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金子拓郎、高嶺朋樹、荻原拓也を連続で欧州へ。小島大叶が明かす、移籍市場の裏側|2世エージェント奮闘記
Writer / 黒川広人
Editor / 難波拓未
国際サッカー連盟(FIFA)は2023年10月より、エージェント活動を行える人物をFIFAのライセンス保有者のみとする、FIFAフットボールエージェント制度の導入を決定した。その難関試験に日本最年少の19歳で合格し、エージェント資格を取得したのが小島大叶氏だ。エージェントとして2シーズン目を迎える中、すでに金子拓郎や高嶺朋樹のベルギー移籍、荻原拓也のクロアチア移籍を成立させるなど、大きな存在感を示している。若き敏腕エージェントが1mmの独占インタビューで、移籍市場で起きた舞台裏を語ってくれた。(後編)
金子拓郎には4チームからオファー
──例えば今だとJクラブから欧州クラブへ移籍する際、2億円近くの移籍金が入れば御の字という感覚があります。今後、その額が上がっていく算段はありますか?
移籍金が上がっていく流れにしていかないといけません。僕はどこのクラブから獲得の話が来たかも大事だと思ってます。例えばベルギーのコルトレイクが日本人の獲得に5億円を払うことは現実的に難しいですよね。ただし、現地でいろいろな情報をつかむと、これぐらいまでは頑張ったら出せるんじゃないのかという金額が見えてきます。 最も大事なのは、向こうのクラブの移籍金の限界値を引き出せるかだと思っています。
──ベルギーのチームは、仮に獲得した選手が活躍できなくても、日本のクラブが買い値と同等以上で買ってくれるという考えを持っているように感じます。
それは間違いなく感じます。例え海外で活躍できなかったとしても、日本のクラブは日本の選手を優先的に獲得することを向こうも知っているから、移籍金もある程度は出してくる印象です。ただ、僕が関わった金子選手や高嶺選手を獲得したコルトレイクだと、2024年から増資して、規模を大きくしていく動きがあり、移籍金をしっかりと出せる情報を事前につかんでいました。今回コルトレイクからしたら日本人の2選手に大金を払ったので、チームとしても目玉補強になるんです。僕は今、現地に足繁く通っているからこそ、クラブとの関係を築くことができていて、そういったリアルな内情を知っている自信もあります。選手とクラブの双方にいい条件を提供するため、今後も積み重ねていきたいです。
──金子選手のコルトレイク移籍は驚きました。
最初は確実にディナモ・ザグレブに完全移籍で買われる流れでした。ただ、ヨーロッパは監督なども含めた政治的な側面に左右されることもあって、ローンの選手はその対象になりやすいんです。そういった事情も影響し、5大リーグも含めて、新たなチームに目を向けると、金子選手にはヨーロッパの4チームから正式オファーが届きました。最終的には最後まで誠意を見せてくれたコルトレイクへの加入を決断しましたが、今後のキャリア選択の確率をあげる意味でも金子選手はすごくいい選択をしたんじゃないかなと思っていますし、ザグレブの時のローンフィーも含めて、札幌にも大きなお金が入っています。
──コルトレイクは小島さんから見て、どんなクラブなんですか?
すごく魅力的なクラブだと思っています。その理由の一つが、オーナーの方が複数のクラブを持っているところ。コルトレイクは、オーナーがイングランド2部のカーディフ・シティFCも持っていて、他のクラブとも強いつながりがあります。ベルギーリーグはステップアップを狙う選手に適したリーグです。特にコルトレイクはフランスと近いんで、フランスのスカウトが毎試合のように視察に来ますし、イギリスやイタリアのスカウトも見に来ることが多い。練習場などの環境もいいですし、チャンスにあふれている素晴らしいクラブだと思っています。
──個人的にも、金子選手の夢であるプレミアリーグで戦う姿を楽しみにしています。
金子選手には人間としてもいろいろなことを教えていただいて、僕も感謝しかないです。彼をプレミアの舞台に連れていくことは、僕の至上命題だと思っているので、必ずやります。
──高嶺選手も同じコルトレイクへの移籍を決断しました。
実は高嶺選手にもコルトレイク以外にもオファーを出したいというクラブがありました。でも、コルトレイクが早い段階から高嶺選手に強い興味を持ってくれていましたし、高嶺選手自身がベルギーで挑戦したい気持ちを持っていたので、今回の移籍が成立する形になりました。
──荻原選手もディナモ・ザグレブで存在感を示していますね。
日本の方々がどう捉えているかわからないですけど、ディナモってヨーロッパでは本当にリスペクトされているクラブなんです。名のある選手しか獲得しないクラブで、そこにJリーグから直接行けることは正直すごいことだと思っています。金子選手の移籍がキッカケで、ディナモの関係者の方と直接お話して、連絡を取り続ける中で、荻原選手に獲得オファーが来ました。今まで積み重ねて来た自分のやり方が間違っていなかったとも思えて自信になりましたね。そして、荻原くんも絶対、まだまだ上へ行ける選手だと思います。
──活躍する選手に共通点などはありますか?
実力があることはもちろんですが、僕はメンタルが大事だと思っています。活躍している時って、メンタルがブレていないんですよね。例えば、他責になり始めたり、ベクトルがぶれ出した時に、選手はピタリと活躍しなくなっちゃうんです。金子選手や高嶺選手、荻原選手は自分をしっかりと持っているんで、どんな状況でも自分を客観的に見ていて素晴らしいメンタルを持っていると思います。それと同時に賢い選手じゃないと、中々プロの世界で生き残るのは厳しいなとも思いますね。
日本とヨーロッパの橋渡し役になる
──エージェント業務をやる上での信念を教えてください。
これから変わっていくこともあると思うんですけど、今は謙虚さですね。父や他のビッグエージェントの方は、その場をコントロールできるような力があるんですが、今の僕にはそれは難しい。今の僕にできることを考えた時に浮かんできたのが、純粋な謙虚さや頑張りを実直に見せることです。
──小島さんは選手とのコミュニケーションをマメにとっているようですね。
コミュニケーションは、父の仕事ぶりを見習って、すごく大事にしています。試合終了後すぐメールを送って、「選手にちゃんと見ているよ」と伝えることもそうですし、思っていることは包み隠さずハッキリと言うようにしています。
──選手としても年下の小島さんだからこそ言えることがあるかもしれませんね。
そうですね。みんなに可愛がっていただいていますし、選手もオブラードに包まず本音を語ってくれたりするので、それは今のいいところかもしれません。
──今後、開拓していきたい国などはありますか?
僕はアメリカを中心とした北米がもっとすごくなると思っていて。ここ数年で、もっと進化していくはずなので、そちらも開拓したいですし、中東にも行きたいですね。また、現地に行ってアフリカ地域を開拓してくる人も少ないと思うので、そのパイオニアになりたいですし、そのためにもフランス語の習得は必要だなと感じています。
──20歳にして、すでに多くの経験を積まれていますが、今後エージェントとして果たしたい夢や野望は?
日本のエージェントは、高校・大学を卒業した選手と契約を結ぶことが今の主流になっています。しかし、中学生からずっと選手の活躍を見て、選手やご両親と共に成長して、その選手が海外へ行くケースは自分にとってすごくやりがいになると思いますし、日本サッカーにも貢献できるのかなと思うので、今後は挑戦したいです。
──今後に向けた決意を聞かせてください。
日本とヨーロッパの橋渡し役として、もっと両国をつなげていきたいですし、僕がその関係形成の役割を担っていきたいと思います。Jリーグの野々村芳和チェアマンがイギリスのロンドンにもJリーグの支社をつくるとおっしゃっていますけど、自分も日本サッカーを英語で語れる分、ワールドワイドにつなげて、広げていきたいんです。そして、ここまで来るに当たって、いろいろな方に助けていただきましたが、やはり父がいないと僕はいないんで。恩を本当に感じているので、父へ恩返しするためにも、これからもっと頑張っていきたいです。