株式会社DIFF.
国内2500万人“足の大きさが違う問題”の解決法|左右サイズ別シューズ販売という新常識/株式会社DIFF.
Writer / 難波拓未
Editor / 本田好伸
およそ1億2000万の日本人が毎日、身に着けるのが「シューズ」だ。しかし、そのうち2500万人以上の人が自分の足に合ったシューズを履けていないのだという。実は、5人に1人が、履くべきシューズのサイズが左右で異なるものの、シューズは基本的に左右同じサイズで販売されている。そんな現状に変革をもたらしたのが「株式会社DIFF.」。なぜ左右サイズ別シューズ販売のサービスをつくったのか。創業者・清水雄一氏に迫った。
片足ずつシューズを買える
──まずは、片足ずつシューズを買える「DIFF.」のサービスについて聞かせていただけますか。
オンラインショップで、サッカーシューズを左右サイズ別で販売しています。例えば、26.0cmの右足と26.5cmの左足のように片足ずつを組み合わせての購入が可能で、シューズの本体価格+サービス料3,480円の料金を頂戴しています。
もしかしたら「手数料をとられる」と割高に感じてしまうかもしれませんが、通常のショップで左右サイズ別でシューズをそろえるには、両足で売られている26.0cmと26.5cmの2セットを買うことになり、1セット2万円するシューズの場合だと4万円を支払わなければなりません。しかし、DIFF.なら、1万円(右足)+1万円(左足)+3,480(サービス料)=23,480円で、通常よりも安い金額で本当に足に合ったシューズを履くことができます。なので、「2セット分は高いから、右足だけ足に合っていないけど我慢するしかない」という妥協の必要がなくなりますし、足に合っていないシューズを履くことで発生する怪我のリスクをなくせます。お財布にも足にもやさしいサービスです。
現在は、ミズノ、アシックス、ナイキ、アディダスの約15モデルを取り扱っており、子供用サイズも用意しています。
──片足ずつの販売だと、26.0cmの右足は売れて26.0cmの左足が売れ残るという場合が考えられます。在庫管理はどのように行っているのでしょうか?
事業検証のフェーズを出ていないので、メーカーからシューズが発売されるタイミングで一定数を仕入れて売ることはできていません。例えばDIFF.のオンラインショップに右足26.0cmと左足26.5cmの注文が入ったら、1セットずつ仕入れて片足ずつを販売し、片足ずつが残る形になります。ただ、注文ごとに仕入れているので、在庫が大きく残るリスクは軽減できています。
爪が内出血したままサッカーをしていた
──なぜ、左右サイズでシューズを販売するサービスを始めたのでしょうか?
私自身、左右で足の大きさが違います。サッカーシューズが合っていなくて、ずっと右足の爪が内出血したままプレーしていました。
2012年に新卒でミズノ社に入社し、10年ほどスポーツ用品の開発に携わってきました。会社では職人さんに弟子入りして、どう作ればフィット感が増すかなどを教わりました。履き心地のいいシューズを作るためにこだわりながら突き詰めてきました。
ただ、僕もそうですけど、人の体は作り手のこだわりを平気で無視してくるな、と。足の形は隣にいる人どころか、家族や兄弟とも違うし、自分の足であっても左右で違う。自分の足に合ったシューズ選びの難しさを課題に感じていました。
──ユーザーと作り手の両方の視点で課題を感じていたんですね。
爪が内出血しては剥げるということを繰り返してきた経験を思い出し、会社内でシューズ作りへのこだわりに触れた時、もう少しシューズの販売方法を工夫出来たら、マイノリティの方も気持ち良くプレーできるんじゃないかと思い、左右別サイズのシューズ販売を考え始めました。
──清水さんはミズノ社に所属しながら会社を立ち上げて起業する、「出向起業」という形で株式会社DIFF.を設立されました。
最初はミズノの新規事業としての実現を検討しましたが、左右サイズ別でシューズを販売するためのシステム構築や在庫リスクなど、事業の立ち上げに向けた懸念点などを踏まえ、ミズノ内での実現は厳しかった。
ただし、左右サイズ別でのシューズ提供は、契約しているプロ選手には当たり前にやっています。そのため「一般のお客様にもやってあげられるといいよね」と、事業価値には賛同を得られました。
──そうだったんですね。
もしミズノ内で実現できたとしても、ミズノのシューズだけを取り扱うことになり、それでは世の中に左右サイズ別でシューズを履けるという「新しい当たり前」をつくったとは言えないと考えるようになりました。
ミズノだけでなくナイキやアシックスなど、さまざまなシューズのなかから本当に足に合うシューズを左右サイズ別で購入できるサービスをつくるために、会社を創設し、社長としてミズノから出向する「出向起業」という形でスタートしました。
この形での会社立ち上げは経済産業省が補助金などを出して推進しており、ミズノの社長に提案させていただいたところ、「やってみたらいいんじゃないか」と言ってもらえました。
──社名の由来を教えていただけますか。
『ディファレンス(difference)』の頭文字から取っています。「違い」は個性を表すような言葉で、もって生まれた体の違いに寄り添いながらその人たちが充実した日常を送れるようにという意味で名付けました。
──DIFFの後の「.」(ピリオド)にも理由が?
文字通り「ピリオド」です。左右別サイズでシューズを買えない人、既存の流通構造を原因とした問題を抱えている人がいる現状に終止符を打てたらいいなという願いを込めています。
子供に大きなシューズを履かせる危険性
──子供用サイズの取り扱いについて。子供は大人以上にシューズの知識がなく、保護者もそのシューズが我が子に合っているかどうかをきちんと把握できていないように感じますし、実際に私も幼少期は足よりも少し大きいサイズを履いていた記憶があります。
そうですよね。もちろん、成長が早いからと大きめのシューズを選ぶ保護者の気持ちも理解できます。サッカーシューズの理想的なつま先の余り加減は5ミリほどで、先端を押した時に親指の爪の半分程度が凹むくらいです。爪1個分が余ったら完全に余裕が大き過ぎる状態ですが、実際にはつま先が大きく余っているまま履いているケースが多いようです。
──大きいシューズを履くと、どんな危険性がありますか?
ダッシュや切り返しなど力を大きく発揮するシーンで靴の中でズレることに繋がりますし、このズレに耐えるために足の指が無意識に踏ん張り、足が前に動くのを防ぐために指がグーの形になります。その状態で靴底をつかむと、余計な力が入って指が疲れてしまい、この疲れが連鎖して膝や腰を痛める原因になると言われています。
──シューズのサイズ違いによって、膝や腰にダメージが……。
足の曲がる部分は、指以外だと母指球のところだけなんです。シューズもそこで曲がるように意図して作られており、シューズと足の長さが合っていなければシューズの曲がりやすいところと、足の曲がりやすいところにズレが生じてしまいます。
自分の足に合ったサイズを履かないと、足とシューズの動きが合わなくなり、靴擦れをはじめとした怪我につながります。怪我のリスクを減らすには適したサイズのシューズを履くことが大事なのは間違いありません。
サッカーから新しい価値をつくる
──この事業は、まずはサッカーを軸に進めているのでしょうか?
はい、最初の領域としてはサッカーを考えています。サッカーの力を活用しながら世の中に新しい価値をつくることで、あらゆるスポーツに先行して、まずはサッカー領域で成功事例をつくりたいですね。そして、他のスポーツシューズはもちろん婦人靴などの一般的なシューズや障害をもっている方々へのサポートなど、「左右別サイズでシューズを購入できる」という価値を波及させたいです。
──今後はどんな活動をしていきたいですか?
そもそも左右別サイズでシューズを履いた経験のある人が少ないので、まずは履いてもらう機会を増やすことが大事だと思っています。そのため、足型計測機やサンプルシューズを持って各地のイベントや大会などでブースや体験会を開催していきたいです。