安藤隆人
「早熟」と呼ばれた殻を破る泥臭い10番(山口豪太/昌平高校・2年)|春風が運ぶ新世代
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校サッカーでは毎年2月、3月に全国各地で新人戦や複数のチームによるフェスティバルが開催され、4月から始まる高円宮杯プレミアリーグやプリンスリーグ、各都道府県リーグに向けた強化と育成に励んでいる。今回は春のフェスティバルにスポットを当て、そこで目に留まった選手やチームをピックアップ。全10回に渡って選手の特徴や背景、強豪校の立ち位置や展望、取り組みを掘り下げていく。第4回は山口豪太(昌平高校・2年)を紹介する。
(第4回/全10回)
「早熟」の殻を破ろうとする選手
スポーツの世界では、この2つがリアルに浮き出る。早くからその才能を評価されるだけではなく、時には騒がれ“天才”という形容詞をつけられる。天才と呼ばれた才能が順調に育まれてその競技でトップを走ることは……残念ながら多くはない。
道半ばで自ら成長を遅めたり止めたりする選手もいれば、幼少期や中学、高校年代まではあまり注目されていなかったが、一気に頭角を表したりプロの世界で躍動したりして頂点まで登り詰める選手もいる。前者は早熟、後者が晩熟だ。
この現実は必然の流れなのだろうか。もちろん身体的な発達の差や、周りの影響もあるだろう。だが、重要なのは多感な10代で苦境に直面した時、、そこでベクトルを自分自身に向け、もう一度考えを深めたり自分のあり方を再確認したりできるかどうかではないだろうか。
まさに今、中学時代は眩いばかりの光を放ちながらも、高校進学年に大きな苦しみを味わい、そこから這い上がろうとしている選手がいる。
2年生ながら埼玉の強豪・昌平高校のエースナンバーの10番を背負うMF山口豪太は、自身の殻を破ろうとしている。
中学2年で10番を背負った男の挫折
「2023年はやれないことよりもやろうとしないことが多く、そのままでは成長しないと思った」
まずはこの言葉に至った経緯を説明したい。山口は昌平の下部組織にあたるFC LAVIDAで絶対的な存在だった。中学2年生から10番を背負い、ずば抜けた精度を誇る左足で相手の逆を突き、密集地帯も面白いようにすり抜けていくドリブルは中学年代では誰も止められなかった。
2021年の高円宮杯JFA第33回全日本U-15サッカー選手権ではクラブ史上最高の準優勝に大きく貢献すると2022年3月のJ-VILLAGE CUP U-18では当時中学2年生で昌平高校の10番を背負って出場。高校生を相手に4人抜きドリブルを披露するなどインパクト絶大のプレーで注目を集めた。さらに2022年のプリンスリーグ関東1部には中学3年生ながら昌平のトップチームの一員として出場するなど、昌平だけではなく世代有数の目玉選手となった。
鳴り物入りで高校に進学した2023年は6月のU-17アジアカップに出場し、圧巻のミドルで1ゴールをたたき出した。しかし、それ以降はプレーに精彩を欠くようになった。
「中2、中3では周りが自分に合わせてくれていたのが、高校になって自分が合わせないといけなくて、そこにうまく対応できませんでした」
自分中心のチームから全員が主役のチームになり、味方のためのフリーランニングやつなぎに関わる部分、献身的な守備など求められることが中学時代よりも一気に増えた。その要求に応えようとするが、どうしてもこれまでの自分の価値観を崩せなかった。
強引に自分の形にもっていこうとして、チームの流れを崩してしまうこともあった。レギュラーに定着できず、プレミアリーグEASTでは14試合に出場したが、出場時間は459分にとどまった。全国高校サッカー選手権大会の埼玉県予選決勝では先発出場するも、前半で交代。選手権も1回戦では先発を果たすが、プレーは前半のみ。2回戦と3回戦は出番がなく、0-4で敗れた準々決勝の青森山田戦では残り18分からの出場にとどまった。
心強くて脅威な選手になるために
「当たり前のように試合に出られていた立場から一気に出られなくなって、当然悔しい気持ちはあったのですが、それをうまく自分の力に変えられないまま時間が過ぎてしまいました」
失意のシーズンとなったが、選手権直後に参加したFC東京のキャンプで大きな気づきを得た。
「プロの人たちはみんなうまくてレベルが高いにも関わらず、身を投げ出すというか、ボールを奪うこと、ゴールを決めること、ゴールを守ることへの執着がすさまじかった。アタッカーはどんな形でもいいからゴールを狙わないといけないし、ディフェンスはなにがなんでも守らないといけない。当たり前のことですが、その意識が自分には全然足りていなかった」
さらに驚いたのは、練習でもトレーニングマッチでも選手たちが活発にコミュニケーションを取っていることだった。
「伝えるべきことはその場で伝える。僕は周りとコミュニケーションが取れていないからこそ、チームのためのプレーができていなかった」
形ばかりに気を取られて、サッカーの根本である“戦う気持ち”、“チームの勝利に貢献する”という姿勢に目を向けていなかった。目を向けていたつもりだったが、どこかで“自分が独りよがりになってしまい周りが見えていなかった。
大事なことに気づいた山口はチームに戻ると、積極的に仲間とコミュニケーションを取り、どうやったらより味方にとって心強く、相手にとって脅威な選手になれるかを考えた。そのなかでみえたことの一つが、ゴール前に飛び込んでいくプレーだった。
「仲間を信じてクロスに入っていけば、なにかが起こる。僕が飛び込むことで生まれたスペースを味方も狙いやすくなるし、相手のマークも混乱するし、なにより自分自身がゴールに近づける。昨年の僕だったらやっていないプレーでした」
2024年3月のJ-VILLAGE CUP U-182年前と同じように10番を託されてピッチに立つと、2日目の浜松開誠館戦の後半アディショナルタイムに左サイドからのクロスに飛び込んで劇的な決勝弾をたたき込んだ。
「気持ちがゴールを引き寄せることを実感するゴールでした。あのシーンではすでに飛び込んでいる味方がいたけど、その裏に飛び込めば絶対になにかが起こると信じて走り込んだからこそ、ボールがこぼれてきた。やっぱり僕には泥臭さが足りなかったんです」
苦しんだ1年で得た大きな気づき。自分にベクトルを向けて殻を破ったその先には、大きな未来が待っている。早熟とは言わせない。昌平の10番の誇りにかけて、山口豪太はさらなる飛躍の時を迎える。
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