安藤隆人
高卒プロを断たれた“元C大阪10番”の決断(皿良立輝/京都産業大・1年)|安藤隆人の直送便(大学編)
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校や大学を中心に全国各地で精力的な取材を続ける“ユース教授”こと安藤隆人が注目したチームや選手をピックアップする「直送便」。大学編の今回は、京都産業大学のMF皿良立輝に焦点を当てる。セレッソ大阪の育成組織出身の皿良は、高卒プロという目標を叶えられず、大きな挫折を味わった。しかし、自分を見つめ直して初心に返り、大学卒業後に再び桜のエンブレムを着けることを目指している。
“高卒プロ濃厚”からの挫折
京都産業大学で一際大きな背番号72を背負うMF皿良立輝は、2023年までセレッソ大阪U-18で10番を背負い、左腕にキャプテンマークを巻いていた。
足元の技術に優れ、特に左足のキック精度の高さとボールタッチの繊細さは突出している技巧派だ。小学4年生でC大阪の育成組織に入り、U-15、U-18と順調に昇格。高校1年の時にU-16日本代表、2年生ではU-17日本代表に選出され、2023年はトップチームに2種登録された。将来を期待されてきた皿良がなぜ、関西大学サッカーリーグでプレーしているのか。その過程には2度の大きな挫折と、覚悟のリスタートがあった。
関西学生サッカーリーグ1部の第6節・同志社大学戦の勝利後に、彼はこう話した。
「高校と違ってフィジカルの部分は(大学に入ってから)かなり苦労しました。長崎の島原遠征で早稲田大学など関東の大学と戦ったのですが、『技術だけじゃどうにもならない』と感じ、筋トレを始めて少しずつ慣れてきている段階です」
右サイドハーフとして83分までプレーした皿良は、サイドでボールを受けると抜群のキープ力、味方の動きを見逃さない正確なパスで攻撃のリズムを生み出していく。皿良が言うように高校時代より分厚くなったフィジカルで球際の激しさを見せ、勝利に貢献した。
「2023年は本当に苦しかった。自分で言うのもなんですが、挫折をこれでもかと味わって、メンタルを鍛えられた1年でした。今は初心に戻ってサッカーができています」
2024年を「原点回帰」と位置付ける皿良にとって、2023年は厳しい現実を突きつけられた時期だった。予兆は2022年、高校2年生の秋。C大阪U-18の主軸としてプレーしていた皿良はプレミアリーグWESTで17試合に出場し、得点ランキング5位タイの12得点を挙げるなど、大車輪の活躍を見せた。しかし、チームはリーグ後半戦で6連敗を喫して10位でフィニッシュ。神村学園高校と残留を懸けたプレーオフを戦い、1-2で敗れてプリンスリーグ関西1部に降格した。
最高学年になった2023年は前述の通り、10番とキャプテンという大役を任されて、プリンス関西1部で開幕3連勝を飾る。しかし、ここからチームは失速し始めた。第4節の近江戦を3-4で落としたことを皮切りに、まさかの4連敗。皿良も第9節終了時点でわずか1得点と結果を残せない。トップ昇格が濃厚と言われていた2022年から一転して雲行きが怪しくなり、夏の日本クラブユース選手権前にはトップ昇格できないことを告げられた。
「セレッソでトップ昇格したい、セレッソでプロになりたい思いはずっと強かったし、最後まで『行ける』と信じていました。昇格が叶わなくなっても、高卒プロにはものすごく強いこだわりをもっていたので、進路相談の際に『高卒プロの夢はあきらめきれないので、挑戦したい』と伝えて、ギリギリまで粘りました」
トップチーム昇格を見送られた時点で関東や関西の名門大学からの誘いはあったが、それを断ってJ2のクラブに進路を求めた。
J2クラブから突きつけられた2度の不合格
しかし、そこでも容赦ない現実が皿良を待ち受けていた。クラブユース選手権後の8月以降、J2クラブに2度の練習参加をしてラストチャンスに懸けたが、ユースから選手を昇格させるという理由で不合格を突きつけられた。
「それまでは同年代ではやれるという自信をもっていました。高卒プロはマストで、正直『できるもんや』と思っていたので、2回もプロから断られたという事実は本当にショックでした。最初に描いていた高卒でトップチームに上がって、ヨドコウ(桜スタジアム)で活躍するビジョンが音を立てて崩れていくような気がして、受け入れることができませんでした」
打ちひしがれるなかでも、皿良は自分を見失わなかった。進路はあくまでも個人的な問題で、チームの10番として、キャプテンとして周りの士気を落とすわけにはいかない。それと同時に自分のビジョンを再構築するために自分自身を立て直さないと、それこそ未来がない。
「こんな経験は人生で初めてだったけど、いい意味で余計なプライドが崩れた気がしました。セレッソというクラブへの誇りと愛情は崩さず、きちんと自分を見直そう。落ちたことはシンプルに実力不足と受け止め、大学経由でセレッソ復帰を目標に切り替えました」
高卒プロへのこだわりを尊重して意思が決まるまで待ってくれた京都産業大への進学を決めた皿良は、2度の挫折からメンタル面の成長という大きな財産をつかんだ状態で、リスタートを切ることができた。
大学卒業後に桜のエンブレムを着けるために
「2023年の今頃は僕が大学サッカーでプレーするなんて思ってもみませんでしたが、今こうしてプレーしてみてすごく楽しいです。僕の持ち味は左足のキック精度とセレッソできっちりと学ばせてもらった足元の技術で、そこを発揮していきたい。京産大は自分のストロングを出せるチームですし、関西の大学リーグは技術を大切にするチームがたくさんあるので、絶対に伸びる環境だと確信しています」
もしかすると2023年まではなにかをつかみにいくより、失うことを恐れながらプレーしていたのかもしれない。「昇格したい」から、「上がれないと言われたくない」と。「来年に期待」から、「昨年はもっと活躍したのにと言われたくない」と。心の変化も、皿良からプレーの自由度や発想力、なにより自分の可能性を狭めてしまったのかもしれない。だからこそ、今は初心に立ち返って大学サッカーと向き合えている。
「やっぱり小学4年生からセレッソというクラブで育ったので、セレッソでプロになる目標は変わっていません。でも、一度違う景色を見たことで、僕はセレッソという恵まれた環境に甘えていたのかなと感じます。別の環境に行くことで自分の足りない部分や伸びしろが見えてくる。大学での4年間を無駄にせず、桜のエンブレムを着けられるように力をつけていきたいです」
最後に皿良は「今からもうアピールしまくっています。かなりギラギラしていると思います」と笑顔を見せた。“挫折”とはただ折れただけではなく、その後に強烈な向上心をもって成長を加速させることで本物の“挫折”となる。皿良はそれを実証し続けながら、目標に向かって突き進んでいく。
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