本田好伸
田村蒼生「ボールと胸との距離」でシュートが決まる|進化するN14中西メソッド 筑波大で始まる技術革命
Writer / 本田好伸
筑波大の3年、田村蒼生は2023年、中西哲生と出会って進化した。元々、技術もスピードもある選手だが、N14中西メソッドに触れて「再現性」の価値を知る。リーグ戦22試合で、チームトップタイの9得点。ベストイレブンにも選ばれた。この先、さらにどんな進化を遂げるのか、楽しみは尽きない。
(第2回/全5回)
編集協力=田中達郎、ウニベルシタ
決まるシュートを逆足で打てた瞬間
「ボールと胸との距離が近かったからミスにつながっていた」
この一言が、筑波大×中西哲生の真価を表している。
筑波大で“14番”を背負う3年の田村蒼生に「中西哲生さんとのトレーニングで感じていること」を聞いた際の一幕である。「最初は自分のシュートの形を変えることへの不安や疑問がありました。でも、実際に取り組んでみると、これまで感覚でやっていたことが言語化されて、うまくいかない時に修正できるようになりました」と、自身の変化を口にした。
「ボールと胸との距離が近い」とはどういうことか。
N14中西メソッドで言う「決まるシュート」には、ボールの位置と自分の胸までの距離に最適解がある。「近い」なら前傾になっていて、「遠い」ならのけぞるような姿勢になっているということ。この理論においては「重心の高さ」が重要であり、股関節をしっかりと可動させられる重心の位置や力の入れ具合、姿勢によって決まるシュートを打てる。
田村が自らの進化を強く実感したのは、関東大学リーグ1部の第18節、東海大戦のことだ。右利きの田村が、左足でミドルを決めた。ペナルティエリア外、ゴール正面でワントラップすると、左足を振り抜いて右上隅にシュートを突き刺した。インパクトの瞬間、軸足が宙に浮き、蹴り足から地面に着くN14中西メソッドの「軸足抜き蹴り足着地」の型が見事に表現されていた。久保建英のシュートフォームと言えば、イメージできるだろうか。
「夏に右足を怪我したことで、左足のミドルシュートや、シュートの際、足にボールをどう乗せるかなどの練習を中西さんと取り組んできました。あのシュートはこれまでの自分にはない流れだったので、練習の成果が出たゴールだったと思います。軸足抜きもできていましたし、胸とボールの距離感も合わせることができていました」
自分のプレーを振り返りながら、このレベルの解像度で語れることが大きな価値である。言語化できるということは、再現できるということ。なぜうまくいったのか、あるいはいかなかったかがわかるから、技術は進化し、いつでも発揮できるようになるのだ。
「第7節の東洋大戦も、目の前に来たボールをシュートキャンセルしてボールを止めたことで、ゴールを決められました。ワンタッチでシュートするのではなく、落ち着いて相手の動きが見えていたので、GKのタイミングをズラすことを選択できました。間違いなく、プレーを言語化できるようになったことが要因です。『ボールが来る、相手が来る、やばいどうしよう』と焦ることなく、頭を整理して、次を予測して、あとはプレーを実行するだけ」
田村は、165cmと小柄ではあるものの、バイタルエリアで前を向いてプレーできる。サイドからのカットインも元々の持ち味の一つだ。今シーズンはトップ下でもプレーするようになり、その技術は、中西との出会いをきっかけに再現性のあるものへと進化を遂げた。
「うまくいかないこともけっこうあって、中西さんに『胸とボールの距離が近いから、動きが詰まってうまくシュートを打てていない』と指摘されたことで、感覚が良くなりました。原因がわかって、教わったことを試合で少しずつ発揮できるようになったことで、『すげえ、おもしろい!』と感じました。もっと練習したいですし、本当にプラスしかない」
そうイキイキと話し、今の課題は「ターン」だと楽しそうに言う。そのプレーもまた、今シーズンすでに進化した技術を見せ始めていた。リーグ戦でベストイレブンにも選ばれた。N14中西メソッドを携えた田村はこの先、どんな選手へと成長していくだろうか。