ヴィアマテラス宮崎
“不敗軍団”を牽引するストライカー|元女子日本代表・齊藤夕眞が見つけた最高の“居場所”
Writer / 増島みどり
ヴィアマテラスの強みはピッチの中だけではない。新設されたホーム・いちご宮崎新富サッカー場での開幕戦では「農家さんプレゼンツ」と銘打ったイベントも開催。新富町の名産であるピーマン、トマトなどを選手もスタッフも協力して袋詰めにして観客に配布、大好評を得た。
有料試合にもかかわらず1246人を集め、ホーム2戦目(3試合目)も1356人とし、これは現在行われているプロリーグ「WEリーグ」の一部観客数を上回る集客力でもある。コロナ禍で一度は沈滞しかけた「地域とスポーツ」の等身大の姿を示す意味でも、ヴィアマテラスの活躍は注目される。
ベガルタ仙台レディースやオーストラリアでのプレー経験を持つ嘉数飛鳥主将(かかず・あすか、35)は開幕前に行われた東京での会見に上京し、「スピードのあるサッカーが目標。攻撃面は自信があるし、粘り強い守備も見てもらいたい。昇格1年目だが優勝を目指している」と、力強く優勝を宣言。
齊藤夕眞は2戦目で2ゴールを挙げ「やっと点が取れて良かった」とほっとした様子だった。公表して初めて臨む1部での試合にほっとした様子だった。元の場所に戻って挙げた「初ゴール」は特別な感触だったに違いない。
それにしてもわずか2試合目で「やっと……」とコメントするなんて、目標の高さと同時に一体何点取る計算だろう。楽しみだ。
(第3回/全3回)
なでしこのトップに戻った充実感をかみしめ、点を取る
――いよいよ、なでしこリーグ1部が始まります。
昨年(2023年)末に皇后杯でなでしこリーグのラブリッジ名古屋(2-1)、ハリマ(ASハリマアルビオン、PKで敗退)と対戦できたのはチームとしても個人としてもとてもいい経験になりました。クラブのメンバーのうち1部のスピード感や当たりの強さを実際に知っている選手は10人ほどですから。ほとんどの選手が1部と2部の違いを経験していませんから、そこもあえて楽しみにしています。怖いもの知らずでぶつかっていく強さもヴィアマの良さです。
――齊藤さんは皇后杯で3試合5得点を取ってゴール数はトップでした。
上位のWEリーグはシードの分、自分たちよりも試合数が少ないですから、特に多く取った感覚はありません。それよりもなでしこ1部のチームと対戦しながら、自分としては、あぁこの強い当たりだよね、懐かしいなぁ、と感じましたね。自分を含めて経験のある選手はあの皇后杯で、1部で戦うスイッチが入ったというか気持ちが切り替わった。リーグ戦がスタートしても気後れする状況にはならないと思います。チームも順調に調整ができてシーズンに臨めそうです。
――それにしても2020年は九州リーグ2部、翌年1部でも全勝、なでしこ2部でも負けなし(4分け)と驚異の不敗です。
2年前(2022年の44回大会)、2回戦でスフィーダ世田谷に1-3で負けましたのでまずは開幕戦(3月17日)でしっかり勝ちたいと思っています。がむしゃらにやるしかありません。
――かつて、自分の立場を明確にすることで女子サッカーに失礼があってはいけない、と周囲を尊重し、代わりに自身の悩みを封印して引退した場所にまた戻るんですね。
本当にうれしいです。昨年2部で得点王(23点)とMVPを取らせていただきましたので、それに恥じないためにも1部で通用しなかったでは嫌なので、FWとして点を取ってチームの勝利に貢献していきたいと思います。
日本の女子サッカー、本当の「拡大」のために
日本では、東京五輪前の2019年、ドイツからなでしこリーグの「世田谷スフィーダ」に移籍した下山田志帆(29)が、現役では当時異例だった公表に踏み切った。
また、なでしこジャパンの横山久美(30)がアメリカの女子プロサッカーリーグ(NWSL)ゴッサムFCに在籍中に、下山田と同じく性自認は男性である「トランスジェンダー」を公表、バージニア州で女性パートナーと婚姻届けを提出した。昨年から、なでしこリーグ2部の湯郷Bellでプレーをしており、引退するまで治療は受けず「なでしこリーグ」でプレーをする意向を明確にしている。
2023年のサッカー女子W杯オーストラリア・ニュージーランド大会の際、「アウトスポーツ」というサイトがデータを公表した。W杯に出場する選手のうち、SNSなどを通じてLGBTQ⁺を公表した選手が96人おり、前回2019年大会の2倍で過去最多、アウトスポーツの調査では公表者だけでも出場選手全体の13%、約8人に1人にあたるという。
日本サッカー協会・宮本恒靖新会長は就任会見で特に重きを置く政策のひとつを「女子サッカーの拡大」と掲げ、2031年の女子W杯招致を目指すとしている。「拡大」には競技人口や大会数の増加が含まれるだろう。しかしそれだけではなく、なでしこリーグ、WEリーグと日本が世界に誇るプロ、アマ2つの女子サッカーリーグの「在り方」もまた、本当の意味での拡大の中核を担っていくはずだ。