安藤隆人
181cm・左利き・スピード、日本待望の左SB(吉村瑠晟/関西大学・3年→磐田)|安藤隆人の直送便(大学編)
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。大学編の今回は、U-23日本代表の主力として活躍する関根大輝(柏レイソル)に続く、関西大学の大型左SB・吉村瑠晟に焦点を当てる。2026シーズンからジュビロ磐田に加入内定の吉村は、181cmの高さ、爆発的なスピード、左利きと抜群のポテンシャルをもつ。高校3年生の時にコンバートされたポジションで、自身の武器を余すことなく発揮し、価値を高めている。
高3で出会った天職
181cmのサイズと爆発的なスピードをもち、かつレフティの左SB。この表現だけで相当に魅力的な選手であることが伝わるだろう。
関西大学3年生のDF吉村瑠晟は、希少価値の高い左SBとして早い段階でJクラブの目に留まると、熱烈ラブコールを送り続けたジュビロ磐田に2026シーズンから加入することが決まった。すでに特別指定選手になっており、2024シーズン中のJリーグデビューも期待されている。
吉村が左SBにコンバートされたのは神戸弘陵高校時代だった。
「中学、高校2年生まではサイドハーフやFWをやっていて、アタッカーの時は右サイドでプレーすることが多く、カットインからの左足シュートが自分の武器でした。でも、高校3年生からはスピードを生かして後ろから駆け上がって裏に抜け出していく攻撃参加だったり、守備面では裏を取られた際のカバーリングだったり、1対1でのスピード勝負で負けないこと、攻守において競り合いに勝てるという理由で左SBをやってほしいと言われました」
当初はカットインよりも縦突破を求められる左サイドでのプレーに戸惑ったが、SHよりも全体が見渡せて、前方に多くのスペースがあるSBは吉村の特性と合致した。スプリントを繰り返しながら、状況を察知して縦に行き切るのか、サポートに行くのか、ステイしてスペースを埋めるのかを瞬時に判断し、攻撃から守備に切り替わった時は迷わず守備のベースポジションに直線的に戻って対人能力や競り合いの強さを発揮する。
「自分のスピード、跳躍力を一番出せるポジションだと感じたので、フィニッシャーからチャンスメーカーに役割が変わっても問題なく自分のやるべきプレーを見出すことができたと思います。自分の持ち味を一番発揮できる天職だと思っています」
だが、高校3年間を通じてなかなかスポットライトが当たらなかった。2年生の時は選手権でベンチ入りするも出番は訪れず。3年生の時は兵庫県U-18リーグ1部で躍動して優勝を手にしたが、インターハイ、選手権ともに県予選で敗退を喫してしまったことで、吉村自身も全国レベルの注目を浴びることなく高校サッカーを終えてしまった。
それでも関西大学入学後はその名が一気に関係者に知れ渡ることとなる。球際の強さに磨きがかかり、当初の課題だったゲーム体力も関西学生リーグで揉まれながら身につけていった。
試合直後に退場を分析する精神力と知性
左サイドで躍動する吉村を磐田が高く評価し、大学3年生の春の段階で獲得オファーを出した。
「正直、他のクラブからのオファーを待つのか迷ったのですが、卒業後からプロの世界に入るよりも大学在学中にプロの経験を積めたほうが成長速度も早まるし、スムーズにプロの世界に入っていけると思ったので早めに決めさせてもらいました」
5月19日に行われた関西学生リーグ1部・第6節の関西学院大学との伝統の『関関サッカー定期戦』。左SBとして先発した吉村は、左SHの真田蓮司と息の合ったコンビネーションで左サイドを何度も活性化させた。右サイドにゲームメイク能力の高い選手がそろっており、吉村は相手が逆サイドに寄った瞬間を見逃さずハーフスペースに飛び込んだり、ワイドに張って幅をつくったりと的確な状況判断を見せていたのが印象的だった。守備面でも素早い切り替えで関西学院大のカウンターを封じ、時には激しく球際を戦った。後半アディショナルタイムに2枚のイエローカードを受けて退場処分となってしまったが、試合はスコアレスドローで決着した。
「退場してみんなに迷惑をかけてしまったことは反省しています。カードをもらったのも、守備面での出足の部分の迷いもありました。行き切るところと引くべきところのコントロールはこれからもっと質を上げていかないといけない。どうしても前に強く行ってしまう部分が残っているので、そこはもっとバランスを取れるようにしたいです」
試合後、退場した事実に目を背けず毅然と取材に応じて、冷静に分析する吉村にたくましさとインテリジェンスを感じた。
冒頭で触れた通り、サイズに加え、スピード、アジリティ、強度と身体能力が総合的に高く、かつレフティの左SBは非常に希少価値が高い。右SBで言えば、先のAFC U-23アジアカップで187cmのサイズをもち、スピードと足元の技術、対人能力にも長けた関根大輝が一気に脚光を浴びたことからも“サイズのあるSB”自体が日本サッカーの光明だ。
右SBでは関根という将来の日本代表における希望の星が誕生した。そうなれば次は左SB。吉村はそこに名乗りを挙げられるだけの価値を生み出そうとしている。
「180cmを超えてくるSBはプロでも多くはないと思いますし、そのなかで身体能力があるということも加えたら希少になってくると思います。だからこそ、今に甘えず常に上を目指したい。具体的に言うと、ジュビロの練習やトレーニングマッチに参加してみて、競り合う前の身体のコンタクトのタイミングや、ボールの落下地点にいつどのタイミングで入っていくべきなのかなどの駆け引きが足りないと感じたので、経験と思考を積み重ねていきます」
「まだ大学3年生」でもあり、7月で「もう21歳」でもある。焦る必要はないが、基準を高くもって取り組む先に自分の価値が他の追随を許さないほど希少になっていく未来がある。吉村は今に満足せず、左サイドで躍動感と安定感という進化を見せつけていく。