安藤隆人
うまくて、速くて、多彩な選択肢をもつ左利きドリブラー(万代大和/岡山学芸館高校・2年)|春風が運ぶ新世代
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校サッカーでは毎年2月、3月に全国各地で新人戦や複数のチームによるフェスティバルが開催され、4月から始まる高円宮杯プレミアリーグやプリンスリーグ、各都道府県リーグに向けた強化と育成に励んでいる。今回は春のフェスティバルにスポットを当て、そこで目に留まった選手やチームをピックアップ。全10回に渡って選手の特徴や背景、強豪校の立ち位置や展望、取り組みを掘り下げていく。第6回は万代大和(岡山学芸館高校・2年)を紹介する。
(第6回/全10回)
ドリブラー“あるある”の壁を乗り越えて
2022年度の選手権王者である岡山学芸館高校に今、注目を集める2年生の左利きドリブラーがいる。
その名は、MF万代大和。右サイドでボールを持つと「ギュン」と音が聞こえるような加速で一気にドリブルを仕掛け、左足の柔らかいボールタッチで進路を細かく変えながら相手をかわしていく。カットインから放つ左足シュートの精度も高く、その切れ味はジャックナイフのようだ。
強烈な存在感を放つ万代だが、2023年までは無名の存在だった。2023年の岡山学芸館は選手権優勝メンバーを中心に激しいポジション争いが繰り広げられるなか、1年生ながら右サイドハーフで起用されてプリンスリーグ中国1部を経験した。しかし、ベンチ入りしたインターハイと選手権では出番が一度もやってこなかった。
その理由は、変化の乏しさだった。カットインは素晴らしい武器だが、カットインが持ち味の選手には”対策されやすい”という壁があり、万代もそこにぶつかった。
中学時代は右サイドとトップ下の2ポジションでプレーしていたが、右サイド寄りでプレーすることは多かった。武器である右サイドからのカットインを多用した結果、複数の選手にマークされながら縦突破を誘導されるようになった。
「自分のプレーがバレて対策されているにもかかわらず、突っ込んでいってしまうことがあった」
フィジカルも未熟だったため、ドリブルが引っ掛かるシーンが増えた。困難に直面したなかで冷静になるどころか逆に熱くなってプレーが雑になり、制御不能になって悪循環にハマることもあった。
「中学校の時はプレーにムラがあった。うまくいかないとすぐに怒ったりメンタルが乱れてしまったり。自己満足でドリブルをして、チームに迷惑を掛けてしまうことがありました」
プレーの波を解消しないと、上では通用しない。そう考えた万代は、自身の進路選択の基準をフィジカル面とメンタル面を強化できる場所に定めた。
「Jユースなどの選択肢もあったのですが、地元でもある岡山学芸館の練習に参加した時、サッカーはもちろん私生活もしっかりしていると感じた。ここで3年間を過ごせば、メンタルが強くなって自分の感情をコントロールしながらプレーできるようになるんじゃないかと思って決めました」
選手権優勝は入学を決めた後だった。「めちゃくちゃ興奮しましたし、岡山学芸館を選んで良かったと思いました」と、全国を制覇したチームに入るプレッシャーよりも、「そこでレギュラーになれたら(プロや大学の)チャンスは広がると思う」とワクワク感しかなかった。
だからこそ、高校1年生で中学時代と同じ壁にぶち当たっても、「成長するために必要なこと」と受け止めて、ひたすらドリブルを磨くことができた。
「左足を使うことが多かったので、右足でのボールタッチを常に意識するようになりました。縦突破が全然できなかったので、カットインを見せて縦、縦を見せてからカットインなどドリブルの変化を意識して練習してきました」
着実に己の武器を進化させた結果、2年生になった万代は爆発的なスタートダッシュを切った。
レフティが決めた右足のスーパーゴール
2024年3月中旬に広島で開催された中国新人大会では、万代の右サイドからのドリブルは無双状態だった。うまくて、速くて、多彩。相手サイドバックはもちろんのこと、ボランチやセンターバックまで引き出して翻弄した
初戦の鳥取城北戦でドリブル突破からPKを獲得して自ら決めると、準々決勝の高川学園戦でも2点に絡み、準決勝の玉野光南戦ではドリブルで仕掛けてワンツーから冷静に右足を振り抜いて同点弾をマーク。
瀬戸内との決勝戦では圧巻のスーパーゴールを見せた。2-1で迎えた後半10分、右サイドでボールを受けた万代は、大雨でスリッピーなピッチを物ともせず、細かいボールタッチを入れながら急加速してペナルティーエリア付近へ。
「中を狙っていたのですが相手に警戒されていた。縦を見てもスペースが空いていなかったので、寄って来てくれていた池上(大慈)選手とのワンツー突破を狙いました」
中が詰まっていることを判断すると、フェイントで縦の進路を塞いでいたDFをピン留めしてから池上にボールを預け、DFの裏のスペースに潜り込んで、池上からリターンパスを受けた。
さらに「そのままシュートを打とうと思ったのですが(DFが)ターンして寄せて来たので、中に行くフリをして縦に持ち出してから狙おうと思った」と、左足で縦にボールを運ぶと、右足を一閃。矢のようなシュートはGKとニアポストの間を破ってゴールに突き刺さった。
「このゴールは自信になります」
岡山学芸館の5大会ぶり2度目の中国新人大会制覇を決定づけたゴールは、彼にとってこの1年間の努力の証となる重要なゴールだった。
「ドリブルはもっと進化できる。右足の使い方がもっと向上すれば、もっとスピードが増せば、もっと良くなる。ここで満足することなく上を目指していきたいと思います」
まだまだ壁を突き破ったとは言えない。
ドリブラーとして生きていく以上、相手のレベルが上がれば上がるほど、同じ壁にぶつかる。だが、壁と向き合って一つずつやれることを増やす過程と成功体験こそが、自分自身を高みへ押し上げる土台となる。成長の階段を着実に上がり始めているからこそ、これからがさらに楽しみだ。「万代大和」という名前を、ぜひ覚えておいてほしい。