Taisei Iwamoto
リアル・アオアシ。中山雄太の俯瞰力|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsインドネシア
Writer / 北健一郎
“陰のMVP”と言えるかもしれない。インドネシア戦で初出場した中山雄太は、2試合を外から見ていて、最適なバランスをとることに心を砕いたという。日本代表の左サイドバックには、まるで人気サッカー漫画「アオアシ」の主人公のような、俯瞰力がある。
「左」でバランスをとった理由
恐ろしいほど、見えている。
中山雄太のことだ。
左サイドバックを主戦場とする26歳は、インドネシア戦で初先発した。3-1で勝利したチームにおいて、中山が目立った活躍をしたわけではない。積極的な攻め上がりで何度もチャンスをつくったのは右サイドバックの毎熊晟矢だった。
なぜ、中山は後ろに残る時間が長かったのか?試合後のミックスゾーンで答え合わせすると、そこには明確な狙いがあった。
「1、2試合目での反省ですけど、アジアのチームはショートカウンターを狙っているイメージがあったので、前に前に行きすぎて失った瞬間、両サイドバックが高い位置にいすぎるというのが僕としては怖いなというのと、ネガトラに入る時に逆のサイドバックが右サイドに入りきれないというのがあったので、左でバランスをとるかたちにしました」
アジアのチームが相手になれば、日本がボールを持つ時間は必然的に増える。攻撃に軸足を置いた結果、悪いボールの失い方をして、カウンターから失点を喫してしまっていた。中山は“あえて”攻撃参加を自重した。
現状、中山の立場は伊藤洋輝に次ぐ、左サイドバックの2番手だ。毎熊が「自分の良さを出したい」と語っていたように、序列を上げるにはアピールが必要だった。
ただ、個人で良いプレーができても、チームが負けては元も子もない。
勝つためには、両サイドバックがガンガン上がるのではなく、全体のバランスを考えた上で、自分が後ろに残るほうがいい。
チームの状況、選手の個性、相手の狙い。それら全てを俯瞰してとらえ、自分がやるべきことを整理し、ピッチの上で表現できる。
そんな選手は、なかなかいない。
中山流・目立たないアピール
チームを救ったプレーもあった。
30分、日本の右サイドを突かれて、ペナルティーエリアの深い位置、いわゆるポケットから中に折り返された。右サイドを破られて失点したイラク戦がよぎる。しかし、左サイドバックの中山がニアまで絞ってクリアし、ピンチを未然に防いだ。
前半、インドネシアを相手にヒヤリとさせられたのは、この1回ぐらいだった。ただ、その1回で決められ、相手を乗せてしまったのが、ベトナム戦とイラク戦だった。中山のブロックはゴールと同じぐらい価値のあるプレーだったと思う。
本人はサラッと振り返る。
「あんまり覚えてないですけど(笑)。僕があそこにいたのは多分、ファーに敵がいなかったからでしょうし、トミと2対1を作れていて、トミが相手選手のマークにつけていたので、周りの状況を冷静に判断できたからかなと思います」
中山のプレーを見ながら、話を聞きながら、思い出したのはあるサッカー漫画だった。
「アオアシ」
主人公の青井葦人はサイドバックだ。
もともとはFWだったが、ピッチを俯瞰できる特別な能力を持っているのを見抜かれ、サイドバックにコンバートされた。
攻撃では相手が嫌がる立ち位置をとってチャンスを創出し、守備では危険なスペースをいち早く察知して食い止める。
サイドを無尽蔵に駆け上がるわけでも、ドリブルで何人もはがすわけでも、とんでもないフィジカルがあるわけでもない。
もしかしたら「地味な選手」といえるかもしれない。ただ、強烈な武器を持っている日本代表というグループにおいて、個人よりもチームを優先させられる中山の存在は、むしろ異彩を放つ。
「試合前は言えなかったですけど、出ていなかった選手がメンバーを代わるということで、その選手は試されているということであり、次が日本代表として問われている本当の試合だと思っています」
ワールドカップのメンバーに選ばれながら、翌日の試合で大怪我に見舞われてから1年あまり。あと一歩で辿り着けなかったカタールの地で、中山雄太が大きな一歩を踏み出した。
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