技術と理論で阻止率を高める、GK大国・ドイツ流の1対1論|松本拓也が伝える、GK指導の本質

高橋学/伊藤千梅

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2024.07.26

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技術と理論で阻止率を高める、GK大国・ドイツ流の1対1論|松本拓也が伝える、GK指導の本質

福田悠

Writer / 福田悠

Editor / 難波拓未

ホワイトボードプレゼンツ『松本拓也GKアカデミー』が開講。「GK指導の“すべて”がここにある」をコンセプトに、全5回でGK指導を網羅的に学べる場が遂にオープンした。

講師の松本拓也氏は、体系化されたGK理論をもつ国内屈指のエキスパートだ。育成年代からJリーグのトップチームまで、あらゆる年代・カテゴリーのGKコーチを歴任。中村航輔(ポルティモエンセ/ポルトガル)を筆頭に、柏レイソルのアカデミーからプロ入りを果たした多くのGKの育成に従事してきた。 20年以上に渡り第一線でプロ選手として活躍した南雄太氏からは“ 日本におけるNo.1のGKコーチ”と言わしめ、 現在もトップレベルで活躍するGKたちからアドバイスを求められる存在だ。また、現役時代に選手としてもプレーしたGK大国ドイツで最先端の指導理論を学ぶなど、今もなおアップデートを続けている。

この記事では本アカデミーの第4回「1対1」の講義内容の一部をレポートとして共有する。

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最初の駆け引きで先手を取れ

全5回でGK指導のすべてを学ぶ今回のアカデミー。第4回では「1対1」をテーマに講義が行われた。サッカーのゴールマウスの大きさは縦2.44m×横7.32m。身長2m弱の人間が1人で守るにはかなり広く、ゴール前での1対1はGKにとって絶体絶命のシチュエーションと言える。しかし決定機だからこそ、止めることができればチームを勢いづけるビッグプレーとなる。試合全体の流れを大きく変える可能性も高く、そのワンプレーが勝敗に影響を与えることも少なくない。

まずはチームとしてGKが相手選手と1対1になる状況を作らせないことがベストだが、いざその場面を迎えてしまった際に自信をもって対応できるよう、しっかりと準備しておきたいところだ。

この「1対1」においても、松本氏が前回までと同様に講義冒頭で強調したのが、「よい準備」の重要性だ。第3回の「スペースディフェンス」の講義にもつながるが、数手前の段階から次の展開を予測し、よりいいポジショニングをとることでその阻止率は大きく変わる。味方DFと連係しながらボールが出てくる場所とタイミングを予測し、「①DFにインターセプトさせる」 or 「②自らスペースに飛び出してラストパスが相手に渡る前にカット」のいずれかで対応できればベストだ。もし相手FWへのラストパスが通ってしまったとしても、そのパスを事前にイメージしてポジショニングできていれば、よりよい距離感で1対1を始めることができる。同じ1対1でも、この最初の駆け引きで先手を取れるか否かで阻止率が大きく変わるのだ。

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習得必須の2つのブロック

では、いざ相手FWにパスが渡り1対1となってしまったら、GKはどんな意識で臨めばいいのだろうか。松本氏がまず狙いたいと話したのが「ファーストタッチの瞬間」だ。「相手FWにとっても、ゴール前は最もプレッシャーのかかる場所」(松本氏)だ。背後からDFが全速力で追いかけてくるなか、必ずしも狙ったファーストタッチができるとは限らない。仮に相手FWのタッチが大きくなればチャンスだ。フロントダイビングなどでボールを奪取し、シュートを打たせずして攻撃を終わらせることができる。

ファーストタッチで相手の足元にボールが収まってしまった場合、いよいよ相手FWとの1対1の局面になる。ここで必要な技術が「ブロック」だ。ブロックとは、打たれたシュートを反応して止めにいくダイビングなどとは逆に、体で面をつくりながら距離を詰め、止めるというよりは「自らの体にシュートを当てにいく」プレーを指す。有効なブロックの技術として、松本氏は2つの型を紹介した。

1つ目は「L字ブロック」だ。その名の通り、片脚をL字に折ることで股下のコースを遮断。反対側の膝を立てて、両手は脇に構える。非常にバランスよくコースを限定できる型で、1対1の頻度がサッカーに比べて格段に高いフットサルのゴレイロ(GK)も頻繁に使っている技術だ。

もう1つが「フットブロック」だ。打たれる瞬間に片方の脚を真横に伸ばし、地面にお尻を落とす体勢で股下のコースを遮断。もう片方の脚は内側にたたみつつも極力逆方向に開き、広げた両脚の上をボールが通過しないよう、両手を広げて脇のコースを遮断する。L字ブロックに比べて肩の位置が低くなって上方向への面の大きさがあまり出せないことに加え、お尻を地面に着いてしまうのでセカンドへの立ち上がりはやや遅くなってしまうが、横幅に関してはより広くゴールをカバーできる。また、滑りながら最後までボールに向かって距離を詰めていけるので、サイドから中央への低く速いラストパスが出てきた際などに、スライドしながらギリギリのタイミングでシュートコースに体を入れにいく場面などで特に重宝するブロックだ。

どちらのブロックも、2010年前後から世界中で多くのGKに使われるようになってきた。ドイツ代表GKマヌエル・ノイアーらを筆頭に、ドイツ人GKにはブロックを得意とする選手が多く、今では国や地域を問わずGKにおける必須スキルとなっている。

GK大国・ドイツの共通語“レッドゾーン”

1対1の対応において、ブロックのフォーム形成と同じくらい重要なのが、相手選手との距離だ。近づけば近づくほど、物理的に遮断できる面積は広くなる。逆にブロックフォームが完ぺきであっても、距離が詰められていない状況では効果は薄い。シュートコースが空き放題になるため、簡単に蹴り込まれて失点してしまうだろう。

この1対1での相手選手との距離感について松本氏は、何度も足を運び指導現場を経験してきたGK大国・ドイツで使われているとある言葉を引用して説明した。

「ドイツでは、“相手と3~5mの距離に入らないようにしましょう”という明確な基準があり、その距離感を“レッドゾーン”と呼んでいます。レッドゾーンとは、ブロックの面を作ってもコースを限定しきれないし、かといってその場で構えて反応のみでシュートに対応するには距離が近すぎる(どんなに反応に優れたGKでも反応が間に合わない)距離感のことです。僕が見てきた複数のクラブの指導現場ではこの“レッドゾーン”という考え方が浸透していて、『前に出てブロックするなら少なくとも3m以内まで距離を詰めましょう』『距離を詰めきれないのであれば、逆に後ろに残って(5m以上距離を取って)リアクションタイム(反応するための時間)を確保しましょう』という指導が行われていました」

GK自身のサイズや1対1となった位置(主に角度)によって有効な距離感は多少変わるかもしれないが、相手との距離感に関する一定の基準が「レッドゾーン」と言語化され、共通理解として浸透しているのはいかにもGK大国・ドイツらしい。これまでレポートしてきた第1~3回の講義も同様だったが、日本とドイツの両方で豊富な指導経験を持つ松本氏だからこそ、こういった解説にも奥行きが出て、一気に厚みが増す。基礎の基礎に始まり、このように世界基準の指導法まで網羅されてしまうことこそが、松本拓也GKアカデミーの唯一無二の特徴だろう。第3回講義のレポートにも書いたように、「現在の年齢や競技レベル、指導しているカテゴリーに関わらず、GKに関わるすべての人にとって有益な講義である」と自信をもってオススメできる理由はここにある。

講義終盤には、これまでの3回と同様に試合映像を交えた詳細な解説が行われた。いい準備をするために、どのタイミングでなにを認知しておくべきか。2つのブロックの型を、状況に応じてどのように使い分けるべきなのか。また、それらの精度をより高めるための実戦的なトレーニング方法とは。質疑応答を含め、全5回のなかでも最長となる2時間10分を超える熱い講義となった。ぜひこの機会に受講をご検討してみてはいかがだろうか。

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