浦正弘
逆境こそがチャンスの証。「世界の壁を超える」小川航基、2年後への誓い|北中米W杯の主役は俺だ
Writer / 青木ひかる
Editor / 難波拓未
鋭い眼光が2年後のワールドカップを照らす。森保ジャパンの“新参者”小川航基は、最大のアピールの場であるW杯最終予選で、し烈な1トップ争いに燃えている。世代別代表として輝いた過去の栄光も塗り替えるべく、中国戦では誰よりも貪欲にゴールだけを狙った──。
「空気を読まない」貪欲さが生んだ、渾身の1本
「残り10分しか出られなかったことも含め、悔しい」
9月5日、FIFAワールドカップ26のアジア最終予選の初戦が行われ、日本代表は中国代表を相手に7-0で勝利を収めた。
例年アジア最終予選を苦戦している教訓から、「油断はできない」と気を引き締めて臨んだ一戦は、終始、日本が主導権を握って中国を圧倒。予想を大きく上回る快勝を収め、試合後の取材エリアに現れたサムライブルーの戦士たちは、それぞれの満足感や手応えを語った。
ただ、この試合で唯一「悔しさ」を口にする選手がいた。79分に上田綺世と代わってピッチに投入された、FW小川航基だ。
局面としては5-0と得点数を重ね、すでに勝利は約束されたも同然の状況下。前半同様、最終ラインはハーフウェーラインまで上がり、いつ追加点が生まれてもおかしくはないものの、「さらにゴールを奪う」というよりも「このままゼロで抑えよう」という雰囲気が流れていた。
ところが、小川はそんな空気をものともしない。定位置の頂点に立つと、相手ディフェンス陣と駆け引きをしながら、何度も何度も周りの味方にパスを要求し続ける。個人だけを切り取れば、とても5点差が付いているとは思えない動きだった。
「ずっと『早く前にボールを運べ』とジェスチャーしていました。折り合いとか、そういったものは僕のなかには何もない。最後の笛が鳴るまで点を取りに行こう、と。空気の読めないFWなので(笑)」
そんな小川の思いを汲み取ったのは、この日およそ7カ月ぶりに代表復帰した伊東純也。90 + 4分、右サイドから中央に入り込んだ伊東が左サイドにそのまま流れ、ペナルティーエリアの外からクロスを上げると、小川はゴール前に走り込んでピタリと頭に合わせた。
「伊東選手のプレーやクロスは映像でもずっと見ていて、自分が得意な攻撃になると思っていました。ワンステップで上げてくるのもわかった上で、動き出しもできたと思う」
シュートはイメージ通りの完璧な形とタイミングだった。しかし、軌道がわずかに高くボールはバーに弾かれ、ネットを揺らすことはできず。
試合後の整列時、小川を迎えた伊東が「決めろよ」と言わんばかりにニヤリと笑う。小川も口元を少し緩ませハイタッチに応えたが、その後は静かに空を見つめた。
思い出の地・バーレーンで真価を示す
ポジティブに考えれば、ボールを引き出す動きを見せ続け、限られた時間で大きな決定機を作り出せたことは、同じく10数分の時間でシュートに持ち込めなかった2024年3月のA代表復帰戦(3月21日/W杯2次予選・北朝鮮戦)から、一歩前進できたと言える。
ただ、小川が狙うのは不動のエースストライカーの座だ。ベンチに控えるFW浅野拓磨やFW細谷真大との序列争いから頭一つ抜け、現状1トップのファーストチョイスに入る上田から先発を奪い取るためにも、これ以上ない絶好のアピールチャンスだったことは間違いない。「あとは決め切るだけだった」という、どの取材現場でもよく聞く一言が、いつも以上に重く感じられた。
それでも、追い込まれた状況から起死回生を見せるのが、小川航基のセオリー。今回の最終予選についても、7月の肩の負傷により招集が危ぶまれるなか、メンバー発表直前で戦線復帰して今シーズン初ゴールを決め、24名の枠に食い込んでいる。
「これまでたくさんのことがあって、大きな怪我も経験してきたし、本当に深い谷を経験してきた。でも、どんな時も自分自身がやるべきことをやってきたからこそ、今ここにいると思っている」
様々な逆境を乗り越えようやくつかんだ、日本代表としてW杯を戦うチャンス。「次こそは」と、小川は自らに喝を入れる。
次節を戦うバーレーンという場所は、小川にとってU-19アジア選手権で3ゴールを決め、史上初の優勝を果たしたゆかりの地でもある。
「自分の得点で『日本人はもっとやれる』、『世界でも全然戦っていける』というところを示し、日本のサッカーが世界の壁を乗り越えるための力になりたい」
そんな高い目標を掲げる小川は、「次期エース候補」として名を刻んだ場所で、「正真正銘のエース」としての真価を示すことができるか。