただけることになりました。施設の子たちにリュックを届けられると、そのリュックを背負って生活したり、試合を観に来てくれたりする。もちろん僕たちも使っていますし、サポーターの方も使っている。そして、子どもたちも使う。リュックを通して「つながり」が生まれていく。F-connectの思いが詰まったリュックになっています。

──自分たちでゼロから作り上げる、F-connectのやり方を体現しているのかなと思います。

小池 一緒に開発させていただいたBATONさんには感謝しかないですし、BATONさんのこともたくさんの人に知ってもらえたらうれしいですね。

──本当に素敵なリュックですね。

梶川 リュックから取り外して座れるクッションは、スタジアムの固いシートからお尻を守ってくれますし、普段はパソコンの保護にもなるんです。大事なパソコンも安心して持ち運べますし、使い勝手はかなり良いと思います。

小池 4月16日からクラウドファンディングがスタートしています。僕も毎日使っているんですけど、すごく使い勝手が良くて、日常使いもできるので気に入っています。ぜひみなさんに使っていただきたいです。きっと満足してもらえると思います。

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