Taisei Iwamoto
これが旗手怜央の生きる道|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsインドネシア
Writer / 安藤隆人
ついに、日本代表で旗手怜央が躍動し始めた。アジアカップではイラク戦で途中出場してコーナーキックからアシストすると、先発出場したインドネシア戦では攻守に関わってチームを勝利に導いた。これまで森保ジャパンでは不遇だった旗手が、自分の良さを出せるようになった理由は。
久保建英と見せた絶妙の連携
ようやく、という言葉が正しいかもしれない。UEFAチャンピオンズリーグでレアル・マドリーからゴールを決めた実力者が、日本代表でも真価を発揮しつつある。
旗手怜央。
日本代表における旗手の主戦場はトップ下かボランチだ。2021年からA代表に名を連ねていたが、2023年までの出場試合数は7試合。ワールドカップの登録メンバー26名からも落選していた。
森保ジャパンにはフィットしないのではないか--。このアジアカップで、旗手は周囲のそんな見方を覆しつつある。
初戦のベトナム戦こそ出番は来なかったが、第2戦のイラク戦では0-2で迎えた74分に守田英正に代わって投入されると、後半アディショナルタイムにコーナーキックから遠藤航のゴールをアシストした。
そして迎えたインドネシア戦。ボランチで先発起用されると、遠藤とコンビを組みながら相手の縦パスをカットしたり、カウンターのケアを見せたりと守備面で献身的なプレーを見せる一方で、状況に応じてトップ下の位置まで上がって、トップ下の久保建英と横並びになったり、時には追い越して3トップの連携に絡んだりと攻撃面でも厚みをもたらした。
特にビルドアップ時の前のスペースへの侵入と、相手の背後への動きはかなり効果的で、「自分がボールを受けよう」という利己的なプレーではなく、味方が有効活用できるスペースが空くように相手を牽制しようという利他的なプレーだった。
「タケ(久保建英)がいろいろなところへ顔を出してくれる分、僕がそこをうまく気をつかいながらポジションをとれたことはすごく良かったと思います。逆に僕が動いた時にタケもスッと下がってきたり、僕の動きを見てくれていたこともあったので、そこはすごく良かったのかなと思います」
インドネシア戦後に手応えを語ったように、グループステージを通して周りの選手からの信頼感をグッと高めたと言っていいだろう。
周りを生かし、自分も生きる
もともと旗手は技術とパワーを兼ね揃えたドリブルで打開することもできるし、ミドルレンジから放つ強烈なシュートも持っている。
ただ、日本代表には強烈なタレントを持った選手が何人もいる。自分がチームの中心となって、“主役”としてプレーできるとは限らない。旗手は、そうなった時の振る舞いを模索し続けてきたのだろう。そして、一つの答えに辿り着いたように見える。
チームファーストで常に周りのメカニズムを把握して、それに必要な立ち位置とプレー選択をする。インドネシア戦で周りからやりやすいと感じさせたことで、日本代表における“必要性”は高まった。
裏を返せば、献身的なこの姿勢こそが自分が日本代表で生き残っていくための術だということ。バーレーン戦の前々日の練習ではこう口にしている。
「(日本代表には)両ウィングに力のある選手がいるので、そこを起点に守備の部分を徹底してやりたい。前の選手がよりゴールに近い位置でプレーをしてほしいという気持ちがあるので、そのために周りの選手の動きと合わせながら、自分の特徴をどんどん出せればいいなと思います」
ボールを持った時のプレーだけではなく、ボールを持っていない時でも、旗手がいることでピッチ内がうまく回るようになり、他の選手たちが輝ける環境をつくる。
自分を生かすために、周りを生かす--。
ただし、“それだけ”の選手になるつもりはない。
「欲を言えばアシストやゴールという結果を残したかったというのはあります」
インドネシア戦の試合後は悔しさを口にしたように、自分が試合を決める、結果を出すというギラギラ感は失っていない。牙は捨てるどころか、さらに研ぎ澄ませて。利己と利他を意図的にコントロールして、旗手怜央は自分のやり方で階段を駆け上がっていく。