Taisei Iwamoto
それでも、浅野拓磨は自分に期待する|森保ジャパン アジアカップ戦記 vsイラン
Writer / 安藤隆人
カタールW杯ドイツ戦の決勝ゴールで、日本のヒーローとなった浅野拓磨。しかし、同じ地で行われたアジアカップではノーゴールに終わった。「何もしていない」。イラン戦後に自分への怒りを口にしたストライカーは、再び日本を救うために前を向いて走り続ける。
この大会は「何もしていない」
アジアカップラウンド8のイラン戦。浅野拓磨の出番は後半アディショナルタイムの痛恨のPKによる失点の直後だった。起死回生の同点弾を狙うべく、右サイドに入った浅野だったが、結果1度もボールに触れることなくタイムアップのホイッスルを耳にした。
「個人的にこの大会は何もしていないので、とにかく悔しさしか残っていない。その悔しさも何か明確なこれというより、いろいろあります。ただ言えることは、一人の選手として成長していくしかないと思っています」
試合後のミックスゾーン、「何もしていない」と自らをバッサリと切り捨てた。今大会、グループリーグ初戦のベトナム戦では出番はなく、第2戦のイラク戦でスタメン出場。持ち前のスピードを生かしたスペースへの抜け出しでチャンスには絡んだが、ノーゴールのまま61分に交代を告げられ、チームも敗れた。
第3戦のインドネシア戦でも出番が来なかった中で、ラウンド16のバーレーン戦では3-1で迎えた80分に投入されると、この試合が初出場となった三笘薫と息の合った連携を見せて、左サイドを活性化。
しかし、85分に三笘の鮮やかなドリブル突破からのクロスをフリーで受け取るが、足がもつれてコントロールができず、シュートまで持ち込めず。90分には決定的な1対1からのシュートをGKに弾かれるなど、精彩を欠くプレーに終始し、わずかな出場時間で効果的なアピールはできなかった。
そして冒頭のイラン戦。大会をノーゴール、出場時間は90分にも満たないなど、不本意な結果に終わった。
W杯のヒーローは再び這い上がる
思えば1年前のカタールワールドカップでも、浅野は「自分は何もしていない」と口にしていた。
W杯初戦のドイツ戦での板倉滉からのロングボールに抜け出し、世界的GKマノエル・ノイアーの壁を破った。このゴールによって日本はドイツを撃破し、その後に“ドーハの歓喜”と呼ばれる2つのW杯優勝国を破ってのグループEの1位通過という歴史的快挙を成し遂げている。
浅野は一夜にして日本のヒーローとなった。
しかし、当時は負傷から復帰したばかりで、万全のコンディションではなかった。初戦こそ疲労がない状態で臨めたからこそ、キレのある動きで日本の攻撃を活性化させてヒーローになれたが、試合を重ねていくうちに疲労が蓄積され、一気に身体が重くなっていく。怪我明けの選手が陥るコンディション調整の壁に例外なくぶち当たってしまった。
ドイツ戦をピークに下がっていくコンディション。決勝トーナメント初戦のクロアチア戦では64分に投入され、PK戦では日本の唯一の成功となるキックを沈めたが、勝利に導く仕事はできなかった。
試合後のミックスゾーンで、浅野は怒りに似た表情を浮かべていた。
「正直、自分が情けないと思ってしまいましたね。最後は特に。全部やった上で『自分はこんなもんか』と思い知りましたね。『自分はまだまだ下手くそやな』と改めて感じました」
あれから1年。彼は所属クラブであるボーフムでコツコツと力をつけて、今季の前半戦だけでボーフムに移籍をしてからキャリアハイとなる5ゴールを挙げ、2桁ゴールも視野に入ってきた。
だが、今回のカタールでも同じように自分自身に対する怒りが込み上げてくる出来に終わった。
「ここからまた這い上がるというか、ここからまた違う景色を見るためにやっていくしかない。こういう時だからこそ、『絶対にここから成長します』と言い切ることに意味がある」
クロアチア戦の試合後に誓った、この言葉に嘘偽りはない。
諦めたり、現実から目を背けたりしたら、その時点で自分の成長は止まる。自分自身が自分に期待をして、信じてあげないと、その先の景色を見るチャンスすらも失ってしまう。
だからこそ、浅野は前だけを向いてカタールの地を後にした。強烈な反骨心と共に。