試合中の“ふわふわ感”を解決した「かかと」の使い方とは?ザ・ストイックGKが中西哲生にもらった究極の一言(入江倫平/2年・GK)|中西哲生×筑波大、技術“超”革命

難波拓未

大学サッカー

2025.03.05

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試合中の“ふわふわ感”を解決した「かかと」の使い方とは?ザ・ストイックGKが中西哲生にもらった究極の一言(入江倫平/2年・GK)|中西哲生×筑波大、技術“超”革命

難波拓未

Writer / 難波拓未

Editor / 本田好伸

中西哲生とトレーニングすれば、選手は加速度的に成長する──。久保建英はもちろんのこと、筑波大学蹴球部の選手たちもそうだ。昨季の山内翔(ヴィッセル神戸)や、今季の角昂志郎(ジュビロ磐田)、田村蒼生(湘南ベルマーレ)、加藤玄(名古屋グランパス)など、Jリーグに進んだ選手たちにとって、進化のきっかけとなったのが「N14中西メソッド」だ。なぜ、選手は成長するのか?唯一無二の理論の真髄とは何か?「中西哲生×筑波大、技術“超”革命」で選手を覚醒させるメソッドの一端を紐解く。今回はGK入江倫平を紹介する。
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違和感を一発で解決した中西のアドバイス

GK入江倫平は、出番を約束された選手ではない。

2024年12月までの約3カ月は、公式戦でゴールマウスの前に立つことすらできず、シーズン終盤には負傷によるリハビリ生活を余儀なくされていた。

出場機会の少なさは怪我だけが理由ではなく、むしろ“守護神” 佐藤瑠星(3年)の存在が大きい。2026シーズンから浦和レッズに加入内定のGKが君臨していることで、入江は現状で“第2GK”の座に甘んじ、我慢の時期を過ごしてきた。

しかし、入江は現状を決して憂いてないし、焦っていない。

それどころかむしろ、嬉々としている。中西哲生との出会いで気づきを得た “身体改造”に注力し、日々変化を感じる己の身体のリアクションに、耳を傾けているのだ。

「“肉体改造”は筋肉をすごく付けるイメージがあるかもしれません。すでに筋肉が付いている場所を根本から変えるものですからすごく難しい。でも、そこからすると自分がやっていることは身体にフォーカスしています。やっていることへの成長を感じていますし、1年生の時のプレーと見比べたら圧倒的に変わっています」

入江は、淡々黙々と、身体と向き合い続けてきた。

「未来が見えているというか、やり続けたら絶対に上に行けることがわかっているから、そこに集中しているだけ」

その言葉が彼の“ストイック性”を象徴するようでもある。

ただし、闇雲に“身体改造”をしてきたわけではない。キッカケは、違和感だ。

「いつでも、どこにでも、100%の力でシュートを止めに行ける最も良い状態、身体のポジションに常にいることがGKにとって大切なことです。でも、試合中にはその状況をつくれなかったり、タイミングが合わなかったりしていました」

その正体を探るために頼った中西から、即答で的確な助言をもらえたのだ。

「練習だとシュートが来ることをわかっているからリラックスしているし、他のことを考えないからその状態を勝手につくることができる。だけど、試合中は『なんか違う』みたいなことがあって。それを哲生さんに言ったら『ここじゃない?』と教えてもらってすぐ直った。自分が考えたこともないようなアドバイスもくれます」

中西と入江のエピソードは、非常にマニアックである。しかしそれは、プレーの“深さ”でもある。そもそも、中西がGKに具体的なアドバイスを伝えるようになったのはこの1、2年のことだ。中西が権田修一とトレーニングするなかで気づきを得て、新境地に至ったことで、入江にも助言しながら両者の言語化は深度を増していった。

入江は「すごく細かい感覚の話なんですけど」と前置きしてこう話す。

「試合中、重心が少しふわふわしている感覚があったんです。このふわふわしている時は、絶対に100%の力を地面からもらってジャンプできない。だから哲生さんには『ふわふわしている感覚がおかしいんですよね』と聞きました。

そうしたら『かかとが使えていないし、地面に刺さってない。頭をまっすぐにして、かかとで重心やポジションをつくることを試合中もこまめにやったら良いポジションに入るんじゃない?』って。それを実践したら一発で変わりました」

この話を、少しかみ砕いてみよう。

「かかとを使って地面に刺す」とは、中西の言葉を使えば「かかとを着いて、膝から下を地面に対して垂直にすることで、地面からの反力をもらえる」ということだ。

さらに、人間の身体で「頭」が一番重たい部位であり、その重みをうまく活用するために「地面に対して頭も垂直にする」という意味で「頭をまっすぐに」と伝えている。

そして極め付けが「重心やポジションをつくる」である。かかとで地面を刺して、頭をまっすぐにしつつ、同時に「ただし、重心位置は下げない」と伝えているのだ。

N14中西メソッドの真髄と、入江の理解力の深さがわかる会話である。

「その延長の話ですけど、母指球や小指球にも体重が乗っていることが重要で、そこをマッサージすることで小指球の神経がつながり、良いポジションに乗るようになることを教わったので、そういうことにも取り組んできました」

入江にとって、中西のメソッドと的確な助言には、目からウロコが詰まっていた。

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監督から「ザ・ストイック」と呼ばれる男

小井土正亮監督に「入江倫平はどんな選手か?」と尋ねると、こう返ってきた。

「ザ・ストイックって感じ」

そのことを本人に話すと、納得したようにこう答えた。

「そこしか自分の武器はないと思っている。誰よりもやっている自信しかない」

これが、入江のパーソナリティなのだ。桐蔭学園高校時代は、家族に協力を仰ぎ、砂糖を一切とらない生活を送ったという。それくらい、食事も徹底していた。

やぶからにそうしているわけはなく、「やる」「やらない」の取捨選択も日々研ぎ澄ませている。「自分はやったほうがいいタイプ」と自認し、効果を実感するからこそ、細部にこだわる。そうやって彼は、20年間、己を磨き続けてきたのだ。

しかも、それを“変えられること”が、何よりすごい。入江はこの身体改造を通して、ある意味ではそれまでの自分の常識を“捨てる”という作業をしている。

それはまるで、20歳にして利き手を右から左に変えるようなものだ。無意識の行動を意識し、それを意図的に変えて、新しい無意識にすり替えていく。こうした作業に費やす時間をいとわない。それどころかむしろ、彼の表情は生き生きとしている。

2024シーズン、試合に出られない時間、ケガで練習に参加できない日々は、彼にとってこれまで以上に自分を捉え直す期間だったのかもしれない。

「パフォーマンスが上がらないことやケガをするということは、自分の中で自然な身体の使い方ができていないということ。だからエラーが起きました。ケガをしていて練習ができていない時でも、絶対に良くなることがわかっているから頑張れる」

ピッチでの動作、例えばキックやセーブの場面での足の置く場所やポジショニング、足への力の伝え方に始まり、日常生活の歩き方に至るまで、全てを変えている。

変化への不安よりも、進化への好奇心だ。

「焦りがないわけじゃないですよ。試合に出られていないから。でも、圧倒的に変わっている。これをやり続けたら、上に行ける未来が見えるから」

入江の言う「上」とは何か。

「それは『世界一のGKになること』です。何をもって『世界一』とするかは難しいですけどね。世界的な個人タイトルとか、ワールドカップ優勝国のGKだったり、クラブワールドカップ優勝チームのGKだったり、いろいろあると思います。でもとにかく、世界一になりたいっていうのは決めていることです」

身体を変え、出番をつかんで、そして上を目指す。まずは筑波大の正GKの座を手にすることからだ。己と向き合い続ける男は、一体、どこまで進化を遂げるだろうか。

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