安藤隆人
貪欲で細かい、技術と科学のハイブリッドCB(桒田大誠/中京大→柏)|J内定組・未来を担う原石たち
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
2月27日から3月3日に行われた第38回デンソーカップチャレンジサッカー 福島大会。全国の選ばれし大学生(日本高校選抜も参加)が集結して覇権を争う本大会は、毎年多くのJクラブスカウトや関係者が訪れ、大学サッカー界における重要な“品評会”となっている。「J内定組・未来を担う原石たち」では、出場選手の中ですでにJクラブ入りが内定している選手にスポットを当てる。今回は桒田大誠(中京大・新4年生、柏レイソル内定)を紹介する。
(第5回/全9回)
3日連続のフル出場
185cm、80kgの大型センターバック。「大学ナンバーワンCB」の呼び声が高い桒田大誠(クワタ・タイセイ)は2023年、大学3年生の段階で柏レイソル入りが内定し、デンソーカップチャレンジサッカー 福島大会では、東海選抜のディフェンスリーダーとして頭抜けたパフォーマンスを見せた。
グループリーグ3試合のすべてに先発してフル出場。関東選抜Bと激突した初戦は、特徴である高さと対人能力の強さを発揮した。試合には敗れたものの、Jリーグのスカウトが「存在感が違った」と評したように相手の突破を何度も阻んだ。
第2戦のU-20全日本大学選抜戦では、出色のプレーを見せる。立ち上がりから巧みに最終ラインをコントロールすると、冴え渡ったのはカバーリングだった。5分、裏に抜け出す大型FW森夲空斗(青山学院大)に肩でぶつかり、相手のバランスを崩してチャンスをつくらせず。7分にも冷静なカバーリングで相手の抜け出しを封じる。15分には相手のクロスに対して、戻るようにスペースに回り込んでボールを回収し、正確な縦パスを送ってカウンターの起点となった。
後半になっても、桒田の質は一切落ちない。U-20全日本選抜が横浜F・マリノス内定のFW塩貝健人(慶応義塾大)、2023年の関東大学リーグ1部得点王のFW内野航太郎(筑波大)と次々に攻撃カードを切ってきても、マッチアップするFWの特徴を把握して冷静に対応する。
67分、鋭い出足でインターセプトすると、前線のスペースに入り込んだFW有働夢叶(中京大)の足元に素早くパスをつけて決定機を創出した。得意の空中戦では何度もはじき返して完全に制空権をにぎり、後半アディショナルタイムにはCKのこぼれ球をペナルティーエリア内で拾って、角度のないところから強烈なシュート。これはGKのファインセーブに阻まれたが、攻守において最後まで相手の脅威になり、勝利を手繰り寄せた。
関西選抜との第3戦では立ち上がりに失点こそ許したが、MF中野瑠馬(立命館大)、MF木戸柊摩(大阪体育大)を擁する多彩なアタッカー陣に対して気を吐き、後半に関西ナンバーワンストライカーの古山兼悟(大阪体育大)が投入されると、背後を狙う相手に質の高いカバーリングで応戦して何度もピンチを防いだ。
結果的に、グループリーグは1勝2敗の最下位に終わった。しかし、3日間連続90分フル出場という離れ業を、プレーの精度を落とさずにやり切ったことは特筆に値するものだった。
科学的に習得した“賢く守る技術”
「強いだけじゃプロの舞台ではやっていけない。もちろん熱いプレーもしながら、クレバーなプレーを出していきたいと思っています」
こう語る桒田は高校時代、無名の存在だった。在籍していた暁星国際高校は千葉県リーグ1部を戦うチームで、対戦相手は流通経済大柏高校や市立船橋高校のBチームなどだった。全国高等学校総合体育大会サッカー競技大会(インターハイ)、全国高等学校サッカー選手権大会の県予選では3年間でベスト8止まり。大きな成果を挙げられなかった。
それでも、存在感は際立っていた。筆者も県リーグ1部の試合でプレーを見たことがある。ガッチリとしたフィジカル、高さを生かした空中戦の強さは抜きん出ていて、パワー系CBの顔を前面に出す選手だった。ただ、当時の技術的なレベルは高校時代の関川郁万(鹿島アントラーズ)、角田涼太郎(KVコルトレイク)などには見劣りし、筆者は「大学で化けたら面白いな」と思っていた。
当時、関東の強豪大学が桒田に興味を示しているという話を聞いていた。だから、東海地域の中京大進学には驚いたことを覚えている。あれから3年の歳月が経ち、桒田はパワーを生かしたプレーだけではなく、前述したハイレベルなカバーリング能力と危機察知能力を美しいまでの身体操作で存分に発揮するクレバーなプレーも習得。その成長には、中京大への進学が大きく影響していたのだった。
「僕は大学に行って、サッカーだけになるのが嫌だったんです。学問のところでサッカーを学び、知見を深めていきたい思いがありました。声が掛かった大学のなかで中京大にはスポーツ科学部・競技スポーツ科学科があり、そこで筋トレの仕方や体のメカニズム、栄養学も学べると思ったので選びました」
サッカーを深く知る。高校時代から桒田は自分のプレーに疑問を抱いていた。得意な高さや対角のキックばかりに意識が傾いてしまい、CBに必要な“賢く守る技術”が決定的に足りないことを自覚していた。だからこそ、練習だけではなく勉学でもその部分を向上させられるように、中京大への進学を決めたのだった。
その姿勢はすぐに成果を表す。大学では運動力学に加え、筋肉のメカニズムやステップワークにおける足の運び方、踏み込み方、体の角度を科学的に学んだ。苦手だったカバーリングや裏への対応が徐々に磨かれていくと、ゼミでは走り幅跳びを専門とする教授にジャンプの仕方を一から学んだ。
「片足ジャンプのタイミング、踏み込む場所、指を使うこともそうだし、両足ジャンプでもっと高く飛ぶこと、いろいろなジャンプの仕方やタイミングなどを学びました。僕は股関節が硬いほうなので、より沈み込んでから飛ぶとか、体の連動性を使った瞬間的なパワーの出し方も学びました」
短所を補うだけではなく、長所も最大限に磨く。しかも、科学的に。スケールの大きいCBに成長していく桒田を、プロのスカウトが放っておくわけがなかった。
土台を築いて日立台のピッチへ
大学3年生の段階で複数のJ1クラブが争奪戦を繰り広げたが、「地元であることと、自分が学びたいものを学べる」という理由で柏レイソル入りを決断した。
「レイソルでは犬飼智也さんを参考にしています。いつもすごく首を振っていますし、常に周りの状況を把握してないと、あのような予測や反応はできないと思うので、首を振る部分や相手の嫌なところに立つことを意識するようになりました」
開幕戦を三協フロンテア柏スタジアムのスタンドから観戦した。同じく大学3年生で入団内定の関根大輝は、すでにプロ契約を結んで開幕スタメンを飾り、堂々たるプレーを見せていた。
「同い年だから、かなり意識しています。彼は能力が高いし、ずっとエリート街道を歩んできたと思うので負けたくない。スタジアムの応援がすごくてうらやましさもあり、『早く自分も立ちたい』と思いましたけど、焦ってはいけないことも理解しています。自分の特徴を伸ばすことを意識して、しっかりと学びながら土台を築いていきたいです」
プロ入りが決まっても、学ぶ姿勢は変わらない。むしろ、より貪欲に、より細かく、よりハイレベルになっている。それはこれからも不変だ。日本のCBにおいて、桒田の成長は大きなロマンに満ちた一つのポイントになっていくだろう。
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