難波拓未/ABEMA
ABEMAだからできるスポーツ情報の“ターミナル番組” 『ABEMAスポーツタイム』の舞台裏|「スポーツと言えば、ABEMA」への挑戦
Writer / 難波拓未
「ABEMA」にサッカーをはじめとしたスポーツが集結している。中継映像を網羅的に視聴できるシステムは、他のOTT(オーバー・ザ・トップ)サービスと一線を画す。スポーツの魅力を、より多くの人に知ってほしい。そんな思いを込められて、2023年7月に放送開始したのが『ABEMAスポーツタイム』(通称:スポタイ)だ。毎週日曜日の22時から生放送中の番組は、「ABEMA」のスポーツの入り口を担っている。“スポタイ”の制作を統括する河野晋也プロデューサーに、番組づくりのこだわりなどを聞いた。
(取材日:11月26日)
プロデューサーの“こだわり”が詰まった遠藤航の現地取材

──毎週日曜日22時から生放送中の『ABEMAスポーツタイム』は、槙野智章さん、川﨑宗則さん、西澤由夏アナウンサーがレギュラー出演しているスポーツ番組です。どのようなきっかけがあって、始まったのでしょうか?
「ABEMA」でいろいろなスポーツを扱う中で、ターミナル的な番組を作りたいという思いで立ち上がりました。サッカーや野球を取り扱うことが多いですけど、大相撲やモータースポーツ、競輪の特集も組んできました。ほとんどのスポーツの中継を「ABEMA」で見ることができるので、『ABEMAスポーツタイム』が中継視聴のきっかけになってほしいという思いで制作・放送しています。サッカーは欧州で活躍している日本代表選手のもとを訪れ、現地取材をたくさん行なってきました。試合やプレーのことだけではなく、私生活の様子をはじめとしたパーソナリティを届けることを意識しています。
──印象に残っている海外取材は?
レギュラー出演してくださっている槙野さんと一緒に行った遠藤航選手の取材ですね。2023-2024シーズンのプレミアリーグ第28節マンチェスター・シティ戦(2024年3月10日)でプレイヤー・オブ・ザ・マッチを獲得した直後に放送できてタイミングが良かったですし、反響も含めて最も印象に残っています。
実現まではすごく大変でした。インタビュアーを務めていただいた槙野さんは毎日のようにテレビで見るくらい忙しい方なので、槙野さんと遠藤選手のスケジュールを合わせることが難しくて。日程調整に3カ月くらい掛かったと思います。
──実現までの約3カ月間は、もどかしい思いはありましたか?
焦りはありませんでした。浦和レッズでチームメイトだった槙野さんと遠藤選手は深い仲であることは知っていたので、何としても槙野さんにインタビュアーを務めてほしかったし、絶対に良いものが撮れるという確信のようなものがあったんです。
なかなかインタビューが実現しないからと言って、焦って強引に実施しても、中途半端になってしまう。良いタイミングで、良い形で世の中に届けたいと思っているので、セッティングには最後までこだわりました。
どうしても2人だけの空間を作ってインタビューを撮りたいと考えていたので、槙野さんには遠藤選手が運転する車の中でもインタビューをしてもらったんですけど、実は槙野さんには同時にカメラマンもやってもらいました。槙野さんからは「スタッフの誰かも車に乗ったほうがいいんじゃない?」と言われましたが、僕は絶対に2人きりの空間のほうが良い話が撮れると思っていた。2人の間には信頼関係があるし、スタッフがいない空間のほうが本音が出てくると信じていたので。
ライトなファンにも、コアなファンにも

──車内で明かされた遠藤選手のお子さんがサラーやファンダイクらの子どもと一緒の学校に通っているというプライベートの話は面白かったです。番組がターゲットにしている視聴者は?
サッカーをはじめ、スポーツをあまり見ていない人が興味を持つキッカケになってくれればいいなというのは前提にあります。とは言え、コンテンツを量産できるわけではないので、ライトなファンが見ても、コアなファンが見ても発見があるようなものにしたい。ライト層が見たいものとコア層が知りたい情報は違うと思うんですけど、その両方をカバーできたらいいなと。また、今の時代は切り抜きもあるので、“切り抜かれ方”を考えながら作ることもありますね。
──切り抜きは、ショート動画が流行している現代ならではですね。
Tik Tokにも番組のインタビュー動画をアップしているんですけど、一番再生されたのは鎌田大地選手が毎試合長袖を着る理由について言及しているシーンでした。試合の勝敗や個人の活躍に関わる話ではないけど、ライトなファンとコアなファンのどちらにとっても発見のような情報を提供できたことが反響につながったのかなと思っています。
──番組内での選手インタビューは、サッカーのプレーや戦術ではなく、パーソナリティに関する質問が多い印象だったのですが、視聴者のターゲット設定が色濃く反映されているからなんですね。
それもありますし、やっぱり選手のことを「応援したい」と思ってもらいたい。選手を応援する上で、もちろんプレーのすごさや現状の活躍も大事ですけど、その選手ならではのプロセスやストーリーが応援したくなる要素になってもいいのではとも思っています。それを知ることで、より応援したくなる。そういうものを深掘りしていきたいというスタンスです。
バラエティ番組テイストは偶然の産物
──番組内にはクイズがあったり、お笑い芸人やアイドルの方が出演していたりと、バラエティ番組のような明るい雰囲気を感じます。MCを務める槙野さんも明るい雰囲気を作り出すキーパーソンだと思います。
コミュニケーション能力がすごく長けているし、あの人って本当にあのままなんです。裏側もずっとあの明るい感じで、収録中やその前後も雰囲気がすごく良い。スタッフ的にはそこに甘えちゃいけない部分もあるんですけど、やっぱり槙野さんがいてくれるだけで番組のレベルが変わるくらい大きな存在です。元サッカー選手ということを忘れそうになるくらい、コミュニケーション力と演者力が高すぎます。
バラエティっぽさを感じられる視聴者の方もいると思いますが、バラエティ番組にしたいわけではないんです。ただ、川﨑さんと槙野さんという日本代表にまで登り詰めた元アスリートの方が話していて、バラエティのように楽しめる番組になっているのは、もう2人の演者力でしかないです。いつもハイパフォーマンスを発揮していただき、本当に感謝です。
──そういう効果を狙ってキャスティングしたわけではないんですね。
スポーツ情報をどううまく発信できるかということしか考えていなかったので。あの2人に出演オファーを出す前は、あそこまで明るい番組になるとは思っていなかったんです。2人がタッグを組んでから1年以上が経ちますけど、2人ともやりやすいと言ってくれますし、毎回の放送が終わるたびに「番組、短すぎない?」とも言ってくれています。CM明けの2秒前までしゃべっているし、生放送開始の1分前まで川崎さんと槙野さんでサッカーボールをパス交換していた時もありました(笑)。
安易に言うと、超仲が良いというか。僕が今まで経験したことがないくらい、収録中の雰囲気がすごくいいんですよ。演者さんとスタッフの距離感も良いし、誰もギスギスしていない。本当に一つのチームみたいで、楽しくやらせてもらっています。ゲストの方にも「楽しかった」、「あっという間」と言ってもらえるケースが多く、そういう雰囲気をつくってくれる川﨑さん、槙野さん、西澤アナの存在は本当にありがたい限りです。
ABEMAならではの『導入番組から試合中継』への動線
──海外の大舞台で活躍している選手は傍から見ると遠い存在ですが、取材VTRを見た後は親近感がすごく湧いてきます。堂安律選手と板倉滉選手の日本人対決特集(2024年11月24日放送)では、堂安選手の私服についても取り上げていましたね。
堂安選手と板倉選手の特集回は、その翌週の11月30日にフライブルクとボルシアMGの試合があって、その中継をいかに見てもらうかのためのプロセスという位置付けでした。特集の最初のほうにパーソナリティやピッチ外の話をして知らない人にも興味を持ってもらう。その後、板倉選手に堂安選手を止めるための対策を語っていただき、サッカーファンが知りたいピッチ内の話をする。というように2つの切り口を意識して作成しました。そして、最終的には「ABEMA」という同じプラットフォームで中継まで視聴できることをお知らせする。それを一つのパッケージにしました。
「ABEMA」は独自に制作するスポーツ関連番組が充実しており、中継だけではなく、その前後のストーリーを含めたコンテンツ展開を強みとしています。他のOTTサービスでは、主に中継が中心のケースが多いですが、『ABEMAスポーツタイム』のような番組がスポーツの魅力を補完し、視聴者により深い体験を提供しているのが特徴です。
──「ABEMA」だからこそできることをフル活用する意識?
でも、僕自身テレビ朝日で仕事をしていたこともあるので、地上波放送にはリスペクトしかないです。やっぱりクオリティはすごく高い。他のOTTサービスも独自取材をやっていますし、参考にする部分はあります。僕らは「ABEMA」っぽいことをできたらいいなって思っているだけですね
SNSを運用する宣伝部も強いですし、『ABEMA TIMES』(「ABEMA」が運営するオウンドメディア)の拡散力もすごい。『ABEMA TIMES』に、スポタイの切り抜き記事を掲載してもらっているんですけど、どういう見出しになるのかを会議内で話すこともあるんです。面白い部分や引きになる部分を作りたいし、そういう部分を取材で引き出せたらいいよね、と。
──『ABEMAスポーツタイム』という番組を通して、実現していきたいことは?
番組自体の認知度を上げていくことが番組存続につながるんですけど、今の時代はTik TokやYouTubeも含めて、「この番組だから見よう」というのは少ないと感じています。コンテンツを切り抜きで見ることが多いし、消費者は番組名をあまり気にしていないと思うんですよ。だからこそ、「この番組って、こういう企画をやっているよね」というところまで認知の度合いが上がればうれしいなと。例えばですけど、『情熱大陸』は見る前から面白い企画が確定しているじゃないですか。そういう領域まで行けたらいいなと思っています。
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