浦正弘
中盤でゴールを量産する“フリーマン”田中碧の可能性|北中米W杯アジア予選戦記
Writer / 舞野隼大
アジア2次予選・北朝鮮戦は、田中碧の先制点が決勝点となった。この試合で代表通算26試合目の出場で、通算8点目。ボランチで出場することの多い田中はなぜ、ゴールを奪えるのか。コンビを組んだ守田英正は言う。「好きにやらせている」と。“フリーマン”田中は森保ジャパンのファーストチョイスになれるのか。
田中はゴール前の“そこにいる”
2022年のカタールワールドカップで日本代表がスペインを2-1で撃破した試合。1-1の同点で迎えた51分、エリア内左の“ポケット”と呼ばれる場所へと侵入した三笘薫が、ゴールラインを割るかどうかギリギリで折り返したところに走り込んできたのが田中碧だった。「三笘の1ミリ」と呼ばれたこのシーンは、田中が“そこにいなければ”生まれることのない決勝点だった。
田中は3月21日に行われたFIFAワールドカップ26アジア2次予選 第3節・北朝鮮戦で通算26キャップとなった。そして、通算ゴールも「8」へと伸ばした。
「特別、難しいゴールを決めているわけじゃない」
森保ジャパンでコンスタントに得点を重ねる田中は、北朝鮮に辛勝した試合後、そう話した。実際、これまで挙げたゴールのほとんどは少ないタッチで決めたものだ。
2021年10月12日、アジア最終予選のオーストラリア戦で初先発で起用されると、わずか8分、代表初ゴールでチームの先制点をマークした。エリア左から送られた南野拓実のクロスにファーで反応したのが田中だ。一人、完全にフリーで受けて、冷静にトラップしてから2タッチ目の右足で確実にゴール左隅へと蹴り込んだ一撃だった。
2022年6月2日、国際親善試合・パラグアイ戦はエリア外からの強烈なミドル。2023年9月9日、国際親善試合・ドイツ戦は、終盤に右サイドの久保建英からのクロスに反応し、ボックス内でヘディングでゴール。2023年10月13日の国際親善試合・カナダ戦は、わずか2分でエリア外からミドルを突き刺すと、3-0で迎えた49分、エリア内にスルスルと抜け出して、伊東純也からのラストパスに反応して強烈なボレーを突き刺した。
2024年1月1日、タイとの元日決戦も同様だった。前半からチャンスをつくりながら無得点で折り返した日本は50分、伊東がエリア内で放ったシュートが相手に当たり、こぼれを回収した田中が、2タッチ目でゴールに突き刺した。
そして北朝鮮戦。
開始2分、敵陣左奥で粘る上田綺世のサポートに入り、ボールを受けた田中は、ファーサイドへクロスを送る。堂安律が頭で落とし、シュートを当て損なった南野拓実のボールを堂安が拾ってマイナスに折り返した先にいたのが田中だ。トラップすることなく迷わず右足を振り抜き、サイドネットへゴールを突き刺してみせた。
森保ジャパンで出場した26試合、2021年の1点目から約2年5カ月で挙げた8得点のうち、6点がエリア内で2タッチ以内で決めたシンプルなゴールだ。自身が「難しいゴールを決めているわけじゃない」と話す理由はそこにある。つまり、“そこにいる”からだ。
なお、残り2点が中央からのミドルであることや、8点中4点が先制点、残り4点が試合を締めくくるダメ押しゴールという特筆事項の深掘りは、今回は割愛しておこう。
2列目で起用されることも稀にあるが、基本的には3列目。ボランチの選手としてピッチに立つことの多い田中はなぜ、ゴール前に顔を出せるのだろうか。
森保ジャパン、守田×田中という可能性
北朝鮮戦で田中と中盤のコンビを組んだ守田英正が、興味深い言葉を残している。
「碧は『こうしろ』ってあまり言われたくないタイプなので、縦横無尽に動いてもらっています。それが彼の特徴だから好きにやらせている」
川崎フロンターレ時代に3シーズン共に戦ってきた相棒は、田中を生かす術を熟知している。もちろん、“好きにやらせる”ことは簡単ではなく、2人の相性も重要だろう。ただし、守田が「それであいつは点を取りましたし、W杯でも決めているし、準備ができている。それが実力」と称賛したように、自由を与えられた結果、ゴールという最大の目的に向かっていける強さが田中にはある。
田中自身、自分の特徴も、守田のサポートもよく理解している。
「自分はどっしり構えるよりも、広範囲に動くタイプだと思っている。いろんな局面に顔を出していくことが大事。ただ動きすぎてもポジションが崩れるだけ」
田中にとっての「いろんな局面」の一つが「ゴール前」なのだろう。やはり触れることになるが、とりわけ今回の北朝鮮戦がそうであるように、「先制点」の匂いを嗅ぎつけてゴール前に顔を出し、当たり前のように“そこ”で仕事をできることが、田中らしさだ。
アジアカップの森保ジャパンは、遠藤航と守田英正の組み合わせがボランチのファーストチョイスだった。だが、決してそれが最適解というわけではないだろう。
「2人で出ることはなかなかなかったし、やってみたいとは話していた。お互いの特徴はわかっているし、2人ともバランスを見ることができるから」
守田がそう話したように、田中碧と守田英正という組み合わせは今回、一つの可能性を示した。共に、戦況を理解し、適切なタイミングで攻撃参加する術は持ち合わせている。守田も、スポルティングではゴール前に顔を出す機会が非常に多い。それに2024年2月3日、アジアカップ準々決勝・イラン戦で守田が中央を駆け上がって決めた先制点も記憶に新しい。タイプは違えど、彼は攻撃のスキルも十分に高い。
だが、どちらかと言えば、田中なのだ。まるでフリーマンのように自由に動き、決定的な場所にいることができるのは。
守田のゴールは、約2年9カ月ぶり通算3点目。一方、田中は毎年、毎回のようにネットを揺らして約2年5カ月で通算8得点。田中は“そこ”にいることで価値を示してきた。
田中がいれば、ゴールが決まる。
スペインから挙げた金星も、三笘の1ミリも、田中がいたから生まれた。難しいゴールである必要はない。簡単でも、確実に決める1点に意味がある。「ゴールを奪える中盤」は大きな武器だ。
遠藤か、守田か、それとも。田中は森保ジャパンのファーストチョイスになれるだろうか。