浦正弘
2011以来の“頂点”へ。なでしこの未来を切り開く、北川ひかるの“輝く左足”|Road to Paris〜なでしこの挑戦〜
Writer / 青木ひかる
パリオリンピックアジア最終予選の第2戦。勝てば12年ぶりに自力での五輪出場が決まる重要な一戦で、一人のレフティがピッチに立った。猶本光、宮沢ひなた、遠藤純の離脱により、“野戦病院”となった左サイド。救世主として現れたのは、現在WEリーグの首位を走るINAC神戸レオネッサの主力メンバーの一人、北川ひかるだった。
(第2回/全4回)
7年ぶりの先発出場で残した、確かな爪痕
「グラウンドに立ったらもう、楽しくなっちゃいました」
なでしこジャパンにとっての大一番で、約7年ぶりに代表戦の先発11人に抜擢された北川は、試合後にキラキラとした笑顔で取材エリアに現れた。左膝の前十字靭帯損傷で不参加となった遠藤からバトンを受け継ぎ、[3-4-2-1]の左ウイングバックでピッチに立った26歳は、自身の最大の武器である精度の高い左足のキックでチャンスを生み出し、その存在感を示した。
0-0で迎えた25分、1トップの田中美南が背後から倒されフリーキックのチャンスを得ると、キッカーの候補として長谷川唯と北川が並ぶ。
長年、なでしこを応援しているファン・サポーターにとっては、より感慨深いシーンだったかもしれない。長谷川と北川はもともと、世代別代表の主力として苦楽をともにした“仲良しコンビ”。2017年3月には、ポルトガルで行われたアルガルベカップのスペイン戦でともにA代表デビューを飾り、2人そろっての先発出場はこの北朝鮮戦が初めてだった。
試合再開の笛が鳴り、長谷川が走り出したあとに、北川が左足で前線にボールを送る。相手がクリアした浮き玉はゴール前左の上野真実のもとへ流れ、もう一度中に折り返す。ゴール前でボールを受けた田中美南の渾身のヘディングシュートはバーに阻まれたものの、こぼれ球を高橋はなが押し込んで先制点が決まり、国立競技場は歓喜に包まれた。
「あの角度であの高さの時は自分が蹴るって決まっていました。どこに蹴るかっていうのだけは、直前にみんなで話し合って……。折り返して折り返してっていう形だったんですけど、本当に良いボールが蹴れて良かったと思います」
北川のキックが起点となったこの1点目は、スコアレスドローで終わった第1戦からの均衡を破り、日本の勝利と五輪出場を大きく引き寄せた。
神戸で築いた、田中美南との強固な信頼関係
北川自身にとって、なでしこジャパン招集は2022年7月のE-1サッカー選手権から、約1年半ぶりのこと。国際大会への出場が懸かった試合は初めての経験だった。
2月16日に追加招集の一報を受けた北川だが、久しぶりの代表戦について「今まで一緒にやってきた選手が多かったし、声を掛け合いながらやれたので徐々に自信を持って、より良いプレーができた」と振り返る。
のびのびと自分らしく戦えたのは、今シーズンに国内屈指の強豪・INAC神戸に移籍し、左ウイングバックでのプレーを磨いたことで、攻守どちらでも自信がついたこと。そして、神戸でチームメートになった“代表常連組”の田中美南の存在も大きかった。得点にこそつながらなかったものの、北朝鮮戦でも「11番」を目がけ的確なロングボールを何度も蹴り込む北川の姿に、田中への信頼の厚さが垣間見えた。
「田中選手とはいつも神戸で一緒にやっているので、やっぱり呼吸が合いますね。前日に監督に『行くぞ』と言われてから、緊張している』っていう話を田中選手にしたら、『いつも通りにやったら大丈夫だから』と背中を押してくれました(笑)。いてくれるだけで助かりますし、本当に感謝しかないです」
パリ行きを決めた4日後の3月3日。WEリーグ第8節の浦和レッズレディース戦に先発で出場した北川は、5分に右コーナーキックから先制点をアシスト。すでに本大会のメンバー選考に向け、リーグ戦でも早速結果を残している。
2011年ワールドカップ以来の頂点へ。「光り輝く左足」がなでしこの未来を切り開く。
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