堂安律&中村敬斗の超攻撃的WBシステムは新オプションになりえるか?|森保ジャパン進化の道筋

浦正弘

日本代表

2024.06.18

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堂安律&中村敬斗の超攻撃的WBシステムは新オプションになりえるか?|森保ジャパン進化の道筋

難波拓未

Writer / 難波拓未

Editor / 北健一郎

新戦術が披露された。アジア2次予選・シリア戦でウイングバックを務めたのは、堂安律と中村敬斗。サイドバックが起用されることの多いポジションで、攻撃に強みを持つアタッカー2人が示した、森保ジャパンの新たな可能性とは。

Eピースを沸かせた攻撃力

森保ジャパンが新たな可能性を広げた。

11日にエディオンピースウイング広島で行われたW杯2次予選の最終節・シリア戦は、[3-4-2-1]のシステムでスタート。5日前のミャンマー戦(○5‐0)と同じ初期配置だったが、より攻撃に重点が置かれていた。

ポイントは、ウイングバック(WB)の人選。左サイドは中村敬斗が2試合連続で先発するなか、右サイドには5日前にシャドーを務めた堂安律が入った。

WBの正式名称は、ウイングバック。ウイング(WG)のようにゴールに迫り、サイドバック(SB)のように守ることが求められ、攻守両面での幅広い貢献には豊富なスタミナが欠かせない。ミャンマー戦で右WBを務めた菅原由勢のように、本職サイドバックの選手が起用されるケースが多い。すでにW杯アジア最終予選進出が決まっていたが、従来の起用法を踏まえると、ウイング色の強い選手を両WBに配置する采配は大胆と言える。しかし、中村と堂安は特徴を存分に発揮し、新境地で光り輝いた。

まずは中村が結果を出す。8分、左サイドでパスを受けると、対面のDFに迷わずドリブルを仕掛ける。細かなステップで間合いを図り、鋭いシザースから急加速。縦に突破して左足でふわりとクロスを上げ、上田綺世のヘディングシュートをアシストした。

「縦突破の意識が最近すごく出てきていて、それをうまく出せて、アシストにつながってよかったです。試合前から上田(綺世)選手には『クロスを上げるから中で待っていてほしい』と話をしていて、それが実ってよかったです」と狙い通りのプレーで先制点をもたらした。

19分には堂安が魅せる。久保建英からのパスをペナルティーエリア手前の右斜め45度の位置で受けると、ゆったりとしたドリブルから左足アウトサイドで一気に切れ込み、左足を一閃。瞬間的に生まれた相手DFの隙間を射抜きながら、ゴールネットを揺らしてみせた。

「あそこで(体を)開くとGKはファーを警戒するから、股か、ニアを通して速いシュートを打てれば入るという感覚はあったのでよかったです」という渾身の一撃は、約20年ぶりに代表戦が開催された広島の地を熱狂に包み込んだ。

WB逆足配置のメリット

ゴールとアシスト。攻撃的な両WBは5‐0の大勝に直結する結果を残したが、それだけではない。

堂安のゴールシーンを遡ると、出発点は中村のプレーだった。大迫敬介のミドルパスを自陣左サイド低い位置で受けた背番号13は、相手ゴーㇽに背中を向けた状態で後ろからプレスを受けていたが、相手と遠い右足で冷静に斜め前へパス。中央でフリーの久保に届けたこのパスで相手のプレスを裏返し、日本の疑似カウンターが発動して追加点が生まれた。

左WBが起点になり、右WBが仕留める。まさに練習通りの形が炸裂した。

「ビルドアップで自分が低い位置で受けて前に組み立てるのは練習でやっていました。あそこの斜めのパスは、久保選手の声が聞こえていたし、右足で(ボールを)もっていたので、うまく速いパスを付けられました」(中村)

堂安はWBの逆足配置(左サイドに右利き、右サイドに左利きの選手を配置すること)に手ごたえを得ている。

「ビルドアップのところで、(中村)敬斗のフリックから(久保)建英にパスが渡ったが、あそこが空くというのは練習からやっていたことなので。WBの左に右利き、右に左利きがいるというのは、ああいうところがメリットだと思う。(相手の守備が)ハマった時に逆サイドにフリックで出せるのは、今の配置でのプラスなので、建英がフリーになってよかったです」

逆足配置は、体を開いて利き足でボールを触りながら中央に向かってプレーできる。現代サッカーではカットインからのシュートで直接ゴールを狙えるという相手ゴール前でのメリットを踏まえて、WGに逆足配置を採用するチームは少なくない。そのなかで今回のWBの逆足配置は、堂安が見せたフィニッシュ面だけでなく、中村が示したビルドアップ面にも大きなメリットをもたらすことができ、大きな収穫になった。

楽しむ気持ちとシビアな目

WBは攻撃での貢献だけでは不十分だ。守備時は5バックの1人としてサイドを守る重要なタスクを担う。

シリア戦では、中村がクロスをブロックし、堂安が周囲と連係して正面を塞いだプレーがあった。堂安は所属するフライブルクでもWBを務め、中村は1対1のバトルが頻発するフランスリーグで戦っているため、守備ができない選手ではない。むしろ、堂安は「守備の選手より『守備が上手い』とフライブルクでは言われています(笑)。攻撃の選手なので、なにが嫌かはわかるので、どこが切られたら嫌とか、逆算してディフェンスしています」とドイツで守備力を向上させてきた選手だ。

だが、チームとしても個人としても相手と力量差があり、サイドの広いスペースで1対1にさらされてドリブルを防ぐシーンはほとんどなく、相手に押し込まれる劣勢の時間は皆無だった。

両WBに攻撃的な選手を配置する新戦術は、攻撃面では成功を手にしたなか、守備面を考慮すると手放しでは称賛できない。それは選手自身も理解している。

「ハイレベルな相手ではなかったので、ミャンマーとシリアを相手にできたという過信はもちたくない。最終予選で自分がこのシステムのWBに入った時に、相手のレベルが上がった時に、どうプレーできるかは楽しみですね」(中村)

「勘違いしてはいけないのは、それほど強い相手じゃないということ。それは自分達に言い聞かせないといけない。アジアカップ前みたいに調子に乗っているとやられちゃうので。その痛さは、自分はわかっていますし、悔しい思いをしたくない。今日のハーフタイムも厳しい声を掛け合っていましたし、みんながよくなろうと必死にやっているので、楽しみにしてほしいです」(堂安)

メイン戦術に組み込んでいくトライは、まだ始まったばかり。当事者の2人が口をそろえた、楽しみな気持ちと現実的な目線が基盤となるなか、ここに伊東純也と三笘薫が加わる。ハイクオリティな選手による熾烈なポジション争いが、森保ジャパンに新たな武器をもたらす。

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