憧れはモドリッチ、シズガク伝統の2年生10番(山縣優翔/静岡学園高校・2年)|春風が運ぶ新世代

安藤隆人

高校サッカー

2024.04.30

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憧れはモドリッチ、シズガク伝統の2年生10番(山縣優翔/静岡学園高校・2年)|春風が運ぶ新世代

安藤隆人

Writer / 安藤隆人

Editor / 難波拓未

高校サッカーでは毎年2月、3月に全国各地で新人戦や複数のチームによるフェスティバルが開催され、4月から始まる高円宮杯プレミアリーグやプリンスリーグ、各都道府県リーグに向けた強化と育成に励んでいる。今回は春のフェスティバルにスポットを当て、そこで目に留まった選手やチームをピックアップ。全10回に渡って選手の特徴や背景、強豪校の立ち位置や展望、取り組みを掘り下げていく。第5回は山縣優翔(静岡学園高校・2年)を紹介する。
(第5回/全10回)

シズガクの伝統の10番を継ぐ2年生

リズム・テクニック・インテリジェンス。高校サッカーの名門・静岡学園と言えば、ずば抜けた個人技をもつ選手がそれぞれのアイデアを自由に組み合わせて相手を翻弄するラテン系サッカーを展開することで知られている。

毎年、背番号10はその象徴的存在だ。過去を遡ると、大島僚太(川崎フロンターレ)や古川陽介(ジュビロ磐田)のような華麗なテクニシャンもいれば、旗手怜央(セルティック)、名古新太郎、松村優太(共に鹿島アントラーズ)のようにパワフルかつ技巧的なアタッカーなど個性派が揃う。

今年、伝統的な10番を長身ドリブラーのMF高田優(徳島ヴォルティス)から引き継いだのが、2年生のMF山縣優翔だ。

2023年に1年生ながらプレミアリーグEASTで8試合に出場したボランチは、167cmと小柄だが、広い視野と複数のアイデアをもちながら局面に応じたプレーができるフットボールインテリジェンスの高さが光る。

プレーを見ると、察知したスペースに鋭く入り込んだり、相手が食いついてきた瞬間に裏を取る形でゴール前に侵入したりして優位な立ち位置を取り続ける。ボールを受けたら鋭いターンで前を向いて展開したり、ワンタッチではたいて周りを使いながら前進したり、時にはボールをキープしてリズムチェンジするなど、1年生とは思えない落ち着きと引き出しの多さを見せていた。
実際に話を聞くと、冷静沈着なプレーとは裏腹に活発なサッカー談義を交わせるほど豊富なボキャブラリーと、内に秘めた情熱をひしひしと感じることができる。そんな山縣との会話から一番感じるのは、チームに対する献身的な姿勢だ。

「自分以外の周りの10人のサポートを常に意識しています。具体的に言うと、局面でトライアングルを形成する手助けをして、周りを動かしながら自分で運んだり、味方の選択肢を増やしたり。守備面でも周りに声を掛けて、自分のところに誘導して奪ったり、センターバックやサイドバックのところで奪えるようにしたりできるように意識しています」

自分の技術で局面を変えて決定的な仕事をするだけでなく、周りとリンクしながら全体をコントロールする。それは自分が輝くためではない。最優先にしているのは、チームとして機能するための手段を選び続けることだ。

チームの心臓として全員の力を引き出す

ハイレベルなプレーイメージをもっている山縣は、それを具現化するためになにを考え、どのように日頃のトレーニングを積んでいるのだろうか。

「僕は身体能力に優れていないので、小さい頃から先手、先手を打つようにしています。そのためには予測と決断が必要。ボールコントロールの練習でもミニゲームでも、常に頭を使って3つ、4つ先のことを予測しながらやっています」

普段の練習で言われた通りにやるのではなく、自分なりに練習の意味を見いだし状況変化を把握しながら対応する。

「ミニゲームや試合ではゴールの方を見れば、前の選手の配置がある程度は見えます。だからこそ、同じチームになった全員の特徴を理解して、『この選手はこう動くだろう、こう考えているだろう』と予測しながらプレーしています」

パス回しもただつなぐことを目的にするのではなく、どこに誰がいて、このパスを通したらどうなるのか、近くにいる選手に出すのではなく別のスペースに出してみたらどうなるのか。常に頭を働かせながらプレーの選択肢や現象を把握して蓄積していく。だからこそ、彼は1年生の時から川口修監督からの信頼を得て、試合に起用された。だが、全国高校サッカー選手権大会ではベンチ入りしながら出番は訪れなかった。

「まだまだ予測が外れることが多かった。2023年のチームは高田くん、神田奏真(川崎フロンターレ)くん、中村圭祐(東京ヴェルディ)くんとハイレベルな選手が揃っていて、動き出しの質やアイデアの量がすごくて、僕はその力を引き出すことがあまりできなかった。スペースを察知できなかったり、察知しても反応が遅れてスペースを埋められてしまったり。試合の最初のほうはできても、時間の経過と共にフィジカルが頭に追いつかなくなってうまくプレーできないことが増えてしまい、みんなに迷惑を掛けてしまったと思います。だからこそ、2024年は僕がこのチームの心臓というか、みんなの能力を引き出していかないといけない気持ちがあるので、技術面はもちろん、フィジカル面の強化もきちんとやって、川口監督をはじめとしたスタッフ、周りの選手たちの信頼をもっとつかまないといけないと思っています」

表情にはまだあどけなさが残る。しかし、山縣の口から出る言葉はどれもしっかりと自分を客観視していて、理路整然としている。「イニエスタ、モドリッチが大好きで、よくプレーを映像で見ています」と語る仕草は高校生という感じだったが、きちんと自分で考えながら周りの意見も取り入れているからこそ、頭の中が整理されているし、固定観念をもたずにアップデートに勤しみ続けられているのだろう。

「10番に恥じないようなプレーをしたい」

これまで受け継がれてきた系譜をしっかりと胸に刻んでアップデートを続ける山縣のプレーをぜひ一度、見てほしい。

「やはり静岡学園の10番は面白い」

そう思うプレーを見せてくれるはずだ。

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