ジャカが漏らした、唯一の不満とは?リアル過ぎるスイス代表ベスト8の舞台裏|“世界のヒデ”も信頼した日本人トレーナー・山本孝浩

Michel Fabian / Ebenter Samuel

海外サッカー

2024.07.19

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ジャカが漏らした、唯一の不満とは?リアル過ぎるスイス代表ベスト8の舞台裏|“世界のヒデ”も信頼した日本人トレーナー・山本孝浩

小津那

Writer / 小津那

Editor / 難波拓未

EURO2024をベスト8という成績で終えたスイス代表には、1人の日本人がいた。トレーナー・山本孝浩。20年以上前に海を渡り、プレミアリーグを中心にヨーロッパのサッカーチームで選手をサポートしてきた。アーセナルで診てきたグラニト・ジャカの推薦でスイス代表に帯同し、スタッフとして目にしたEURO2024の裏側を語ってもらった。
(第2回/全3回)

経験豊富なベテラン中心に団結

──EURO2024でのスイス代表について聞かせてください。チームのセンターラインにマヌエル・アカンジ(マンチェスター・シティ)、グラニト・ジャカ(レヴァークーゼン)、ボローニャ所属の選手も多く、欧州屈指の名監督の下でプレーする選手が融合して魅力的なサッカーを展開していました。

僕がスイス代表に帯同し始めた時は、欧州のビッグクラブでプレーする選手が3、4人しかいませんでした。若手はスイスやオーストリア、ヨーロッパの2部に所属する選手もいて、練習ではチーム内のレベル差を感じていました。でも今回はボローニャのチャンピオンズリーグ出場権獲得に貢献した、(レモ)フロイラーや(ミシェル)エービシェル、(ダン)エンドイェが自信に満ちたプレーでいい働きをしてくれましたね。

やっぱりチームとして大きかったのは、CBコンビのアカンジと(ファビアン)シェア。デカい2人がいるので、完全に崩されて失点を許すことがなかったです。

──個性的なサッカーをするチームでプレーしている分、歯車が噛み合わない可能性もあったと思いますが、チームはどういうふうに団結していたのでしょうか?

中心を担うベテランと中堅は、長年ずっと一緒に代表でプレーしているんですよね。リカルド(ロドリゲス)や(ジェルダン)シャキリ、ヤン(ゾマー)もそう。国を背負いながら成熟してきた連係や信頼関係が強くて安定していることがベースにあったと思います。

──選手たちが主体的につくり上げていった?

選手が自主的に取り組むなかで、やっぱり(ムラト)ヤキン監督の存在も大きかったです。常に選手と話をして、意思疎通をしていました。体が大きくて見た目は怖そうですけど、怒鳴ることは一切しない。いつもは選手とニコニコしながらコミュニケーションをとっていて、試合前にはしっかりと引き締める。メリハリのある監督です。

──ベスト4を目指すなかでのベスト8という今大会の結果は、山本さんの目にどのように映りましたか?

チームのみんなも含めて、決してネガティブではないですよ。準々決勝ではイングランド代表に負けましたけど、PK戦だったので。相手を崩して先制点を取りましたし、イングランド代表はブカヨ(サカ)の個人能力でこじ開けた1点ですよね。アーセナルで何度も見てきましたが、彼はあそこのレンジと角度が大得意なんですよ。

スイス代表としてはベスト8が続いていますけど、選手たちは確実に強くなっている実感があると思います。興味深いのは次の9月の代表招集時に選手をどこまで変えるのか。ジャカと同じ世代の選手が抜けるんじゃないかと予想する人もいる。ただ、あそこまで安定して力を発揮できる選手が下の世代からまだあまり出てきていないのも事実。ジャカとも「やっぱり世代交代はまだ難しいよな」と。彼はキャプテンですし、フィジカルが落ちているわけでもないので、怪我がなければ代表にはまだ残るでしょうけど……。

ジャカがあるインタビューで「小さい国だから僕たちへの評価が低すぎる」と言っていました。ただ、「準々決勝でイングランドに勝てば、もっと僕たちのことをリスペクトしてくれ」とコメントしていたので、やっぱり今大会の結果は悔しかったと思います。

──大会中のチームの雰囲気はいかがでしたか?

ワールドカップやユーロなどの大きい大会になると、フランス代表やスペイン代表などの強豪国はかなりのプレッシャーがかかります。ただ、スイス代表の選手たちはけっこうリラックスムードでしたね。

もちろんスイス代表の選手もノープレッシャーだったわけではありません。でも、試合当日まではみんなリラックスしていたし、押し潰されそうになるくらいのプレッシャーは感じていなかったようです。

主将ジャカは体も心も屈強


──山本さんがスイス代表に帯同するきっかけをつくったキャプテンのジャカは、2023-2024シーズンからレヴァークーゼンでプレーしています。長く見てきて変化を感じた部分はありましたか?

第2のブレイクじゃないですかね。加入初年度でいきなりリーグタイトルを獲得し、立役者として活躍していました。年齢を重ねてベテランになり、プレースタイルが変わりましたね。昔はけっこうヤンチャ坊主で、要らないレッドカードをもらうこともありましたけど(苦笑)。

──どんなところがすごいのでしょうか?

体の強さは尋常じゃありません。「怪我をしない」のは選手としてはすごく大事な要素なんです。あれだけたくさんの試合に出て、毎回フル出場するにもかかわらず、GPSのデータを見ると必ずトップ5に入るくらいたくさん走っている。なのにマッサージとかトリートメントを一切受けないんですよ。体の柔軟性や筋肉の強さは恵まれたものをもっています。

あと、メンタルも本当に強い。話しかけると、必ず「大丈夫。俺は全然問題ないよ」という返事しか返ってこないんですよ。1年を通してプレーしていると、「今日は足首が痛い」「腰が痛い」とネガティブな返事しかしない選手もいますけど、ジャカが弱音を吐いているのは聞いたことがないですね

──そのメンタルの強さでチームを力強く引っ張っているんですね。

すごく明るいキャラクターの持ち主で、キャプテンシーも強い。常にポジティブで、いつも笑いながら選手とじゃれ合っています(笑)。試合になると、いつも冷静です。点を取られると若い選手は落ち込むことがあるんですけど、その時は喝を入れています。すると、言われた選手は顔を上げるんですよ。本当に頼もしいキャプテンですね。

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