Taisei Iwamoto
クローザーから不動の存在へ。町田浩樹の決意|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsイラン
Writer / 安藤隆人
最後まで出番は訪れなかった。ロングボールを放り込んでくるイランに対し、190cmの長身CB町田浩樹を投入する策は、試合の流れを変える一手になるはずだった。「僕自身の信頼のなさの表れだと思う」。悔しさをあらわにする中、ミックスゾーンで語った思いとは。
僕自身への信頼のなさの表れ
悔しかっただろう。悔しくないはずがない。
アジアカップ決勝トーナメント準々決勝のイラン戦。後半アディショナルタイムにPKを献上し、1-2で敗れた日本代表の姿を、町田浩樹はベンチからただ見つめることしかできなかった。
バーレーン戦ではリードを守り切るために3-1で迎えた80分に投入されて、4バックから3バックにシフトチェンジした際に3バックの左に入って、板倉滉、谷口彰悟と共に試合をクロージングさせた。
イラン戦では完全にそれが必要な展開だった。立ち上がりから4バックの右に入った板倉の状態が明らかに悪かった。キックオフ直後にバックパスをトラップミスすると、縦へのキックを引っ掛けて相手に渡していた。
その後も出場停止のエースストライカーのメフディ・タレミの代わりに入ったサマン・ゴッドズが、サンダル・アズムンと横並びになるのではなく、1.5列目に位置。アズムンが冨安健洋の動きをロックし、ゴッドズが動きの良くなかった板倉へのアタックを強めた。
これが日本にとってボディーブローのように効いていく。板倉がゴッドズに競り負けたり、裏を破られるシーンが増えると、守田英正のゴールで先制することはできたが、日本は流れをつかみ損ねていた。
筆者は前半の終盤の段階で板倉に代えて谷口か町田を入れるべきだと感じていた。ノートにも実際に書き記していたが、谷口を右CBに入れるか、町田を左CBに入れて、冨安を右CBへ、もしくは板倉を残すならば、伊藤洋輝を下げて町田を左CBに入れて3バックか。
前半のうちにDFを代えることはかなりの勇気がいる。しかし、後半に入っても一向に動きがない。55分に板倉が裏を突かれてMFモハマド・モヘビに同点弾を決められてから、アディショナルタイムにPKをとられ、痛恨の敗戦を喫した。
試合後のミックスゾーン。試合に出ていなかったにも関わらず、町田は足を止めて真摯に記者に話をしていた。囲みの輪が解けると、思わず呼び止めた。何かを決意した顔に見えたからだった。
「後半、完全に押し込まれて、(三笘)薫が入っても流れが変えられなかった状態で、5バックにして自分たちの守備をやりやすくするという方法は多分あったと思います。森保監督がその決断をできなかったことは、僕自身の信頼のなさの表れだと思うので、チームと代表で結果を残して、信頼を勝ち取っていくしかない」
CBとして序列を上げるために
左利きのCBの希少価値は非常に高い。4バックや3バックを敷いてビルドアップや縦にパスを打ち込む中で、左CBに左利きの選手がいると、一気に質と選択肢が広がる。
空中戦に強く、足元の技術もあり、対人能力も高いなど、CBとしての高いスペックを持っている。父も190cmで、運動神経抜群。将来に期待を抱かざるを得ない存在だった。
「僕がやらなければいけないのはキックを磨くことと、ポジショニング。4バックでも3バックでも、ときには左サイドバックでも起用されてもいいようにしっかりと技術を磨いてきたい」
鹿島アントラーズユースでプレーしていた高校3年生の時に町田はこう口にしていた。自分の希少性を理解し、明確なビジョンを持ち、力を磨いてきた。
2022年1月に鹿島からベルギーのロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズへ。2023年3月に日本代表に初招集、9月にデビュー。左利きのCBは着実に評価を高めてアジアカップのメンバーにも選出された。
イラン戦はロングボールを前線に放り込んでくる相手に、守備陣が後手に回っていた。アップゾーンで体を動かしながら、町田は試合に出た時のイメージを膨らませていた。
チームを助けたかった。声がかかると信じていた。しかし、その機会はやってこなかった。日本代表のCBにおける自分の序列をはっきりと知らされる形で、初めてのアジアカップは幕を閉じた。
CBとして序列を上げるために、信頼を得るために必要なことは何なのか?
町田は言う。
「正直、歯痒いところはありますが、DFの信頼というのは、1試合や数分で変えられるものではないので、積み上げしかないと思う。代表に選ばれ続けて、試合に出て、こういう信頼だったり、序列だったりを変えていくしかないと思っています」
近い将来、日本代表のCBとして全幅の信頼を寄せられるように。大事な試合で日本を救う存在になれるように。新たな覚悟を抱き、町田は自分のチームへ帰っていった。