難波拓未
中西メソッドの申し子が「同じミスをしなくなった」理由。言語化と自動化でたどり着いた境地(徳永涼/2年・MF)|中西哲生×筑波大、技術“超”革命
Writer / 難波拓未
Editor / 本田好伸
中西哲生とトレーニングすれば、選手は加速度的に成長する──。久保建英はもちろんのこと、筑波大学蹴球部の選手たちもそうだ。昨季の山内翔(ヴィッセル神戸)や、今季の角昂志郎(ジュビロ磐田)、田村蒼生(湘南ベルマーレ)、加藤玄(名古屋グランパス)など、Jリーグに進んだ選手たちにとって、進化のきっかけとなったのが「N14中西メソッド」だ。なぜ、選手は成長するのか?唯一無二の理論の真髄とは何か?「中西哲生×筑波大、技術“超”革命」で選手を覚醒させるメソッドの一端を紐解く。今回はボランチ・徳永涼を紹介する。
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中西哲生のように言語化する大学生
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徳永涼は、中西哲生だ。
ふと、そう錯覚した。
「自動化されて、無意識にできるからこそ、他のことに頭を使える」
後で具体的に記すが、言葉が、中西なのだ。言うなれば、N14中西メソッドの“正統後継者”。それほどまでに徳永の言葉一つひとつに中西の論理を感じる。
プレーの「言語化」はもっと中西的だ。
「もともとターンは得意だったんですけど、よりスムーズに次のプレーに移りやすくしたくて……」と話し始めた次の言葉に、思わず唸ってしまった。
「ボールが来る前に少しバックステップを踏みながらプレジャンプで少し跳ねて、トラップの瞬間に地面に着いて、反力をもらいながら前に行く」
言語化されているから、再現性が増す。自身が誰よりもそのことを実感している。
「哲生さんと出会ってから、プレーの選択を言語化できるようになり、考えることが増えた。だからミスの要因が明確になって、同じミスをしなくなりました」
「例えば?」と聞くと、こう返ってきた。
「(中盤でプレーしている際に)首を振って認知はできていたけど、トラップで相手が来ているのに、外ターンではなく内ターンを選んだことでガチャッと取られたシーンでは、『今は内ターンしたからダメだったんだな』と。今くらい離れていたら外ターン、逆にこれくらいの距離があれば内ターンだなという感じです。言語化しながら自分の感覚に合わせていくので、同じミスを2回続けることがなくなる」
N14中西メソッドの申し子だ──。そう感じるのにはワケがある。
徳永は、筑波大蹴球部の現メンバーの中で誰よりも早く中西と出会っているからだ。柏レイソルU-15を経て前橋育英高校へと進んだ2年生の夏に、2人は邂逅した。
彼らを引き合わせたのは、元フットサル日本代表であり、現在はパーソナルコーチとして育成年代のフットボーラーの指導にあたる岩本昌樹である。
「怖い選手になるためにドリブルやステップを磨きたくて岩本さんのトレーニングを受けていた時に、岩本さんから哲生さんを紹介してもらいました。そこから今までずっと哲生さんに教えてもらってきました。なので、4年くらいですね」
そして、当時のエピソードをこう話す。
「サッカーをやると思ったら、全然やらなくて(笑)。最初はベロ(舌)や首の位置を意識したメニューとか、かかとを意識したステップワークでした。2時間のうち1時間半くらいはボールを使わず、身体をつなげることから。それが本当に衝撃的で、サッカー以前の部分で自分の身体を見つめ直すことになり、『全然、足りていなかった』と痛感しました。だから家でも哲生さんに教えてもらったメニューをやってみたり、学校の休み時間にもやってみたり、ひたすら取り組むようになりました」
高校時代は寮生活だった徳永にとって、中西と対面でトレーニングできるのは、年末や夏場のオフなど、せいぜい年に2回しかない。1回1回を、本当に大事にした。
「自分は理論的に物事を進めるタイプだったので、哲生さんの理論や言語化されているところがすごく腑に落ちた。明確な効果が出ていなかった段階から、『これはもう、絶対に必要だな』と感じたので、日常的にやることが当たり前でしたね」
そうして愚直に取り組む中で「つながった!」と感じる瞬間が増え、ピッチ上のプレーの質が格段に上がっていく。例えば「右足で取っていたボールが左足で取れるようになった」というように、変化と進化を感じることでさらにトレーニングに熱が入り、気がつけば徳永は、世代を代表する選手の一人へと成長を遂げたのだ。
前橋育英高校では、キャプテンとして出場した2022シーズンの全国高校サッカーインターハイ(総体)で優勝し、優秀選手に選出。同じく、全国高校サッカー選手権大会でも優秀選手に選ばれた。U-18日本代表でも主将を担い、SBSカップ国際ユースサッカーではU-18ウルグアイ代表を抑えて準優勝を果たした。
そんな徳永はJクラブから引く手あまたであるにもかかわらず、「自分が即戦力として試合に出る未来があまり見えなかった」と、筑波大への進学を決意。偶然ではあるものの、中西と再会することになったこの決断も、徳永にとって大きかったのだ。
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N14中西メソッドの正統後継者

中西のテクニカルアドバイザーの就任は、徳永からすれば“棚ぼた”だった。
「『本当に自分はラッキーだな』って。哲生さんと練習できるのは本当にメリットでしかない。すごくうれしかったし、運をもっていると思った」
中西と時を同じくして筑波大でトレーニングを始めた当初は、当時のキャプテン・山内翔や、同学年ながらいきなりエース級となった内野航太郎らと共に中西との居残り練習、通称「テツトレ」に参加し、自らの振る舞いで周囲にその価値を広げた。
ある意味で、徳永の存在が、筑波大の進化に影響を与えている。
なぜなら、徳永が“どんどんうまくなっていった”からだ。
「攻撃において、とにかく前に、前にという部分はすごく良くなったと思います。哲生さんと取り組んだターンの練習では、『なるべく前にボールを運ぶこと』を口酸っぱく言ってもらったことにより、少しずつプレーが変わっていきました」
これが、冒頭で紹介した「バックステップを踏みながらプレジャンプで少し跳ねて、トラップの瞬間に地面に着いて、反力をもらいながら前に行く」動きだ。
徳永のプレーが周囲に与える影響は大きく、気がつけば“テツトレ”は、中西が練習に訪れるたび何人も“順番待ち”するほど、みんなが参加する時間となっていた。
では、徳永のプレーにおける“何”が優れているのか。
それはやはり「再現性」だろう。彼のパフォーマンスは好不調の波が少なく、自らも「良い悪いがないことが自分の良さ」と認めている。
そして、言語化と「自動化」こそが、その境地に辿り着けた理由だ。
「試合中は、ほぼ無意識ですね。最初の頃は、まだ自動化できていないから、局面に応じて『今はこれくらい相手が来たから、外ターンだな』って一瞬で考えていました。でも、今はそういうことを考えないし、それが逆に、めちゃくちゃいいことです」
そう、自動化され、無意識にできるから、他のことに頭を使えるのである。
無意識の所作が増え、定着した結果、徳永は格段にプレーの幅を広げた。そうやって進化を遂げてきたからこそ、徳永は改めて今、中西の存在の大きさを感じている。
「僕にとって、哲生さんはお父さん的な存在というか。身近にいてなんでも相談できる相手ですし、一人の大人として尊敬しています。メソッドだけではなくて、『この人に聞いてみよう』とか『取り入れてみよう』というのは、論理的な思考が自分に合っているからというだけではなく、やはり人間性の部分が大きいと思います」
どこまでも謙虚で、進化に貪欲で、己にひたむきで──。
そう、まさに中西そのものである。N14中西メソッドの正統後継者。誰よりも中西の論理と人柄に薫陶を受けた男の未来に、興味が尽きない。

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