本田好伸
「一番のキーマン」瀬良俊太が“再現性”を知った1年|進化するN14中西メソッド 筑波大で始まる技術革命
Writer / 本田好伸
筑波大の4年生、瀬良俊太は2023年、一つの殻を破った。中盤の選手であり、ハイレベルなポジション争いの中で、スタメンで出ることもあれば控えに回ることもあった。それでも、リーグ戦で3得点を挙げ、シーズン終盤のインカレでは、フル出場してダメ押し弾も決めた。中西哲生との出会いが大きなきっかけとなった。
(第3回/全5回)
編集協力=田中達郎、ウニベルシタ
言語化が習慣化されてきた
全日本大学サッカー選手権、通称インカレにおいて、主役級のパフォーマンスを見せていたのが筑波大の4年生、瀬良俊太。決して派手ではない選手が、殻を破った瞬間だ。
3回戦の中京大戦、アディショナルタイムで2-0とダメ押しするダイビングヘッドでのゴールを決めた彼に対して、この8カ月間、共にトレーニングを積んできた中西哲生は「間違いなく今日のマン・オブ・ザ・マッチ。今大会の一番のキーマン」と話していた。
元々、トップ下や右サイドハーフなど、2列目でプレーすることが多い瀬良は、アタッカーというよりゲームメーカータイプである。チームのリズムを生み出す動きやパスワークを得意としつつも、自らフィニッシュワークに持ち込む意識が高いわけではなかった。
「中西さんとの練習に、最初の頃はあまり行けませんでした。みんながトレーニングしているのを見て参加したい気持ちはありつつも『中盤の自分がやって意味あるのかな』と思っていました。でもシュートの打ち方や形、練習方法を教えてもらってからは、これだったら自分でも点を取れるし、自主練でもやれると感じるようになって参加しました」
リーグ戦に17試合出場して3得点。公式戦では6得点を挙げた瀬良が“違い”を示したのは第15節の国士舘大戦だった。スコアレスで迎えた17分、安藤寿岐の左サイドからのクロスに反応した中央の瀬良は、ハーフバウンドでトラップして、ボールが地面から跳ね上がるタイミングで左足を振り抜き、ゴール左隅へとコントロールシュートを流し込んだ。
「練習時のイメージ通りだった」
トラップで相手を交わすアイデアも、GKの取りづらいタイミングとコースも、冷静さを感じさせた。彼自身「再現性」というN14中西メソッドの真髄を実感した瞬間だった。
「最初はボールの止め方や蹴り方を教わりました。これまでは感覚でやっていて、技術について具体的に教わったことがなかったので、その時点でもう味わったことのないものでした。教わったことの中には、自然にできていたプレーもあります。でも、中西さんに言語化してもらえたことで、納得できました。感覚でやってきたプレーを言語化することで再現性をもってできるようになり『そういうことだったのか』といった気づきがありました」
練習で型をつくり、試合で再現する。
その過程では、相手なしの状況から始め、対峙する相手を入れて実行し、さらに強度を上げてもできるようにするという繰り返し。試合で使えるようになるまで、精度を高める。
「今でも、それは本当に意味があるのかと疑問に思うこともあります。それくらい、未知の内容なので(笑)。でも、やっていくうちに中西さんの意図をつかめてくる。もちろん、最後は自分で取捨選択します。そうやって繰り返していくと、できた理由、うまくいかなかった理由が自分でわかるようになってきました。それに、試合でプレーしていても、中西さんと練習していた風景が頭に浮かぶことがあります。言語化が習慣化されてきましたね」
中西との出会いは、瀬良にとって本当に大きなものだった。「中西さんみたいな指導者とは出会ったことがない」と、瀬良は照れ笑いする。2つの側面で、初の体験だった。
「一つは、技術的な面です。戦術を教える指導者はいますが、中西さんのようなメソッドをもった指導者には初めて出会いました。これまで個人戦術は自分でやっていたので」
もう一つは、人間性だ。
「中西さんは、すごい人格者です。試合の日、グラウンドに早く来て落ち葉拾いを一人でやっていたり、一番水を運んでくれたり、ゴールを運んだり、ビブスを集めて周ったり、本当に素晴らしい人です。あれだけ有名な人が、なかなかそんな行動をできないと思います」
練習を見ていると、たしかに、誰よりも気遣いを行き届かせているのが中西だ。そんな姿を見て、選手たちが普段の振る舞いを変えて行ったことは想像に難くない。
瀬良は、大宮アルディージャの下部組織から筑波大へ進み、新年度は、J3・カターレ富山への内定が決まっている。元々、レギュラーではなくサブだったところから、この1年で一気に飛躍した。課題はまだまだある。「守備と得点に絡むこと」。中西と出会い、N14中西メソッドを備えた瀬良はこの先、どんな進化を遂げていくだろうか。
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