異次元の“試運転”。三笘薫が32分で確かめたこと|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsバーレーン

Taisei Iwamoto

日本代表

2024.02.03

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異次元の“試運転”。三笘薫が32分で確かめたこと|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsバーレーン

北健一郎

Writer / 北健一郎

日本のエースが戻ってきた。怪我の影響で3試合連続でメンバー外だった三笘薫が、バーレーン戦でピッチに立った。アディショナルタイムを含めて32分で見せたプレーは、“試運転”と呼ぶには、あまりにも強烈だった。セーフティーリードがある中、なぜ三笘はドリブルを止めなかったのか。

衝撃のファーストプレー

三笘薫が、ついにベールを脱いだ。

日本が誇るドリブラーは12月22日のプレミアリーグのクリスタル・パレス戦で負傷交代。アジアカップ参戦は絶望的と見られていた。ただ、森保一監督は特別な選手の招集を諦めなかった。

1月1日、新国立競技場で発表された26人のメンバーリストの中に「三笘薫」の名前はあった。森保監督は招集に踏み切った理由を語っている。

「大会の初戦で起用できるかどうかというところは、まだわかりませんけど、怪我の回復は順調にきているということで、大会期間中の早い段階で起用できると代表とクラブのメディカルと連絡を取り合って、その見通しで招集しています」

果たして、三笘は間に合うのか――。それはアジア王者を目指すチームにとって、重要なテーマだった。カタール入り後は別メニューで調整し、グループステージでは3試合連続でベンチから外れた。

完全合流を果たしたのはインドネシア戦の翌日、オフを挟んだ後の1月26日。全体練習後、グラウンドに残って左サイドの“三笘ゾーン”からカットインしてシュートを放つ光景からは、復活への期待感が漂った。

「できたら(第3戦の)インドネシアあたりでできれば良かったですけど、そこまで遅れてもないと思います」

背番号7がピッチに送り込まれたのは、68分だった。2点をリードしていたものの、64分にGKのミスによるオウンゴールから1点を返されてしまう。スタンドはバーレーンの追い上げムードになっていた。

“嫌な空気”を吹き飛ばしたのは、三笘のファーストプレーだった。

ピッチに入ってから1分後、右サイドの堂安律からのサイドチェンジを左サイドの高い位置で受ける。対面のDFがいる状況だが、三笘は右足のアウトで前方にボールを運んだ。そのまま急加速すると、左足で切り返し、クロスを上げると見せかけて再び縦へ。2人のDFに阻まれたものの、“これぞ三笘”というプレーだった。

「1発目のプレーで三笘選手らしいプレーがあったが?」と聞かれても、本人は表情を変えずに答える。

「いやもう、1発目から止められてるんで」

俺はこんなもんじゃないよ、というプライドの表れのようにも見えた。

なぜ“個人プレー”に走ったのか?

確かめたいことが、あった。

「自分のコンディション、その中でドリブルのフィーリングだったり芝の感触だったりとか。次の試合に向けてもいい準備にはなりました」

72分、日本は上田綺世のゴールで3-1と突き放した。バーレーンとの実力差、時間帯を考えれば、事実上、勝敗は決したといってもいい。ゲームのリズムを落とし、クロージングするという選択肢もあった。ただ、三笘は2点リードした後も、ドリブルを止めなかった。

「スペースがある中で、前に行きたいなと思っていたんで。後ろはもっと時間を作ってほしいということもあったと思いますが、やり切れればいいかなと」

本人が話したように、バーレーン戦に勝つことだけを考えれば、ドリブルで積極的に仕掛けるべきではなかったかもしれない。オープンな展開になれば、カウンターを受けるリスクが上がるからだ。

ただ、三笘は出場時間を伸ばすために、個人技をアピールしたわけではない。日本のエースとして、アジア王者に導く。そのための“個人プレー”だった。

ドリブルのキレはどこまで戻ってきているのか。タッチの感覚はズレていないか。芝生との相性はどうか。本番の試合だからこそ、ピッチに立ったこそわかるものを、限られた時間で取り入れ、チューニングしていくという作業だった。

85分、左サイドで3人で囲まれながらも右アウト→右インのダブルタッチでかわすと、バーレーン陣内にいるのはGKとDFのみ。DFを引き付けてから浅野拓磨へ股抜きパス。浅野がシュートを打つ前に体勢を崩したことでゴールにならなかったが“1点モノ”のチャンスをつくった。

「僕はもう、ここからプレーで見せないといけないですし、ボールを持ったときに時間を作ったり違いを見せて突破することが求められてるんで」

アディショナルタイム10分間を含めて、三笘がプレーしたのは32分。一つのタッチ、一つのパスが、格の違いを物語っていた。三笘のドリブルと共に、ここから日本は優勝へと加速していく。

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