浦正弘
「迷いのないプレー」でチームを導く、なでしこの心臓・長谷川唯|Road to Paris〜なでしこの挑戦〜
Writer / 青木ひかる
2月28日。国立競技場のピッチに立った“背番号14”が、戦いを見守る多くの日本サッカーファンに衝撃を与えた。難敵・北朝鮮との負けられない一戦で緊張感が漂う空気を物ともせず、背後から迫る相手のプレスをひらりと交わすと、スタンドから感嘆の声が漏れる。自身の持ち味であるパスワークを出し惜しみなく披露し日本の攻撃を活性化させた長谷川唯は、なでしこジャパンの生命線として欠かせない存在だ。
(第4回/全4回)
「練習0日」の布陣に適応し、ゲームを掌握
「この選手の目は、一体どこについているんだろう」
これが、初めて国立競技場で長谷川唯を見た時の率直な感想だった。間接視野で敵と空いたスペースの位置を把握し、味方の足元にぴたりと合わせる正確なパス。そして何よりも、五輪への切符がかかった大舞台でもそのプレッシャーを感じさせない「楽しくサッカーをプレーする」のびのびとした姿に、すっかり魅了されてしまった。
選手に話を聞いていると「見えすぎて逆に迷ってしまった」という言葉を聞くことがあるが、この日の長谷川は90分間、「迷いのないプレー」を見せ続けた。海外組の招集メンバーは、国内組より5日遅れでチームに合流。初戦については開催地未定が続く異例の事態が起こりながらも、急ピッチに調整を進め、さらにスコアレスで終わった24日の初戦から、第2戦は4バックから3バックにシステムを変更。昨年の夏に行われた2023 FIFA女子ワールドカップ以来の[3-4-2-1]の布陣は「練習でもやっていなかった」(長谷川)という。
怪我人の影響でメンバー変更も相次いだなか、半年ぶりの2ボランチでの出場となった長谷川だが、コンビを組んだ長野風花とも安定したコンビネーションを見せた。チーム全体としては、第1戦同様にタイトな北朝鮮のマーキングにバタついたシーンもあったが、そんな時に長谷川は一人時間を使ってボールを落ち着かせることを心がけ「自分としてはすごく手応えのある試合になった」と、自信を覗かせ、短い準備期間での適応力の高さを発揮した。
いろんなサッカーができるチームに
そんな冷静沈着なプレーを見せる長谷川だが、ピッチ外で見せる着飾らない人柄や、お茶目な姿も魅力の一つ。
試合後の取材エリアにて、筆者も含め彼女を待ち構える報道陣の輪が3mほどの距離で二つできると、「えっ、どっちに行ったらいいかな!?どっちがいいですか?」と立ち止まり、はにかみながら目をキョロキョロと泳がせる。悩むこと約20秒、「ちょっとこっちにも行くので、待っててもらってもいいですか?」と声をかけ、二度取材対応をする心遣いを見せてくれた。長谷川がこの日唯一の「迷い」を見せた貴重なワンシーンだった。
取材が始まるとキリッと表情を変えた長谷川は、試合について「前半や後半の始めは守備でしっかりと寄せることができて、相手の動きを遅らせることができました。でも、後半は押し込まれてロングボールが続き、なかなか自分たちはセカンドを拾い切れなかった。あの時間帯にもう少し自分と(長野)風花がもっとボールに触るプレーができたらもっとチームは落ち着くし、後半もゲーム支配のところで優位に立てたはず」だと、90分間での収穫と課題を振り返る。
また、この第2戦は北朝鮮に合わせてフォーメーションを変えたことも功を奏し勝利をつかむことができたものの、「時間も短いですが、これから[4-3-3]ももっと突き詰めていかないといけない」と、相手との噛み合わせや怪我でのメンバー変更を考慮しながら、戦い方の幅を広げることへの意識を高めている。
「もちろん怪我人の選手たちの力は大きなものだったので、正直痛かったところがあります。でも、そのぶんチャンスが来た選手がたくさん良いプレーをしていましたし、他の選手とは違う特長を出してくれていました。チーム内の競争がさらに増えることはいいことだし、メンバーによって3バックも4バックを使い分けたり、ボールの回し方を変えたりしながら、いろんなサッカーができるようになれたら」と意気込みを語った。
オプションが増えるほど、どこで何をすべきか、どんなプレーを選択すべきか迷うこともあるかもしれない。
そんな時こそ、チームの心臓・長谷川唯が指針となり、なでしこジャパンの進むべき道を示してくれるだろう。
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