Taisei Iwamoto
“ごっつぁんゴール”に見えた堂安律のすごみ|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsバーレーン
Writer / 安藤隆人
ラウンド16のバーレーン戦。勝敗の行方を占う重要な“先制点”を決めたのは堂安律だった。3試合目にして初スタメンとなった10番は、集中力を研ぎ澄ませて、チャンスの匂いを嗅ぎ取っていた。味方のシュートがポストに当たって、こぼれを拾って決めた“ごっつぁんゴール”。そこから見える堂安のすごみとは。
初スタメン、初ゴール
直感力。
堂安律のすごみを言葉で表現しろと言われたら、筆者はこう答える。
チャンスになると閃光のように現れて、胸のすくようなゴールを決める。アジアカップラウンド16のバーレーン戦でのゴールはまさに“堂安らしい”ものだった。
日本の10番を背負う堂安はグループリーグ第1戦で63分、第2戦では61分から投入され、第3戦ではスタメン出場。しかし、ゴールという結果は残せていなかった。
「点がほしい」と渇望していた彼に、ついにその時がやってきた。31分、敵陣左サイドでのボール回し。遠藤航から中央に絞った右サイドバックの毎熊晟矢にボールが渡ると、同レーンの前にいた堂安は少し右に膨らみながら、毎熊のシュートコースと相手DFラインの背後を狙えるポジショニングを瞬時にとった。
すると毎熊が右足で目の覚めるミドルシュートを放つ。強烈な弾丸ライナーのシュートは左ポストを直撃。猛烈な勢いで跳ね返ったボールの先にいたのは堂安だった。ワンバウンドで高速で向かってくるボールを、ダッシュで迎え入れると、鮮やかな左足ワントラップから冷静に左足インサイドでガラ空きのゴールに突き刺した。
決勝トーナメント初戦という緊迫感の中で、均衡を崩した価値ある一撃。先制点をとって試合を優位に運んだチームは、クリーンシートこそ逃したが3-1で勝利。ベスト8進出を手にした。
「チームメイトには僕が得点を取りたいという気持ちがバレているので、みんなが喜んでくれていると思う」
試合後のミックスゾーンで、堂安はいつもの強気な表情とはっきりとした物言いで、決勝弾への思いを口にした。
“ごっつぁんゴール”を決める理由
目の前にこぼれてきたボールを押し込んだ、いわゆる“ごっつぁんゴール”にも見えるだろう。
だが、そこには堂安の直感力とも言える、チャンスをかぎ分ける嗅覚と、瞬時の冷静な判断が詰まっていた。
毎熊がボールを持った瞬間、毎熊からスルーパスを受けてからのシュートと、シュートのこぼれを狙うという2つの選択肢を持ってポジショニングをとった。毎熊が右足を振り抜こうとすると、素早く2つ目の選択肢である「シュートのこぼれを狙う」に切り替えた。
「(マークについていたDFに対し)先に動き出せた感じがあったので、僕が先に触れば相手も飛び込んできてPKもあると。そうしたらPKを避けて完全に止まったので、そのまま狙うことを考えた。そのままダイレクトで打とうと思えば打てたのですが、ふかしてしまったら意味がないので、ワントラップしました」
DFの足が止まったことを分かった上で、いくつもの選択肢を瞬時に選び取って、最終的には加速、トラップ、シュートまでを最短でつなぎ合わせた。
極限まで感覚が研ぎ澄まされている状態を、スポーツの世界では「ゾーンに入っている」と表現する。このシーンの堂安はまさにゾーンに入っていた。
「メンタルの整え方は人それぞれ考え方があると思うのですが、自分は自分の世界に入り込まないと、あまりいいプレーができない。リラックスしすぎているとダメなタイプなんです。ただ入りすぎて失敗した試合もありましたし、それをうまく緩和させるやり方も分かっています」
思い起こせば、1年前のカタールワールドカップのドイツ戦、スペイン戦で堂安が決めたのは、どちらもこぼれ球からだった。ドイツ戦は南野拓実からのクロスをGKマノエル・ノイアーが弾いたところを左足で押し込み、スペイン戦はペナルティーエリアの手前で浮いたボールを拾うと豪快に左足を振り抜いた。
なぜ堂安は大事な試合で結果を出せるのか--。
それは常にゴール、チームの勝利という明確かつ絶対的な目標を持って日々を過ごしているからだ。“ビッグマウス”とも言われるが、10代の時から自分の信念を貫き続けているに過ぎない。
「常にゴールを目指していますが、何回も言っていますけども、それよりも優勝したいんで、自分のゴールは後ですね」
熱量はそのままに、冷静さと客観性を持ち合わせる。人間的にも成長を遂げたからこそ迎えている境地。これからも堂安律はチームのために“直感力”を発揮する。ゴールという歓喜と共に。
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