Taisei Iwamoto
上田綺世のゴールは偶然の産物ではない|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsインドネシア
Writer / 北健一郎
グループステージ敗退もありえたインドネシアとの第3戦。日本のピンチを救ったのは背番号9、上田綺世だった。自ら獲得したPKを沈めると、後半に2点目、さらにオウンゴールとなったものの3点目につながるシュートも放った。なぜゴールを決め続けられるのか、上田とのやりとりにヒントがあった。
ストライカーは1人では点を取れない
日本代表のエースストライカーを取り囲むミックスゾーンは、ときどき“変な空気”になる。
「どういう意味ですか?」
記者からの質問を、率直に聞き返す。イライラしているとか、キレているとか、そういうわけではない。何を聞こうとしているのか、純粋に知りたい。自分の考えを整理して、ちゃんと答えたい。わからないことはわからないままにしたくない。
一連のやりとりに、なぜ上田綺世が、日本代表の“9番”になれたのかが詰まっている気がする。
アジアカップ3試合目のインドネシア戦は“事実上のハットトリック”だった。1点目は自ら倒されて獲得したPKを決めて、2点目は堂安からのクロスをファーポストに走り込んで合わせた。オウンゴールとなった3点目は伊東純也のクロスを受けて、DFをかわして右足を振り抜いたものだ。
1点目につながったPKは、堂安が右から中にカットイン、DFの目線が外れた瞬間に背後を取る、上田らしい動き出しから生まれた。
「律とはここ(カタール)に入ってからもそうだし、一緒にプレーしながら細かく話していたので」
どんなにシュート技術が高くても、自分の武器を発揮する場面をつくれなければゴールにはならない。個人の技術を磨くのはもちろん、味方との信頼関係が肝になる。
ストライカーは1人では点を取れない――。上田はそのことをよく知っている。
ゴールを決めてもなお考え続ける
アジアカップ開幕前に発売されたNumber1089・1090号に上田のインタビュー記事が載っていた。「得点者の生存哲学。」というタイトルのそれは、上田に抱いていた「天性の才能を持ったストライカー」というイメージを良い意味で大きく変えるものだった。
東京五輪世代のエースだった男は、しかし、順風満帆なサッカー人生を送ってきたわけではなかった。本人の口からは知られざる過去が明かされている。
鹿島アントラーズノルテジュニアユースでプレーしていた中学時代は、サイズの問題もあって試合に絡めなかったこと。たまに試合に出られたとしてもポジションは自分が希望するFWではなく、サイドハーフやボランチばかりだった。
鹿島ユースへ昇格できずに進学した鹿島学園高校では、1学年に70人いる部員が6チームに振り分けられる中で、一番下だったこと。上のレベルを目指そうとする選手にすれば、あまりにも低すぎるスタート地点といっていいだろう。
だが、上田はそこから這い上がってきた。自分の実力を客観的に認識し、目の前の課題を乗り越えて、チームに必要とされる選手になってきた。高校では2年からはトップチームで試合に出るようになって、3年時には10番を背負って高校選手権に出場して2ゴールを決めた。
どうすればゴールを決められるのか。
どうすれば監督から信頼されるのか。
どうすれば今よりも上に行けるのか。
頭の中で思考をし続け、ピッチの上で試行し続ける。その積み重ねの量が圧倒的に多いから、最初はうまくいかなくても、乗り越えていける。目に見える結果を出せば、自分を見てくれて、チャンスの数が増える。
2023年は日本代表で最多となる7ゴールを挙げて、アジアカップでも2ゴールでインドネシア戦の勝利に導いた。メディアで紹介される時に「日本代表のエース」という枕詞がつくことも多くなった。ただ、本人に浮かれた様子はない。
――絶対に勝たなきゃいけない試合で複数得点を決めて、エースとしての貫禄が漂ってきたと思いますが。
「そうですか?」
「うれしいです」とか「まだまだです」とかではなく、「そうですか?」なところが上田らしい。日本代表のエースになれたという実感が、本当にないのだろう。ポーカーフェイスのまま、ゴールを決めた感想を口にする。
「特別な気持ちはないですけど、最低限の仕事はできたかなとは思います。(ゴールを)取れたところは取れたで、 僕は切り離して考えています」
シュートに至る過程はどうだったか。もっと良い選択肢はあったのではないか。ゴールネットを揺らしてもなお、考え続ける。この男が決めるゴールは、決して偶然の産物ではない。
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