北原基行
ふじざくら“らしい選手”という、無二の価値|女子サッカー界に一石を投じるクラブ #佐々木葵
Writer / 伊藤千梅
Editor / 本田好伸
なでしこリーグ2部3位。過去最高成績を残した2024年シーズンを経て、FCふじざくら山梨は、なでしこリーグ3年目のシーズンに突入した。
今シーズン、新たにチームに加わったのは5人。五十嵐雅彦GMが「チームを引き上げる選手たち」と評したように、WEリーグやなでしこリーグ1部など、上位カテゴリーで経験を積んだ実力者たちが集結した。
その中でも、異彩を放つ存在が佐々木葵だ。 競技面はもちろんのこと、ピッチ外では「フードロス問題の解決」に取り組むプロジェクトを元チームメイトと共に推進する。
競技者としてはもちろんのこと、社会に自らの存在価値を示すために。ピッチ内外で彼女は、このクラブに何をもたらすのか。(第2回/全2回)
“サッカーだけ”の選手から、プレイングワーカーへ

「対戦はしたことはなかったけれど、クラブが醸し出す雰囲気がキラキラしていて、なでしこリーグ1年目の頃から気になっていたチームでした」
2025年2月27日、ふじざくらの新入団会見に出席した佐々木は笑いながらそう明かした。
今年25歳を迎えた佐々木は、関東女子サッカーリーグに所属する東洋大学体育会サッカー部女子部出身。卒業後にはなでしこリーグ1部の上位チーム、伊賀FCくノ一三重に加入した。
しかし、1年目の試合出場数はゼロ。サッカーしか見えていなかったからこそ、競技面でうまくいかないときに、日常生活にまで影響が及んでいた。
「結果にとらわれて、他人と比較して……心が疲れてしまうことも多かったです。当時の私は、サッカー以外のことが一切見えていなくて、視野が狭かったと思います」

競技一辺倒だった彼女が外の世界に目を向け始めたのは、2年目のシーズン。アスリートのキャリア教育を行う「Athletes Business United」の受講をきっかけに、スポーツ以外にも“興味”を持つようになった。
「日常で感じた『これがやりたい』『これが好き』という感情に素直になった時に、競技とのメリハリもつくようになって、サッカーにより集中できるようになりました」
ピッチ外の活動が精神的な余裕を生み、それがプレーにも良い影響を与えた。出場機会のなかった1年目を経て、2年目以降の2シーズンで試合出場数は11試合にまで増えた。
それでも、リーグ戦での出場時間は限られ、思い描いていたキャリアとは違っていた。より多くの時間をピッチで過ごすために、4年目のシーズンを迎えるタイミングで移籍を決断した。
「自分の視野が広がったことで、私を支えてくれる人たちの存在や、応援してくれる人たちの思いも感じるようになりました。だからこそ、みなさんへの感謝の気持ちを体現するために、ピッチに立ちたい。そのために、環境を変化させることに決めました」
“サッカーだけ”の選手から、ふじざくらが掲げるコンセプト「競技でも一流、社会でも一流」を体現する“プレイングワーカー”へ。今シーズン佐々木は満を持してふじざくらの扉を叩いた。

選手の挑戦が、クラブを進化させる

外の世界に目を向けたとき、佐々木が最初に関心を持ったのは“食”だった。
その関心を具体的な行動へとつなげたのが、2024年1月から伊賀FCの先輩である下條彩(現在:FC琉球さくら所属)、高橋杏奈と共に始めた「ゼロイチプロジェクト」だ。このプロジェクトでは、さまざまな理由から農家が商品として販売できず廃棄になってしまう物を商品化していく。
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ふじざくらに存在する「農業部」として活動をすることを決め、佐々木は自身の活動とクラブの取り組みを融合させることを目指している。
「サッカー以外の活動がチームの価値づくりにつながるからこそ、全力でやりたい。自分だけのものではなく、チームとしての価値を上げていけるものなので頑張れる」
実際、ふじざくらには「プレイングワーカー」としての姿を示す選手が多い。その活動こそが、クラブが大切にしてきた哲学であり、その根幹を成すものだ。
例えば、在籍6年目を迎える辻野友実子は、クラブに加入してからクラブのマッチデープログラムを作成。デザインを担当し続けて6年、今年2月にブランドを立ち上げた。
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また昨年加入した源関清花は、ハッシュタグ「#源メシ」をつけてSNSに投稿。自らの興味を形に残している。
【#源メシ 👨🍳】
「蒸し野菜プレート」
れんこん、さつまいも、にんじん、醤油麹漬け鶏ハム。
最近自分流行の手作り梅じそなめ茸。
味噌汁は、もやしと大根としめじに小ネギをパラパラと。小ネギは買ってすぐに切って冷凍保存。食べたい時に食べたいだけ!#FCふじざくら山梨 pic.twitter.com/VCU8u91dSF
— 源関清花|FCふじざくら山梨 #8 (@genkiyo09) March 17, 2025
そんな先輩たちの姿に刺激を受け、佐々木もまた、自分なりの価値を生み出そうと闘争心を燃やした。
「自分も先輩たちから吸収しながら、ただなじむだけではなく、自分だけのものを作り上げていきたい。SNSの発信や行動力の部分でも、チームの中でも一番取り組みたい」
ふじざくらは創設から7シーズン目を迎えた。このクラブは、ピッチ内外で選手一人ひとりがどのような振る舞いをするのかという“当たり前”の基準が高い。
だから選手の行動がクラブの価値を示し、その価値を広げていくことが、女子サッカー界全体の基準を高め、やがて変革へとつながっていく──。
佐々木は今シーズン、ピッチ内外で己の価値を証明し続ける。彼女の挑戦は、その振る舞いはきっと、ふじざくら“らしい選手”として多くの人の心を動かすはずだ。