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正解のない問いと、「国歌斉唱で膝をつく」という答え|米女子プロ・黒崎優香、日本を選ばなかった決断の先に
Writer / 伊藤千梅
黒崎優香はアメリカでの大学生活を振り返って「すごくいい経験ができた」と口にした。「大学チームの監督が交代になる」「国歌斉唱で膝をつく」。日本ではほとんど経験することのない出来事を通して、彼女は新しい価値観を広げていった。
(第2回/全4回)
多くの学びを得た大学時代
高校を卒業してからすぐに渡米をしたものの、すぐに大学へ入学できたわけではない。語学学校に通って大学に入るための勉強をしていたので、最初の1年間はサッカーをすることができなかった。
1年後、ようやく入学した大学での生活は、日本との違いに戸惑うことの連続だった。
アメリカでは日本のような上下関係がなく、ミーティングでは学年に関係なく誰もが自分の意見を主張する。最初の頃は英語が話せないからと笑ってごまかしていた黒崎だったが、徐々に自分の思いを伝えるようになったそうだ。
「年下だから働かなきゃいけないというのもなくて、日本とは真逆なんだなというのが最初の驚きでした。1年生だろうと4年生だろうと自分の意見をガンガン言うし、むしろ言わない方が意見を持っていないと思われる。英語が喋れなくても、伝える姿勢を見せるだけで、みんながわかろうとしてくれました。サッカー以外の部分でも学んたことが多かったです」
また、日本の大学サッカー部では、監督がクビになることはほとんどない。けれど、アメリカでは、結果が伴わなければ容赦なく辞めさせられる。4年生のとき、成績が振るわず監督が交代になると、それまで積み上げてきた信頼関係はリセットされた。
それでも、フロントの判断を、黒崎にはどうすることもできない。だからこそ、自分ができること、できないことを分けて考えるようになった。
「何事にも、自分でコントロールできない部分はあるじゃないですか。たとえば試合だと、メンバーを決めるのは監督やコーチの仕事だから、自分たちの意見を言ってもどうにもならない。それはサッカーでもそうですし、それ以外の部分でも同じ。“今できることにフォーカスを当てる”のをすごく大事にするようになりました」
人の意見を尊重する
想像もつかない出来事に面食らいながらも、ピッチ内外で初めての経験を重ねることで得た、新たな価値観。大学時代には、自分自身の考え方に影響を与えた出来事がもう一つあった。
それは、国歌斉唱で膝をついたこと。
黒崎が大学4年生だった2020年に、黒人の男性が白人の警察に拘束される際に亡くなる事件が発生した。この人種差別をめぐり、「Black Lives Matter」(黒人の命は大事だ)をスローガンにした人種差別抗議デモがアメリカ各地で行われるようになった。
当時所属していたチームでも「学校が製作した黒い服をチームで着るか」「試合前の国歌斉唱でひざまずくか」の2つの観点から、何度も話し合いが行われたという。
「アメリカの人たちは、政治に対して自分の意見を持っていて、育った家系や出身地などによって考え方が分かれます。そのときも『Tシャツ着るのはいいけど、膝はつけない』『Tシャツも絶対に着ない』などと意見が割れました。たとえ普段は話の合う仲の良いルームメイトでも、この件に関しては反対側の意見だったりと、意見が一つになることはなかったです」
最終的には、「個人の意見を尊重する」と、監督が選手個人に判断を委ねたことから、黒崎も自分自身がどうするかを決める必要があった。
「自分はどっち派でもないからこそ、すごく難しかったですね。最終的には、チームメイトに黒人の選手がいたので、そのサポートをしたいと思って自分は膝をつくことに決めました。サポートとはいえ何かができるわけではないけれど、その人たちに対して自分の気持ちがあるよというのは示したかったので」
この経験を通して、「答えは一つではない」と学んだ。
「高校のときは『自分が思っていることは正しい』と思い込みがちでした。でも、このときに何が正解なんだろうと考えて。膝をつくからダメ、つかないからダメとかはなく、正解はないのだと学べました。日本にいたら経験しないことだったと思いますね」
大変なこともあったけれど、それに負けないいい経験ができたと、自信に満ち溢れた表情で話す黒崎。大学での4年間が、間違いなく“卒業後”の3年間へとつながっている。
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