世界で戦えるGKを育てるために(前編)|日本最高峰のGK座談会

浦正弘

その他

2024.05.24

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世界で戦えるGKを育てるために(前編)|日本最高峰のGK座談会

北健一郎

Writer / 北健一郎

横浜F・マリノスで数々のGKを育て上げた、GK界の“レジェンド”松永成立氏。
W杯メンバー4回選出、GKとして初めてJリーグMVPに輝いた楢﨑正剛氏。
ドイツで最先端の理論を学び、日本のGKに刺激をもたらしている松本拓也氏。
松本氏の著書『サッカーGKパーフェクトマニュアル』に収録された日本トップレベルのGKコーチ3人によるスペシャル座談会を、「松本拓也GKアカデミー」開講を記念し、一部抜粋して再掲載する。
(前編)

※本座談会は2022年12月に実施したものです

欧州との差は「芝生の違い」にある

──みなさんはカタールワールドカップをGK目線で見て、どんなことを感じましたか?

楢﨑 どの国のGKもみんななんでもできるなと。求められる要素が増えたこの時代にマッチしている選手が多いですよね。攻撃面とクロス対応や近距離、遠距離のシュートを止めること、スペースを埋めることとか、なにか一つが突出しているというより、全部のレベルが高い。

松永 楢﨑さんが言ったように、現代サッカーにおけるGKはかなりの要素が必要で、それをトレーニングにどうやって落とし込むかが非常に難しい作業になってきています。

松本 失点シーンがあったら、GKコーチはプレーを細分化し、選手に落とし込んで、次につなげていくかが大事になります。GKのレベルが上がっているからこそ、GKコーチが根気強くやらなければ、世界との差は埋まりません。

──日本のGKが世界に追いつくためには、どんなことが必要になってくるでしょうか。

松本 環境整備はあると思います。ドイツは粘着質の芝生が多く、受け身を取る必要がないくらい柔らかい。だから子どもの頃からたくさんジャンプできる。それに対して、日本は固い人工芝や土のグラウンドがほとんどです。まずはローリングダウンをして、ケガをしないようにするところから入っている。スタート地点がそもそも違うんです。環境整備はGKにとっては必要になっていきます。

楢﨑 子どもの頃からずっと土のグラウンドでやっていると、知らず知らずのうちに身体を守る癖がついてしまうんです。プレー中は精一杯ジャンプしたつもりだったのに、映像で自分の動きを見た時に「伸びてないな」と感じることがありました。

──今は人工芝のグラウンドが増えてきていますが、松永さんがプロとしてプレーしていた1980年代から2000年代の頃と比べると、環境は変わりましたか?

松永 だいぶ変わったと思いますけど、松本さんが言われたようにサッカー先進国と呼ばれる国に比べたら、まだまだ追いついているとは言えません。昔、日産自動車のグラウンドが一面しかなくて、冬場になってくると芝生が枯れて、土が剥き出しになるんです。それが黒土になって、雨が降ると練習着についた黒土がなかなか取れなくて……。練習後のシャワーを2回、3回と浴びてそこでやっと黒土が取れて、家に帰るという状況でやっていました。「飛んでも痛くない」とわかれば思い切り飛べるし、思い切り飛ぶということはケガを気にしない動作が成立しているということだから、必然的にもうひと伸びできる動きが身につく。グラウンドはすごく大事です。

──日本人GKが世界で戦うためにはなにが必要になってくると思いますか?

松永 僕の時代は海外のチームと試合をすることが少なかったので、スピード感が普段とはまったく違うんです。だから、国際試合があると最初は相手の動きについていけなくて、シュートのタイミングが合わなかったり、スルーパスに飛び出すのが遅れたり、目が慣れる前に前半が終わってしまう。日常的に高いレベルでやっていれば、試合の中でアジャストするという作業が必要ありません。多くのフィールドプレーヤーが日本からヨーロッパへ行っていますが、GKは残念ながらほとんどいないのが現実です。

──日本のGKが世界レベルに適応していくためには、なにが必要になるでしょうか?

松永 試合を想定したトレーニングをまずやらなければいけないですし、シュートストップに関しても、どういう動作をしたら最短で行けるのか、ウォーミングアップでどういうことをやらなければいけないか、コーチはどういう基準でやらなければいけないかといったことが決まってきます。GKコーチが質の高いトレーニングができれば、GKのパフォーマンスは必然的に上がるはずです。

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練習から試合を想定する

──本番で実力を発揮するためには、どんな練習をすればよいでしょうか。

松本 ドイツの育成年代で印象的だったのが、研修先である1.FCカイザースラウテルンで行われていた1対1のトレーニングです。GKは前に出て距離を詰めて対応するか、後方に下がってシュートに対応するかを、ボールとの距離を瞬時に見極めながら判断するのですが、後方に下がってシュートに対応する場面ではFW役のGKは誰からのプレッシャーも掛からず、余裕をもってシュートを打てるので、ほとんどのシュートが決まってしまう。それを見ていて、「こんなの練習になるのかな……」と思っていました。しかし後日、実際の試合でカウンターを受けた時に、トレーニングと同じようにGKが後方に下がる判断をしてシュートに対応した場面では、ディフェンスが戻りながらFWにプレッシャーを掛けていたので、GKがシュートに対応できたんです。それを見た時に、ドイツでのGKトレーニングはGKトレーニングを成立させるために行うのではなくて、試合から逆算してトレーニングをしていることを思い知らされて、本質とはなにかをあらためて考えさせられました。

楢﨑 GKからすれば、やられっぱなしになっちゃうのはしんどい(笑)。GKは練習中でも決められるのは嫌だし、どうしても雰囲気が悪くなる。そのあたりはGKコーチがうまくコントロールする必要があるのかなとは思います。

──選手の様子を見ながら練習メニューを微調整することはありますか?

松永 パフォーマンスのレベルにもよりますけど、明らかに悪いのであれば練習メニュー自体、途中でガラッと変えます。「今日は出来が悪いから」とひと言だけ伝えることもあるし、例えば「今日はポジショニングが雑だ」とか「構え方がその距離に対して合ってない」と、フォーカスすることもあります。その言い方は、状況によって変えています。ひどい時は、練習を打ち切ることもあります。さっきも言ったように、GKも人間だけど、僕も人間なので、やる気がないとか、集中力を欠くというのは許せない。

松本 でも、不思議なことに練習で良くなかった週の試合はパフォーマンスがめちゃくちゃ上がるということはありますよね。

松永 楢﨑さんが横浜フリューゲルスの時に教わっていたGKコーチのマザロッピさんは練習がきついことで有名でした。「練習よりも試合のほうが楽」という感覚だったんじゃないですか?

──楢﨑さん、すごくうなずいていますが(笑)。

楢﨑 試合のほうが楽でした(笑)。ハードに追い込まれていたことで、肉体的にも精神的にも余裕がある状態で臨めました。

松本 その時の楢﨑さんは「これだけの練習をしてきたんだから、どんなシュートでも止められる」という心理状態だったのでしょうか?

楢﨑 はい。ただ、マザロッピさんのメニューは質も量もあったなと思います。試合でやられた場面を修正することもあったし、次の試合を想定しているものもありました。

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