守るだけでは不十分!?いま絶対に学ぶべきGKの配球論|松本拓也が伝える、GK指導の本質

高橋学/伊藤千梅

その他

2024.08.08

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守るだけでは不十分!?いま絶対に学ぶべきGKの配球論|松本拓也が伝える、GK指導の本質

福田悠

Writer / 福田悠

Editor / 難波拓未

ホワイトボードプレゼンツ『松本拓也GKアカデミー』が開講。「GK指導の“すべて”がここにある」をコンセプトに、全5回でGK指導を網羅的に学べる場が遂にオープンした。

講師の松本拓也氏は、体系化されたGK理論をもつ国内屈指のエキスパートだ。育成年代からJリーグのトップチームまで、あらゆる年代・カテゴリーのGKコーチを歴任。中村航輔(ポルティモエンセ/ポルトガル)を筆頭に、 柏レイソルのアカデミーからプロ入りを果たした多くのGKの育成に従事してきた。 20年以上に渡り第一線でプロ選手として活躍した南雄太氏からは“ 日本におけるNo.1のGKコーチ”と言わしめ、 現在もトップレベルで活躍するGKたちからアドバイスを求められる存在だ。また、現役時代に選手としてもプレーしたGK大国ドイツで最先端の指導理論を学ぶなど、今もなおアップデートを続けている。

この記事では本アカデミーの最終回・第5回「ディストリビューション」の講義内容の一部をレポートとして共有する。

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GKのパスが攻撃の第一歩になった理由

全5回でGK指導のすべてを学ぶ今回のアカデミー。最終回・第5回では「ディストリビューション」をテーマに講義が行われた。ディストリビューション(distribution)とは「分配・配送・流通」等を意味する英単語で、GKにおいては配球(キックやスローでの球出し)を指す。講義冒頭で松本氏は、ディストリビューションの目的を「チームが得点を奪うために行う」と説明した。

GKからのパスは、攻撃の第一歩だ。現代サッカーにおいて、その重要度は年々高まっている。「トップ下」と呼ばれた中盤前目の選手が攻撃を組み立てる時代は過ぎ去り、選手のアスリート能力向上や、それに伴う守備側の強度向上によって攻撃の起点は徐々に後ろへ。今ではフィールドプレーヤーの最後尾にあたるCBにも高いビルドアップ能力が求められる。

そうした変化のなかで、GKの球出しにもより高い精度が求められるようになった。2000年頃までの試合映像を見返していただければわかるが、かつてGKのディストリビューションと言えば「前線に大きく蹴る」プレーが主流だった。ボカ・ジュニアーズ(アルゼンチン)などで活躍したコロンビア代表GKオスカー・コルドバのように、鋭いパントキックで攻撃の起点を担った選手も存在したが、それはあくまでも稀有なタイプだった。そういう例外を除くと、ゴールキックやパントキックは飛距離を出すことが正義で、軌道や精度は従事されていなかった。

しかし、現代サッカーではそうはいかない。オールコートプレスが一般的になったため、G相手FWのプレッシングを受けたDFのサポートはGKの必須項目となり、その頻度も格段に増えている。プレーモデルによっては、ペナルティエリアを飛び出してCBのようにビルドアップに参加するケースも見られるようになった。従来から必要とされてきたロングキックやパントキックにおいても、飛距離に加えてより高い精度が求められるようになるなど、ディストリビューションの重要度は日に日に増している。

GKにとって最も重要な仕事はゴールを守ることだ。しかし、ディストリビューションの精度を高めることは、チームのボール保持率向上と攻撃回数増加を促す。結果的に、相手の攻撃回数の減少(→失点を減らすこと)にもつながるのだ。

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まずは前を見ろ

松本氏が今回の講義で最初に伝えたのが以下の3点だ。

①GKが前線にフィードする
②チームでボールを前進させる
③GKからの配球はあくまでも受けやすいボールでなければならない

現代GKがディストリビューションで様々なプレーが求められるようになったのは前述の通りだが、とはいえやはりそのなかでも第一選択肢は前線へのフィードだ。これはフィールドプレーヤーがボールを持った時に「まず前を見ろ」と言われるのと同様で、GKも第一優先としてダイレクトプレー(最短距離でゴールを目指すプレー)を心掛ける必要がある。パスをつなぐのは手段であり目的ではない。1本のロングパスを前線の味方に通してゴールを奪うことができれば、それほど効率的なプレーはないのだ。

とはいえ、公式戦でそれが常に通用してしまうほど簡単なはずもない。また、FWを走らせる以上、味方の走力も消費する。そしてなにより前線に蹴るばかりでは攻撃が単調になってしまうため、適切な使い分けが必要だ。そこで②の「チームでボールを前進させる」プレーを行うことになる。

松本氏は講義内で、GKの良いサポートの定義を「GKがフリーでボールをもらう」か「GK以外の選手をフリーにさせる」と説明した。GKが効果的にビルドアップに加わることで攻撃側の選手が1人多い状態となり、数的優位な状況をつくることができる。例えば、味方CB2人に対して相手FW2人がプレスに来ている場合、GKもボール回しに加わることで3対2になる。相手FWのどちらか1枚がGKに寄せてきても、ボールをうまく味方CBにつないで前を向ければ、そのままフリーで全体を押し上げることが可能だ。そのときにより重要になるのが、GKが出すパスの“質”だ。

稚拙な配球に潜むバタフライ効果

松本氏が「③GKからの配球はあくまでも受けやすいボールでなければならない」と伝えた通り、GKからのキックやスローはただ味方に渡ればOKというわけではなく、より高い精度と質が求められる。CBやSB、ボランチといった近場の味方につなぐ際は特に、だ。なぜなら、ここでのズレは失点に直結してしまうからだ。

みなさんは「バタフライ効果」という言葉をご存知だろうか。「非常に小さな出来事が、将来予想もできないような大きな出来事につながる」「少しずつのシワ寄せの繰り返しが最終的に大きなズレにつながる」といった意味の言葉で、サッカーの試合中にもこのバタフライ効果は至る所で発生する。

サッカーやフットサルをプレーしたことがある方なら、自分が出したパスの質が悪かった故に、その数手先で相手にボールが渡ってしまった経験があるのではないだろうか。例えば、自分がインサイドキックで出したパスが縦回転ではなく横回転気味になってしまい、受けた味方Aのトラップが少しズレる。1タッチ目で理想的な場所にボールを止めることができず、置き所の微調整のためにもう1タッチを要してしまい、その間に相手マーカーに近くまで寄せられて急いで次の味方Bへパス。慌ててパスを出さざるを得なかったことで、そのパスもやや跳ねてしまい、それをBがワンタッチで次の味方につなごうとするも、うまくミートできずに相手に渡る……といった具合だ。

松本氏がGKからの配球に質を求めるのはこのためだ。ビルドアップの1本目のボールの質が悪くなってしまうと、GKのパス自体は味方に渡ったとしても、その数本先でボールを失ってしまう恐れがある。自陣(特にピッチ中央付近)で失えば一気にピンチを迎えてしまうし、たとえ失点に直結しなかったとしてもGKからの球出しに起因するボールロストが増えれば、チームのリズムは生まれにくくなる。味方フィールドプレーヤーに極力余計なストレスを与えずに気持ちよくプレーしてもらうことも、良いGKの条件なのだ。

試合の流れを変えるビッグセーブや最終ラインの裏に飛び出してのカバーリング等はもちろんGKにとって重要なプレーではある。しかし、90分間を通してチームに安定感をもたらすには、質の高いディストリビューションを身に付けることも必要不可欠なのだ。

講義終盤には、これまでの4回と同様、試合映像を交えた詳細なプレー解説が行われた。実戦でのボールのつなぎ方、ボランチを使ったプレス回避のパターンから、一発で相手の裏やハーフスペースに落すロングキックに至るまで、失敗例も提示しながら実に様々なケースが紹介された。そして今回は最終回ということもあり、それまでの4回の講義を受けた受講者から寄せられた質問に答えて講義を終えた。

全5回の講義はこれにてコンプリート。「GKの“すべて”がここにある」というコンセプト通り、あらゆる要素が詰め込まれた極めて濃厚な講座となった。日頃からGK指導に携わっている人にとっては間違いなく指導の指針となったはずだが、現役のGKやGK指導を専門としないサッカー指導者にとっても有益な学びの場となったのではないだろうか。オンライン受講の購入は今からでも可能だ。この機会にぜひ、“本物のGK指導”に触れていただきたい。

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