安藤隆人
偉大な先輩・ 谷口彰悟&植田直通を追う190cm大型CB(五嶋夏生/大津高校・3年)|春風が運ぶ新世代
Writer / 安藤隆人
Editor / 難波拓未
高校サッカーでは毎年2月、3月に全国各地で新人戦や複数のチームによるフェスティバルが開催され、4月から始まる高円宮杯プレミアリーグやプリンスリーグ、各都道府県リーグに向けた強化と育成に励んでいる。今回は春のフェスティバルにスポットを当て、そこで目に留まった選手やチームをピックアップ。全10回に渡って選手の特徴や背景、強豪校の立ち位置や展望、取り組みを掘り下げていく。第8回は五嶋夏生(大津高校・3年)を紹介する。
(第8回/全10回)
プロ注目の190cm万能型CB
熊本県立大津高校。公立高校でありながらユース年代最高峰の高円宮杯JFA U-18プレミアリーグWESTに参戦し、土肥洋一、巻誠一郎、谷口彰悟、植田直通と、ワールドカップに出場した4人の日本代表を輩出している強豪中の強豪だ。
「公立の雄」と呼ばれる大津高校は土のグラウンドだが、広大な面積を誇るグラウンドの端には前述したOBたちの巨大な弾幕がある。プレー姿が描かれたそれぞれの弾幕には、その選手を表すフレーズが描き込まれている。
土肥は『要』、巻は『進化』、谷口は『不動心』、植田は『闘争心』。威風堂々とした弾幕は、現役高校生にとって大きな刺激であり、目指すべき姿であり続けている。
「朝練の時に(弾幕を)必ず見るのですが、見るたびにスイッチが入るんです。『あそこに張り出されるような選手になりたい』と常に思いながらプレーしています。はっきりと目に見える目標がいつもグラウンドにあるので、大きな刺激になっています」
こう語るのは、2024年のキャプテンを務めるセンターバック・五嶋夏生。彼こそ、このコラムの主役である。
1年時からスタメンを張っている五嶋は190cmの圧倒的な高さを誇り、正確な縦パスでビルドアップの中心でもある万能型CBだ。2023年から谷口、植田などが背負った堅守・大津高の象徴である背番号5を託され、すでにJ1・北海道コンサドーレ札幌の練習に参加するなど、プロ注目の存在だ。
最高のお手本に学んだ高1時代
「熊本で生まれ育ったので、小さい頃から全国で活躍する大津はずっと憧れの存在でした。中学の時に県外のJユースに進むことも考えたのですが、僕に足りない部分はパワーとリーダーシップで、フィジカルとメンタルを身につけるために大津を選びました。その決断を下した時に『大津でCBをやるなら5番を着けさせてもらえるような選手になる』と覚悟を決めました」
1年生の時は碇明日麻(水戸ホーリーホック)とCBコンビを組んだ。FW、トップ下、ボランチ、CBとセントラルポジションならどこでもこなせる碇というトッププレーヤーと共にプレーしたことで、多くの学びを得た。
「明日麻さんは本当に頭が良くて、どのポジションでもやり方ややるべきことを理解してプレーしていましたし、なによりリーダーシップがすさまじかった。追いつきたいし、刺激になる先輩で、今も最高のお手本にしています」
2023年、チームの基本布陣が4バックから3バックに変わったこともあり、碇がインサイドハーフにポジションを上げ、五嶋がDFリーダーとして3バックの右でプレーするようになった。
「役割は変わりましたが、3バックの右になったことで得意のビルドアップ面でアイデアを出せる機会が増え、より攻撃の起点になることを意識してプレーを磨くことができました」
4バックの真ん中でチャレンジ&カバーとラインコントロールを、3バックの右でビルドアップとウィングバックの裏のケアやボランチのサポートなど足元の技術とポジショニング、連係する力を積み上げた。
2023年度のインターハイでは市立船橋のエースストライカー・郡司璃来と激しいマッチアップを見せた。郡司の仕掛けに対しても臆することなく鋭い寄せとハイレベルな駆け引きを仕掛け、ビルドアップの際は碇の動きを見逃さずに正確な縦パスを打ち込み、攻撃を活性化させた。
この頃にはプロのスカウトからも「かなり面白い」という声が聞こえてくるようになった。プレミアリーグWESTでは全試合フル出場を達成し、選手権ではチームは3回戦で敗れるも、大会優秀選手に選出。その後は前述したように、札幌の熊本キャンプにトレーニングパートナーとして約2週間参加し、この世代トップクラスのCBとして注目を集めるようになった。
高卒でプロになり、次は自分が憧れの存在へ
そして、キャプテンとして迎えた最終学年。3月のPUMA CUP U-17 in SAKAIでは4バックのCBとしてラインを統率する五嶋の姿があった。ボールを受ける前に縦を見て、ファーストタッチの仕方を選択し、ボールを受けたら質の高いパスで攻撃のスイッチを入れる。守備でも1対1はもちろん、素早いカバーリングで最終ラインを安定させた。五嶋の活躍もあってチームは京都サンガU-18に3-0、前橋育英に6-0、履正社に8-0、西武台との決勝は3-1と、4試合1失点で優勝。4月に開幕したプレミアリーグWESTでも好発進を切っている。
「シンプルに1対1で負けない強さ、ヘディングで負けない強さがもっと必要になってくると思う。ビルドアップで相手にパスを引っ掛けてしまう時がまだあるので、もっと質にこだわってやっていきたい」
朝練に行けば、いつものように谷口や植田が“無言の”エールとプレッシャーで、五嶋を鼓舞する。
「ビルドアップは谷口さんを、ヘディングは植田さんを参考にして、よく映像を見ています。谷口さんのクレバーさ、植田さんのパワーと威圧感。両方を兼ね揃えた選手にならないと、2人を追い越すことはできません。サイズが必要とされるセンターバックというポジションで、190cmという高さをもっているからこそ、そこに甘えずにすべてのレベルを上げていきたいと思います。常に2人の目があるからこそ、僕は高卒プロに向けて、その先で活躍する未来に向けて毎日を過ごすことができています。本当に恵まれた環境だと思います」
いつしかあの幕に自分のプレー姿が記され、後輩たちにエールを届けられるように。明確な目標をもつ五嶋の成長物語は、まだまだ始まったばかりだ。
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